
異なる背景を持つメンバーが集まる「多彩チーム」。それによって得られるメリットについて、1つ1つ詳細に解説。堀田創、水野貴明両氏の著書『まとまらないチームのまとめ方』(翔泳社)より紹介する。
※本稿は、堀田創、水野貴明著『まとまらないチームのまとめ方』(翔泳社)より内容を一部抜粋・編集したものです。
AIは急速に発展し私たちのやりたいことを軽々とサポートしてくれるようになっています。と同時に、AIはあくまで使い手の想像力を超えられません。人間が「こんなものをつくりたい」「こういう世界を築きたい」という意志とビジョンがなければ、AIはただの道具にとどまってしまいます。
だからこそ、「チームでなにかをつくり上げる」ことの価値がさらに大きくなる時代になります。誰かひとりの想像力を超えてイノベーションを生むためには、多彩チームのメンバーがそれぞれ想像もしなかったアイデアをぶつけあうことが欠かせません。
多彩チームではプロダクトのアイデアに対して、さまざまな価値観で評価できるようになります。その結果、多様なペルソナの「当たり前」が議論の俎上に上がるようになります。
日本国内での開発プロジェクトにおいて、ウェブサイトに表示する文字の大きさを議論したときのことです。若手エンジニアの渡辺は大きなディスプレイにできるだけ小さな文字で情報を詰め込むスタイルで仕事をするので、文字はできる限り小さい方がよい、現在は文字が大きすぎるから使いづらいと主張しました。
筆者は文字はある程度大きい方が見やすいと思っていましたし、情報を詰め込んで表示するという使い方はまったく想定していなかったので、自分の視野の狭さに気づかされることとなりました。同じ日本人で同じエンジニア職であっても感じ方の違いはあるのですから、職種や文化・価値観が違えばなおのこと、さまざまな違いが出てくるはずです。
自分の思考の殻を打ち破り、他者への想像力を働かせられるようになり、結果として包容力のあるプロダクトをつくれるようになるのです。
また多彩チームでは同調圧力がかかりにくく、反証・反論が出やすい環境にもなるため、拙速な合意や安易な楽観視を抑制できることも期待できます。
多彩チームであれば、当然「外国人の採用」についてもハードルが低くなります。
たとえばソフトウェアエンジニアは、よい人材を確保するのが非常に難しいといわれてきました。しかし、日本国外に目を向ければ、より多くの人材を探すことができます。
実際、筆者はロシアや中央アジア、ネパールなどでソフトウェアエンジニアの採用活動を行い、多くの優れた人材を確保してきました。さらに、優秀な人材は多くの優秀な人材とつながっています。多彩チームのメンバーが新たな人材を連れてきてくれるのです。
単彩チームでは、メンバーそれぞれが比較的似たような価値観や能力をもっているため、コンテクストは自ずと共有されている状態になりやすい傾向にあります。しかし多彩チームでは、そう簡単ではありません。多彩チームにおけるリーダーの役割は、まさにコンテクストの合意・共有です。
多彩チームでコンテクストをあわせるには暗黙知を言語化せざるを得ず、その「合意されたコンテクスト」が手順・原則として文書化されて蓄積されていくことになります。その結果、オンボーディングや組織拡張の再現性が高まり、より安定したチーム運営を行えるようになります。
本書でも繰り返し述べていきますが、多彩チームでは暗黙の了解はチーム運営の大きな障害となるため、必然的に言語化が進んでいきます。そしてそのこと自身が、チームをさらに強くするための大きな資産となるのです。
多彩チームの究極系は、日本に住む外国人をメンバーにするどころではなく、外国に住む日本人や外国人もメンバーとして迎え入れられる状態です。
パキスタン、日本、アメリカの3か国にいるメンバーで共同プロジェクトをやっていたときのことです。アメリカ西海岸とパキスタンでは12時間の時差があったため、リモート会議の時間をパキスタンは朝8時、日本は昼12時、アメリカは夜8時に設定しました。
たとえばコールセンターでは、世界中に拠点を置いて24時間対応を実現しているところがありますが、プロダクト開発においても、アメリカ西海岸でのタスクが終わったあとに、パキスタンで引き継ぐことでチームとして24時間稼働できる、といった効率化が図れます。
正月や祝日も国によって異なり、たとえば1月1日は休日でも1月2日から通常業務するところもあります。筆者はかつて正月気分に浸っていた1月2日に「今日の定例会議、はじまってるから早く来て」とパキスタンのメンバーから連絡があり、冷や汗をかきましたが、このことを逆手に取れば、祝祭日の違いを利用して効果的なタスク配分もできるでしょう。
また補足的なことですが、多様な国のメンバーからなるチームで働いていると、紛争や内戦、政変や災害の影響でメンバーと連絡が取りづらくなったりすることも起こりえます。
筆者もこれまで、ロシア、ミャンマー、エチオピアなどにいたチームと連絡が取りづらくなったり、送金が難しくなったりした経験があります。もちろん平和が一番なのはいうまでもありませんが、チームがさまざまな地域に分散していれば、プロジェクトが止まってしまうリスクを抑えることができます。
さてここで多彩チームにおいて、コンテクストの共有がうまく行えていない場合のことにもふれておきましょう。
コンテクストがそろっていないと、メンバーそれぞれが自分のもっている文化・価値観で判断して動いてしまい、チームとしてのまとまりがない状態となってしまいます。
もちろん明らかにメンバー間の衝突をしている場合もありますが、表面上なんとなく当たりさわりない会話をしながらも、相互にそれほど信頼していない、という場合もよく見かけます。こうした場合、多彩チームとしてのメリットを活かすことができません。
これはいわば雑多チームともよぶべき状況といえます(図)。雑多チームでは、リーダーや調整の得意な人が調整役を担い、メンバー間の齟齬を解消していくようなマネジメントが行われることになります。
しかしコンテクストの共有ができていないと、こうした調整にかけるコストがとても高くなってしまうのです。

更新:04月13日 00:05