
生成AI活用コンサルタントとして、企業への導入支援を行なっている高山智壮氏。今回は、チームでAIを運用することで得られる具体的なメリットを、高山氏に解説していただく。(取材・構成:前田はるみ)
※本稿は、『THE21』2026年2月号特集[生産性100倍のAI活用術]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
※前後編の後編です
では、チームでの具体的なAI活用法を見ていきましょう。
一つ目は、自社データを読み込ませて作る自社専用AI「MyGPTs」の活用です。 MyGPTsは、自社の業務内容や目的に合わせてカスタマイズできる〝専用AIアシスタント〟で、会社の基準に基づいた一貫した回答や資料作成が可能です。管理者が目的に合った資料を読み込ませて作成したMyGPTsを、メンバーが個々で利用するイメージです。
どのメンバーまで共有するかは、管理者がコントロールすることができます。 例えば当社には、人事評価マニュアルをAIに学習させて作ったMyGPTsがあり、「どうすれば評価が上がりますか?」「どうすれば昇給しますか?」といった人事評価に関する社員の質問に対して、AIが会社基準に則って回答してくれます。
他にも「財務分析AI」、「CS(カスタマーサクセス)支援AI」、kintoneをどう使ったらいいか相談できる「社内kintone相談AI」、自社の理念や大切にしていることをまとめた「TAKAYAMAスタンダードAI」など、あらゆるジャンルのMyGPTsを設定しています。
MyGPTsを活用するメリットは、知りたいことをいつでも聞ける〝相談役〟を得られる点です。特にわからないことが多い新入社員にとって、先輩が忙しくて質問しづらい場面でも、MyGPTsに聞けば自社のルールや手順に沿った説明がすぐに返ってきます。人によってばらつきが出やすい説明も、AIなら一貫性のある正確な回答でサポートしてくれます。
ただし、最初から完璧な回答が返ってくるわけではありません。実際の業務で使いながら、「ここは違う」「もっとこんなふうに説明して」とフィードバックを与えたり、新たな資料や事例を追加したりすることで、回答の精度がどんどん高まっていきます。一般的なデータベースとは違って、現場の知見やノウハウを反映しながら進化していくのがAIの大きな特徴であり、使いながら育てていくことが大切になってきます。
チームでのAI活用法の二つ目は、「プロジェクト」機能の活用です。 プロジェクトとは、チーム内のやりとりや資料を一つの場所にまとめておける共有チャットスペースです。
例えば、「採用プロジェクト」といったプロジェクトごとにチャットを分けることができ、関係者全員がそれまでのやりとりの流れを見ながら議論や意思決定を行なうことができます。リンクを共有すれば、社外の人をメンバーに加えることも可能です。 メンバー同士のやりとりの途中で、「チャッピー(ChatGPTの愛称)、どう思う?」とAIを呼び出せば、過去のやりとりやデータをもとに回答してくれることも。
従来なら、会議の途中で不明点が出てくれば、「これ、ちょっと調べてみます」と誰かが宿題を持ち帰り、その回答が出るまでに数日〜数週間かかっていた場面でも、AIに質問すれば即座に候補案や分析結果が提示されます。そのため、議論のスピードが格段に上がり、意思決定までの時間も大幅に短縮されます。
また、プロジェクト機能は引き継ぎの場面でも力を発揮します。
例えば、退職するメンバーがプロジェクト内にこれまでの取引先とのやりとりや資料を残しておけば、引き継ぎが十分に行なえなかった場合でも、後任者は「この案件の経緯を教えて」「どう営業したらいい?」と質問するだけで、「このお客様から最優先でアプローチするといいですよ」など適切なアドバイスを得られます。 さらに、プロジェクト内に蓄積されたやりとりや資料は、新たなMyGPTsを作るための素材としても活用できます。
例えば、「採用プロジェクト」でやりとりした内容をもとに、「弊社の採用マニュアルを作成して」とAIに依頼すれば、データをもとにマニュアルが作成されます。そのマニュアルに自分で手を加えて完成させたものを、今度はMyGPTsに学習させると、そのマニュアルを土台に回答してくれる自社専用AIを作ることができます。
