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「健康のために歩く」が危ないことも? 夏のウォーキングで知っておくべきリスク

2026年07月16日 公開

吉原潔(整形外科専門医)

体力

整形外科専門医の吉原潔氏は、「体力の根幹となるのは筋肉しかない」と指摘します。筋肉が衰えれば、立つ、歩くといった基本的な動作さえ難しくなるからです。しかし筋肉量は、年齢を重ねるにつれて少しずつ減少していきます。「体力づくりのためにウォーキングをしている」という人も少なくありませんが、吉原氏によると、ウォーキングだけでは筋肉を十分に強化する効果は期待しにくいといいます。

年齢とともに減っていく筋肉量と、ウォーキングの限界について、書籍『疲れない、回復できる、速く・長く歩ける 体力低下を食い止める30秒習慣』より解説します。

※本稿は、吉原潔著『疲れない、回復できる、速く・長く歩ける 体力低下を食い止める30秒習慣』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

20歳をピークに筋肉は減少する

「若い頃に1か月間入院したんですけど、退院してズボンをはいたらブカブカでした。寝ているだけで、やせるのですね」

そう言うのは、今は40代後半の女性。残念ながら......寝ているだけでやせたには違いありませんが、筋肉も減ってしまい、やせ衰えてしまったのです。

× 寝ているだけで、きれいにやせた
〇 寝ているだけだから、筋肉が短期間で一気に減り、やせ衰えた

実際は、こういうことです。

寝たきりになると、真っ先に減るのは、手足の筋肉(脂肪も減ります)。絶対安静(寝たきり)の状態になると、筋力は1週間で10~15%、3~5週間でなんと50%も失われてしまうのです。

例えば、10kgの荷物を軽々と持ち上げることができる筋力を持っていた人が病気になって3週間程度、ほぼベッドの上で生活したとします。すると、回復後には5kgの荷物を持ち上げるのがやっと、という状態になってしまうということです。

なぜ、こんなに急速に筋肉が落ちてしまうと思いますか?

犯人は「脳」です。脳はとても出来のいい臓器で、それぞれの臓器に優先順位をつけ、生きるために絶対に必要な臓器はなんとしてでも守ろうとします。

実は、筋肉は優先順位が低いのです。筋肉は人体で最大の熱産生臓器で、筋肉を維持するには、常にエネルギーを必要とします(医学的には、筋肉は臓器として位置づけられています)。

病気などで、栄養からエネルギーがとれないときは、まず脂肪がエネルギーとして使われます。それと同時に、体のエネルギー消費は「省エネモード」に切り替えられます。

筋肉は、たくさんのエネルギーが必要な"燃費の悪い"臓器ですから、筋肉もエネルギー源として使ってしまい、脳がわざと筋肉量を減らすのです。

では、寝たきりでなければ筋肉量が維持できるのか? というとそれは"NO"です。
悲しいことに、何もしなければ筋肉は1つ年をとるごとに、1%ずつ減っていくと言われています。

筋肉量のピークは20歳頃で、そこから加齢とともに徐々に減少していきます。特に衰えやすい下半身の筋肉で見ると、個人差はありますが、50代から減少のスピードが加速し、年間0.5〜1%ずつ減っていくことも珍しくありません。

このペースで何もしないまま放置すれば、80代を迎える頃には、筋肉の量や質がピーク時の6割から7割程度にまで低下してしまうリスクがあります。

ここまで残念な話しかしてきませんでしたが、絶望する必要はありません。筋肉は何歳であっても、鍛えて復活させられるという側面があるからです。特に骨格筋は、年齢にかかわらず、筋トレで刺激を与えると、やがて筋肉量が増え始め、筋力も高まっていきます。これは朗報ですね。

体力を線香にたとえると、努力しだいでは、燃え尽きそうな線香でも、長さを継ぎ足せるということです。

 

ウォーキングには筋肉を強化する効果が少ない

「体力をつけるために、ウォーキングをやっている」

そんな方は多いでしょう。

たしかに、歩くことが体力づくりに効果的であることに間違いはありません。なかでも、体力のうち持久力をつけるには最適です。

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動·運動ガイド2023高齢者版」には、このようなことが書いてあります。

「健康を保つために必要な身体活動の目安は、1日約6000歩以上」

家事などの生活活動は、約2000歩に相当します。残りの約4000歩は、どうするか。

「毎日40分以上の歩行(約4000歩に相当)を行うことを推奨」だそうです。

もう一度くり返しますね。

「毎日40分以上の歩行を推奨」です。どうですか? すでにウォーキングをやっている方は、毎日40分以上歩いていますか? まだやっていない方は、これから毎日40分以上歩けそうでしょうか?

これはちょっと、気合いと努力が必要そうです。

それから、体力の根幹は筋肉だとお話ししました。筋肉が足りないと、ウォーキング中につまずいたり、転倒したりして、ケガの危険が高まります。

特に、お尻や足の筋肉が少ない方は、段差などでつまずいたときに、ふんばりがきかずに転倒しやすいので注意が必要です。持久力がないと息切れもしやすいので、ひどいときは体が酸素不足になってふらつき、それも転倒につながる恐れがあります。

もちろん、何もせずに家でゴロゴロしていることほど、体力低下に直結する習慣はありません。一方で、ウォーキングは体力を向上する習慣の1つであることに疑いはありません。

ただ、残念ながら、ウォーキングには筋肉を強化する効果が少ないのです。

ほかにも、屋外を長時間にわたって歩くことには熱中症の危険が伴います。真夏だけの話ではありません。特に、筋肉量が不足している人ほど、熱中症に注意しなければなりません。実は、筋肉は水の貯蔵庫でもあるのです。

・筋肉が多い人=体の中に容量の大きな水筒を持っている
・筋肉が少ない人=体の中に容量の小さな水筒しか持っていない

こう思ってください。筋肉量の少ない人は体内に水分をためておくことができないため、熱中症になりやすいのです。

くり返しますが、健康づくりのために歩くことは、とてもよいことです。でも知っておいてほしいのは、「安全に歩く」のは想像以上に体力がいるということ。

体力に自信がない、日頃からつまずく、という方は、まずは筋肉づくりからスタートして「運動をするための体力」をつけることが先決。体力づくりの近道は、結局のところ筋肉を増やすことしかないのです。

 

プロフィール

吉原潔(よしはら・きよし)

整形外科専門医

整形外科専門医・フィットネストレーナー。医学博士。アレックス脊椎クリニック名誉院長。日本医科大学卒業後、同大整形外科入局。帝京大学医学部附属溝口病院整形外科講師、三軒茶屋第一病院整形外科部長、アレックス脊椎クリニック院長を経て、2024年より現職。日本整形外科学会専門医、日整会内視鏡下手術・技術認定医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会( NESTA)公認パーソナルフィットネストレーナー、食生活アドバイザー。運動療法や筋力トレーニングにも精通した医師として、多角的な診療に定評がある。トレーナーとしての信条は「ケガをしないトレーニング方法を指導すること」。50歳を過ぎてから筋トレでメタボ体型を脱し、ボディコンテストに出場、受賞歴多数。著書に『ドクターズスクワット 医者が考案した「30秒で運動不足を解消する方法」』『疲れない、回復できる、速く・長く歩ける 体力低下を食い止める30秒習慣』(ともにアスコム)などがある。

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