
止まらない円安と、生活を圧迫し続ける物価高ーー連日のように「為替介入」や「金利引き上げ」など、政府や日銀の対策が報じられていますが、果たしてこれらの政策は私たちの暮らしにどう影響するのでしょうか。本稿では、現在の経済状況を整理し、日銀の政策が抱えるジレンマを分かりやすく解説。藤巻健史氏は「インフレを抑制すべき日銀が政策金利を大幅に上げることができず、高インフレ、物価高が続く可能性が高い」と言います。
なぜ、日銀は政策金利を上げられないのか、円安はなぜ止められないのか、解説して頂きます。
※本稿は、藤巻健史著『物価高・円安はもう止められない! 政府と日銀がひた隠す日本経済の不都合な真実』(PHPビジネス新書)の内容を一部抜粋・再編集したものです。
私は、2026年以後、長期金利も上がりますが、物価がさらに高騰し、多くの人の生活が一層苦しくなるのではないかと憂慮しています。
第一の理由は、円安の進行が止まらないと思うからです。円安を抑制する方法としては、まず政策金利を上げることが考えられます。
25年12月、日銀は政策金利を0.5%から0.25%引き上げ、0.75%にしました。政策金利が0.75%になるのは、1995年9月以来、約30年ぶりのことです。
しかしそれでも、日本の政策金利は主要各国に比べればまだまだ低く、アメリカは3.5~3.75%、EU2.15%、イギリス3.75%、中国3.0%です。
年国債の長期金利(年利回り)も比較すると、日本約2.0%、アメリカ約4.1%、EU約2.85%、イギリス約4.5%で日本が最も低いことがわかります。
政策(名目)金利からインフレ率を引いた実質金利についても比較してみましょう。
日本のインフレ率は2.9%なので、0.75-2.9=▲2.15%
アメリカ3.5~3.75-2.7=0.8~1.05%
EU2.15-2.1=0.05%
イギリス3.75-3.2=0.55%
中国3.0-0.7=2.3%
実質金利がマイナスなのは日本だけです。物価が上昇しているときに、実質金利を低く抑える政策がとられることは通常ありません。実質金利を低く抑える金融政策がとられるのは、大不況のときです。
「物価を上げよう」「景気を良くしよう」ととられる政策なので、インフレ時に行うと景気が過熱してしまいます。
また、日銀の最大の役割は、物価上昇、つまりインフレをコントロールすることであり、かつての日銀なら、物価が上昇しそうだと思ったら早め早めに予防的に政策金利を少しずつ引き上げ、金融引き締めに動きました。
同様に、現在の日銀も政策金利を引き上げて実質金利をプラスにすべきなのですが、そこまで金利を上げると、長期国債を大量保有する日銀の財務損失が莫大になり、その結果、日銀が債務超過に陥ってしまいます。だから、金利を上げられない。金利を上げられなければ、円安が無限に続き、物価上昇が大幅に加速します。
日銀が政策金利を上げれば、財務損失が増えて債務超過になり、信用が失墜し、ハイパーインフレになる。一方、政策金利を現在のまま維持すると、実質金利マイナスの状態が続くので円安がどんどん進み、物価もますます高騰していく。
まさに、「前門の虎、後門の狼」。日銀と日本経済はにっちもさっちもいかない、かなりヤバい状況に追い込まれています。
円安抑制のために政策金利を上げられないとすると、円安抑制手段としてほかに考えられるのは「為替介入」ぐらいしかありません。
2026年に入ってからも円安の進行が止まらず、それを見た片山さつき財務相は、「あらゆる手段を含めて断固たる措置をとる」と述べました。この「断固たる措置」が、政府の為替介入を意味しているのは周知の事実でしょう。
では、為替介入を行えば、円安を止めることができるのでしょうか。私はかなり懐疑的です。加えて、そもそも為替介入に使えるドルが十分にあるとも思えません。
財務省が発表している25年末の外貨準備高は、約1兆3700億ドル。このうち約1兆ドルは米国債を中心とする証券です。これを売ってドルを確保することはできません。なぜなら、アメリカの長期金利が上昇してしまうから。ドナルド・トランプ大統領は、アメリカの中央銀行であるFRBに対して、「金利を下げろ」と言っており、日本が米国債を売って金利が上昇したら激怒することは火を見るよりも明らかです。
また、1997年橋本龍太郎首相(当時)がコロンビア大学での講演で「時々、米国国債を売りたい誘惑にかられることがある」と発言し、アメリカ政府やFRBから強く反発を受け、外交問題にもなりました。
米国債を売れないとすると、為替介入に使えるのは約1600億ドル(1ドル158円換算で約25兆円)の外貨預金のみです。
過去最大だった24年4~5月の為替介入は、約9兆7885億円でしたので、為替介入できるだけの十分なドルがあるように見えます。
ここで問題になるのが、25年7月に合意された日米関税合意に基づく5500億ドルの対米投融資です。当然ながら、このためにもドルが必要になります。
外貨預金を為替介入用として対米投融資に使わないのであれば、対米投融資用に円を売ってドルを買う必要があります。しかし、それをやったら自ら円安を加速させてしまいます。
円売りドル買いができないとしたら、外貨預金約1600億ドルで、為替介入と対米投融資の両方を行わなければなりませんが、それはどう考えても無理でしょう。
つまり、為替介入が効くだけの十分なドルが日本にはなく、もし為替介入をやってしまうと対米投融資ができなくなってしまうのです。
日本がこうした状況であることは、マーケットは百も承知です。ですから、円安の進行を止めようと、仮に過去最大の約10兆円規模の為替介入を日本政府が行ったとしても、それ以上の介入ができないとマーケットが判断すれば、円は売り浴びせられ、介入効果がないどころか、円暴落の引きがねを引く結果になってしまうことも十二分にあり得ます。
こうした最悪の事態を招かないためにはアメリカの協力(協調介入)が欠かせません。片山財務相はスコット・ベッセント米財務長官と度々会談を行っていますが、ベッセント財務長官は、私と同時期にジョージ・ソロス氏の投資会社におり、1992年のイングランド銀行の為替介入に勝った男です。
為替介入が効かないことを誰よりもよく知っている人物が、為替介入など行うはずがありません。つまり、アメリカの協調介入の可能性はないということです。
更新:05月14日 00:05