THE21 » 甲子園7回制は誰のため? 危惧すべき「人材流出」と「文化否定」の未来

7イニング制の導入は、
※本稿は、ゴジキ著『システムで読む甲子園 25年分のデータで解き明かす「勝利と成長」の条件』(カンゼン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
現在、大学野球、社会人野球、そしてプロ野球(日本のNPBやアメリカのMLB)に至るまで、世界の主要なトップカテゴリーは例外なく9イニング制を採用し続けている。
高校野球だけが独自に7イニング制へ移行した場合、高校球児は次のカテゴリーへ進学・入団する際に「未知の2イニング」への適応という巨大な壁に直面することになる。
とりわけ投手にとって、7イニングを前提として身体を作り上げるスタミナ配分と、9イニングを投げ切る、あるいは終盤の最もタフな場面でリリーフ登板するスタミナとでは、要求されるフィジカル能力やペース配分のロジックが根底から異なる。
結果として、将来プロを目指すような有望な才能を持つ選手たちが、高校の部活動という歪な枠組みを避け、9イニングで継続して試合が行われる独立リーグのユース組織や、クラブチームへと流出する可能性が強く指摘されている。
これは、高校野球全体の競技レベルの低下と、人材の空洞化を招く深刻な事態である。
高野連のワーキンググループは、導入の根拠の一つとして「WBSC(世界野球ソフトボール連盟)などの国際基準に対応できる」点を挙げている。
確かにWBSCはU‐18などの国際大会で7回制を導入しているが、その背景には、オリンピック種目として生き残るための「放送時間の厳格なパッケージ化」と、野球後進国が強豪国に対して番狂わせ(ジャイアントキリング)を起こしやすくするための「戦力差の圧縮」という、極めて政治的かつ戦略的な意図が存在する。
日本の高校野球は、全国に数千の加盟校を持ち、世界でも類を見ない特異な発展を遂げた巨大な国内エンターテインメントであり、圧倒的な競技人口と選手層の厚さを誇る。
この充実した独自の生態系に対して、競技の普及途上にある国々を救済するために作られたWBSCの基準を無批判に適用することには、強い論理的矛盾が生じる。国際基準という名目に安易に追従することは、日本が独自に築き上げてきた高度な野球文化の自己否定に他ならない。
9回制の環境下では、先発投手が1試合を完投した場合の球数は、平均して120球から140球程度に達する。
大会期間中、特に過密日程となる地方大会の終盤や甲子園において、この「1週間で500球以内」という制限枠に抵触せずに勝ち上がるためには、一人の絶対的なエースに頼り切ることは物理的に不可能であった。
結果として、各チームは複数の投手を育成し、細かくイニングを刻む「複数投手制」や「小刻みな継投策」を強いられ、これが近年の高校野球における戦術の基本トレンドとして定着しつつあった。
しかし、7回制となればこの前提条件が劇的に変化する。7イニング制において、先発投手が1イニングあたり13球から15球のペースで投球した場合、完投に必要な球数は約90球から105球程度に収まる可能性が高い。
これは、週に500球という制限枠内において、一人の投手が先発・完投できる試合数が飛躍的に増加することを意味する。
具体的に計算すれば、1試合90球で完投できるのであれば、1週間で最大5試合に登板することが理論上可能となってしまう(90球×5試合=450球〜500球制限)。
すなわち、7回制と球数制限の組み合わせは、皮肉なことに「複数の投手を育成して負担を分散する」という近代的なトレンドを逆行させ、再び「一人の傑出したエース投手がすべての試合を投げ抜く」という旧来の属人的なスタイルを助長・復権させる危険性を秘めているのである。
これは、投手の健康を守るという本来の目的に対して、完全に逆効果(意図せざる結果)をもたらす矛盾である。
一方で、投手陣の層が厚く、複数の実力ある投手を抱える強豪校においては、21アウトという短いイニングを逆手に取った、プロ顔負けの先鋭化された継投策が誕生する。
9回制では、先発投手が最低でも5回から6回まで試合を作り、試合の主導権を握らなければ、リリーフ陣の負担が過大となり試合が崩壊するリスクがあった。
しかし7回制においては、先発投手が「最初の3回(わずか9アウト)」を全力で抑えきれば、試合はすでに半分終了したことになる。
このため、長いイニングを投げるスタミナには欠けるものの、立ち上がりから圧倒的な球威と変化球を持つ投手を先発させ、短いイニングで交代させる「ショートスターター」や「オープナー」という戦術が、高校野球レベルでも極めて有効に機能し始める。
残りの4イニング(12アウト)の処理についても、二人のリリーフ投手が2イニングずつ担当する、あるいは一人の絶対的なクローザーがロングリリーフとして最後まで投げ切るといった戦術が定石化する。
「3回・2回・2回」といった極端に短いスパンでの分業制が確立されれば、各投手はスタミナのペース配分を一切考慮する必要がなくなり、対峙する全打者に対して最初から最後まで全力投球を行うことが可能になる。
結果として、打者にとっては常にフレッシュで最高球速の投手を相手にしなければならず、打線の繋がりが分断され、ロースコアで膠着した試合展開が頻発することがデータおよび戦術的観点から強く予想される。
更新:07月26日 00:05