
(左)荒木俊哉さん、(右)有馬佑介さん
言葉を豊かに使える人は、どのような場や体験を通して育っていくのか。桐朋学園小学校で日記教育を実践する有馬佑介氏と、電通のコピーライター・荒木俊哉氏による対談から、言語化の力が育まれる背景に目を向けていく。
※本稿は前後編の後編です。『THE21』2026年2月号の内容を一部抜粋・再編集してお届けします。
【有馬】言語化には「聞く力」がポイントになる、というのは、言われてみると確かにそうですが、今まで考えたことがない視点でした。
【荒木】聞くことの大切さを改めて感じたのは、数年前、コピーライターの仕事に活かせると思って、キャリアコンサルタントの資格を取得したことがきっかけです。
その学びの中で「言葉の持つ意味は、発する人によって、まったく違う」ことを実感しました。AさんとBさんが同じように「楽しかった!」と言ったとしても、その楽しさは同じではないんですよね。
【有馬】そうですね。そのとき「なんで面白かったのか?」を自分に問うと、オリジナルな自分だけの「楽しさ」を言葉にできますね。僕もよく、日記の返事で「どう楽しかったの?」と問いかけています。
【荒木】素敵です。そうやって聞いてもらえると、生徒さんたちは言葉にしようとしますもんね。
ちなみに、有馬先生が、ご自身で自問自答するときは、どんな問いを投げかけていますか?
【有馬】僕は根がネガティブなので(笑)、「なんで、あのとき、あんなふうにしたんだろう?」の類が多いです。荒木さんは?
【荒木】僕も「なんで」が多いですね。「この広告、悔しいけど、面白いな。なんで面白いんだろう?」という感じです。何かに心が動くたびにその理由を自問自答しますね。人と話すときも同じで、クライアントに提案をしてみて反応が今一つなときは、「ピンと来ない理由」をじっくり聞いて、言葉にしてもらいます。
【有馬】勇気があるなあ。なんでそうするのですか?
【荒木】その場の話でいうと、目の前の相手の課題を解決するためですが、もう少し大きくとらえれば、次のいい仕事につなげるためです。クリエイティブと呼ばれる仕事にセンスや才能は関係なくて、自分なりの法則や考え方を言葉として持っているかどうかがすべてだと思っているんです。思考を言葉としてストックしておくために、「なんで」という問いを常に持っています。
【有馬】そう言えば先ほど、僕の講演で感動した、と言ってくださいましたね。あのときの原稿は、3カ月かけて書きました。前任者の言葉を踏襲するのではなく自分の言葉で語りたいと思い、ひたすら「なんで」の自問自答。教師生活20余年を振り返りながら練り上げました。
その結果、最終的には、ごく普通というか、どの学校でも語られるような言葉に落ち着いたんですね。
ですが、「これでいい。これは自分の言葉だ」と思えたんです。子どもたちとの思い出をきちんと織り込んで話せば、きっと届くと信じました。
【荒木】しっかり届きました。ごく普通の言葉でも、自分との対話を通して出てきたものは、それは自分のオリジナルな言葉になるし、人の心に届きやすくなります。肩に変な力を入れて、個性を出そうとする必要はないんです。僕も、コピーを考えるときは一切奇をてらいません。
【有馬】意外です。てっきり、尖った表現を追求されているのかと。
【荒木】むしろ、いかにわかりやすくするかに時間を使います。子どもにもわかる、ご高齢の方にも伝わる言葉のほうが、結果的に10年20年と愛されるコピーになりますから。
【有馬】コピーを考えるのにも、たくさんの対話や、自問自答があるのでしょうね。そのアプローチは、たしかにセンスや才能とは関係なさそうです。我々教師も、世のビジネスパーソンの方々も実践できそうで勇気をもらいます。
【荒木】最後に、有馬先生からもアドバイスをいただきたいです。自分の思いを言葉にすることが苦手だったり、自分の意見がなかなか言えなかったりするビジネスパーソンの皆さんに、ぜひ何かひと言を。
【有馬】言葉にしにくいのは、あなたが悪いのではなく、言葉にしにくい雰囲気を作っている周りに原因がある、ということですね。
【荒木】周りに原因が?
【有馬】「なかなか言葉にできない」と悩んでいる時点で、あなたは自分を客観視できているし、充分に内省的なタイプです。加えて、「言えない」というのは「言いたい」という気持ちの裏返しでもありますよね。
【荒木】確かに。
【有馬】それでは、あと何が必要かというと言葉にできる環境です。その環境に対して影響力を持つ人、つまりマネジメントを担う人が、それを作っていってほしいですね。
【荒木】そう言ってもらえると楽になる人、多いと思います。
【有馬】と言いながら、「それを作るのは、有馬、お前だ」と自分に言い聞かせています(笑)。今、小学部長としてマネジメントの立場を担う僕自身が、誰かの「言えない」を作っていないか、変えるべきところはないか、これからも自問していかないといけません。
【荒木】有馬先生でも、誰かの「言えない」を作ってしまう可能性があるのですか?
【有馬】もちろんです。22歳で教師になって以来、ついこの間まで一プレイヤーとしてクラスの運営をしてきました。その「経験豊富感」「ベテラン感」が無意識のうちに毛穴から出て(笑)、相手への無言のプレッシャーになっていないか心配です。
【荒木】毛穴(笑)。有馬先生は、ご自身でも日記を書くそうですが、書くことで毛穴は閉じますか?
【有馬】完全に閉じるかどうかはわかりませんが、頭の中でモヤモヤしていたことが言葉になるだけでも大きな一歩です。自分を客観視する時間になりますから。時には「またクラスの担任をしたいなぁ」といった本音に気づき、それができないこともわかる、という苦しさを味わうこともありますが、モヤモヤしたままよりも、確実に前を向いて進めます。
【荒木】なるほど。まさに言語化とは自分を知ることであり、見える世界が広がることですね。
【有馬】やっぱり、人というのは言葉から始まるのでしょうね。形のないものが言葉になる、その瞬間が行動の出発点です。
更新:02月12日 00:05