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なぜあの上司の言葉だけ胸に残るのか 信頼を生む1on1の本質

上林周平([株]NEWONE 代表取締役)

「部下の心を動かす~」

同じ言葉でも、なぜか心に響く人と響かない人がいる。その違いを生むのは話術ではなく信頼だという。相互理解を深める対話の技術を解説してもらった。

※本稿は、上林周平著『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「この人に言われた言葉だけ、不思議と胸に残る」のはなぜか

「この人に言われたからこそ、腹落ちした気がする」

そんな経験をしたことはないでしょうか。同じ内容でも、ある人の言葉はすっと心に入り、別の人の言葉はどこか他人事のまま流れていく。こうした違いを生むのは、話し方の巧拙や立場の強さではなく、「この人は自分を理解してくれている」という感覚、つまり信頼です。

心理的所有感の理論では、この信頼の源泉の一つとして「知識」が挙げられています。ここでいう知識とは、情報量のことではありません。

「相手の価値観や背景を知っている」「自分のことも理解されている」という、自分と相手の相互間の理解の深さを指します。この深さがあるほど、人は相手の言葉を前向きに受け取り、自分ごととして行動につなげやすくなります。

しかし現実には、忙しい毎日の中で、この「知識=相互理解」は意識的に育てなければ積み上がりません。近況を聞くだけの1on1では本質に触れられず、正論だけを積み重ねても距離は縮まりません。だからこそリーダーには、「相手の内面を知り、こちらの内面も伝える」という対話が欠かせないのです。

本章では、そのための具体的な方法を紹介していきます。部下の価値観に深く触れる「ハッと1on1」、ビジョンの背景にある〝なぜ〞を語り共感を生む「Why話法」、そしてメンバー同士の違いを見える化する「価値観見える化法」。これらはすべて、信頼のもととなる相互理解の質を高めるためのアプローチです。

 

1on1は「雑談の延長」ではない

具体的にどのような方法で取り組むのか。まず有効なのが「1on1」です。

日本でもここ数年で一般化してきたこの取り組みを、リーダーとメンバーの関係性を深める時間として設計します。特にまだ関係性が浅い部下、転入してきたばかりのメンバー、新卒社員などとは、初期段階で1on1の機会をできるだけ多く設けていきましょう。

1on1はここ数年で一般化しましたが、「何を話せばいいのかわからない」「毎回、近況報告などの雑談で終わってしまう」という声は今も多く聞こえてきます。その理由の一つが、1on1の〝目的〞を誤解したまま進めてしまっていることにあります。

1on1の本質的な目的は、信頼を土台に「その人の内側に触れる対話」へ少しずつ踏み込んでいくことにあります。

もちろん、最初から重いテーマを切り出す必要はありません。

特に関係性が浅い段階では、簡単なアイスブレイクや近況の共有は大切です。緊張がほぐれ、「ここでは安心して話せる」という空気ができてこそ、本音の対話が生まれるからです。ただし、ここで終わってしまうと1on1は単なる雑談になってしまいます。

そこで初期の1on1では、近況に続いて次のような〝価値観にハッと気づく質問〞を差し込むことが効果的です。(私は「ハッと1on1」と呼んでいます。)

■「○○さんにとって、どんなときに〝働く充実感〞を感じますか?」
■「スキル・仲間・社会貢献など、特に大事にしたいのはどれですか?」

いきなり価値観だけを聞くのではなく、たとえば、
アイスブレイク→最近の出来事→そこにある価値観の整理
という段階を踏むことで、自然に深い対話へ移れます。

近年では昇進よりも、スキルを身につけたい/社会課題を解決したい/良い仲間と働きたいといった「心理的成功(自分にとっての充実・幸福)」を軸にキャリアを考える人が増えています。これは「プロティアン・キャリア」と呼ばれる新しいキャリア観です。

だからこそ、この「価値観への理解」が早い段階でできると、その人への関わり方・任せ方・支援の方向性が格段に明確になっていきます。

プロフィール

上林周平(かみばやし・しゅうへい)

㈱NEWONE 代表取締役

大阪大学人間科学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。BPRや民営化に関するコンサルティングに従事。2002年株式会社シェイク入社。人材育成事業の立ち上げを行い、商品開発責任者として従事。2015年代表取締役副社長に就任。2017年9月エンゲージメント向上支援を目的に、株式会社NEWONEを設立。著書に、『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)などがある。

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