チームでのAI活用法の三つ目は、「社内知識」の活用です。 社内知識とは、会社が持つマニュアルや報告書、資料など、AIに参照させる社内情報のことを指します。基本的には管理者が設定し、共有フォルダ内の資料を読み込ませることで、ワークスペース全体で利用可能になります。「○○に関する資料を探して」とチャットに入力すれば、AIが即座に探してくれるので、必要な情報を探す手間を大幅に削減できるというわけです。
一番の利点は、OutlookやGmail、SharePoint、Slackなど、アプリやクラウドと連携させることで、社内に散らばる情報を集約して参照できる点です。 先ほどの引き継ぎの例で言えば、退職者が顧客と共有アカウントのメールでやりとりした内容や、提案書や資料など、バラバラに格納された情報を集約するという使い方ができます。
さらに、集約した情報をAIに学習させれば、退職者の知見やノウハウを凝縮した顧客対応マニュアルを作成することも可能です。 今、知見やノウハウが次の世代に引き継がれないまま、経験豊富なベテラン社員が退職してしまうことが問題となっています。AIを使えば、社内に蓄積されてきた暗黙知を言語化・マニュアル化し、会社の共有財産にしていくことができるのです。
ただし、繰り返しになりますが、社内知識として集められる情報は、会社全体で共有すべき情報に限られます。個人のフォルダにある資料や、個人アカウントのメールなど、プライベートな情報までAIが自動的に参照することはありません。社内知識の適正な活用のためには、アクセス権限やプライバシー設定を正しく管理することが重要です。
ここからは、チームへのAI導入の仕方について説明していきます。 まず重要なのは、トップがAI活用の方針を示すことです。例えば、AIを主要な戦略の柱に置く「AIファースト」でいくのか、そこまでいかないにしろ、間接業務にAIを活用する、戦略立案のパートナーとして活用するなど、自社の方針を明確に示すことが大切です。
そのうえで、具体的な運用ルールを示す必要があります。運用ルールが整備されていないと、チームでのAI活用に温度差が生じます。 方針と運用ルールは、セットでなければなりません。運用ルールだけ伝えても、何のためのAI活用なのかメンバーに理解されず、「私たちの仕事を奪おうとしているのかも?」といった疑念を生みかねません。逆に、方針だけ語って運用ルールを明示しなければ、メンバーはどうすればいいのかわかりません。
導入に際しては、5つのステップで進めていくとよいでしょう。
①センターピンとなる人材を選び、その人たちから始めます。ボーリングのセンターピン(1番ピン)を倒せば効率良くすべてのピンを倒せるように、「この人が動けば組織全体に波及する」という中核人材は誰か、を見極めることがポイントです。AI活用に積極的な若手や、勉強熱心な人が適任かと思います。
②最適なプランと最適なアクセス権限を付与します。
③MyGPTsを作ったり、プロジェクトを運用したりして、成功事例を積み上げていきます。
④人事評価システムや表彰制度と連動させます。当社の場合、一定基準を超えて業務時間を短縮できた人を表彰し、かつ人事評価でプラス加点することを明文化しています。
⑤AI活用の勉強会を開催して社内導入事例を共有し、「AIを活用してみよう」と興味を持つ人を増やしていきます。
以上が導入のためのステップです。しかし、このようにステップを踏んだとしても、AIを使いたがらない人はどの組織にもいるでしょう。 障壁となるのは、一つには思い込みです。「仕事が奪われるのではないか」といった怖さや、「AIは間違った回答をするから使えない」といったAIへの信頼性の欠如、「自分のチャットを会社の人に見られるんじゃないか」といった個人情報絡みの不安が根底にあります。
もう一つは、無知です。「自分の業務にどのように活かせるのかわからない」という知識不足が理由で、前に進まないケースも多いと思います。 これまでAI活用に興味のなかった人が、「自分も使ってみようかな」と思うのは、周囲での成功事例がきっかけとなることが多いようです。 組織でAIを使う人が増えれば、現場の知見やノウハウがAIに学習されて、より自社のビジネスに活かせるAIへと進化していきます。
継続して運用していくことが、AI導入を成功させる最大のポイント。皆さんの職場にも導入してみてはいかがでしょうか。
更新:02月01日 00:05