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正捕手・海野に後半戦躍動の大津...メンタルが急成長した2025年の鷹戦士たち

2026年01月24日 公開
2026年02月16日 更新

伴元裕(福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ)

伴氏 抜粋記事

福岡ソフトバンクホークスのメンタルパフォーマンスコーチとして、チームの優勝・日本一に貢献した伴元裕氏。日本では聞きなじみのない役職だが、近年、その重要性が認知されつつあるという。その詳細と、チームで過ごした1年間について、3月発売の著書『集中力革命: ブレても力を発揮するメンタルの技術』の内容も交え語ってもらった。

 

正捕手・海野隆司と大津亮介のメンタル成長が支えたホークス優勝

近年、スポーツの世界において「メンタルトレーニング」の重要性が広く認知されつつあります。メジャーリーグでは、全30球団のうち実に27チームが「メンタルパフォーマンスコーチ」を雇用し、選手のパフォーマンス向上を狙っています。

私も、2025年シーズン(正確には24年の秋)から、福岡ソフトバンクホークスのメンタルパフォーマンスコーチとして、チームに従事しています。

2025年シーズン、ホークスは2年連続のリーグ優勝を達成するとともに、5年ぶりの日本一にも輝きました。全選手、首脳陣、スタッフの努力の結晶ですが、その中でも特に、シーズンを通して印象に残った選手の姿を紹介させてください。

まず一人目が、捕手の海野隆司選手。前年まで絶対的存在だった甲斐拓也選手の移籍に伴い正捕手に抜擢されました。捕手は、自分の成績だけを追い求めるのではなく、投手をリードし能力を引き出すという役割があります。

海野選手も、やはり最初は「うまくやらなきゃ」というプレッシャーを感じていたようです。投手に対して、自分の考えや準備してきた作戦すべてを「わーっ」とまくしたてる場面が見られました。ですが、相手からしたら、情報量が多すぎるとかえって不安になるもの。

そこから、海野選手自身も試行錯誤を重ねる中で、「この投手には何を伝えるべきか」を丁寧に考えるようになっていきました。海野選手が相手に伝える情報の取捨選択ができるようになったことが、結果的に、投手陣が安心してマウンドに立てる環境づくりにつながっていったように感じます。

責任が重く、悩むことも多い捕手ですが、スポットライトが当たるのは、どうしても投手になりがち。
そのうえで、海野選手は自分の手柄を吹聴したりすることは一切しません。捕手向きの性格であるともいえますが、彼の苦労を見てきた身としては、その姿勢はぜひ知ってほしい部分です。

投手では、大津亮介選手の精神的な成長を強く感じました。
25年の大津選手はシーズン序盤に思ったような結果が出ず、一度は二軍落ちを宣告されました。

選手にとって、二軍に行かされるということは本当に受け入れがたいことですし、自分はまだレベルが低いって突きつけられたような感覚になったと思うんですよね。

実際、大津選手も当初は目に見えるぐらい落ち込んでました。ただ、印象的だったのは、一軍に戻ってきたときの言葉です。「二軍にいたからこそ、細かい検証ができました」「この経験は僕にとっては長い目で見たらプラスになるんです」と語ってくれました。

二軍に落とされたという目の前の事実を憂うのではなく、長いキャリアを見据え、プラスに考える。そうした捉え方が、結果として後半戦の安定した投球につながっていったように見えました。

 

ベテラン中村晃の言葉がチームを救った優勝争いの危機

直近20年で8度の優勝を誇っているホークスですが、それでも優勝が近づいてくると浮足立つものです。特に25年は、独走した24年と異なり、2位・日本ハムファイターズとデッドヒートを繰り広げていたこともあり、相手の動向を気にする雰囲気がチームにありました。

そうするとパフォーマンスにも影響が出てしまうもので、大事な最終盤で4連敗を喫してしまいます。

そんな時期に、36歳のベテラン・中村晃選手に、こんな言葉をかけられました。
「伴さんね、こういう状況になったら、とにかく相手に注意を向けるんじゃなくて、いかに自分たちが力を出し切れるかが大事なんです」「できることをやりきって、いい感覚のまま帰路に就く。そのことにただ集中する。結局、それが大事なことなんです」

プロとして酸いも甘いも噛分け、この年もスタメンに代打にと場所を問わず躍動してきた中村選手だからこその至言でしたね。その言葉は、当時のチームにとって非常に示唆的で、私自身も強く印象に残りました。その後、チーム内でも共有することにしました。

あの言葉は、チームが踏みとどまるうえで、大きな支えの一つだったように思います。

 

若手とベテランで異なるメンタルコントロール術「結果より内容」

中村選手に限らず、ベテラン選手は安定したメンタリティを持っています。その理由としては、単に場数を踏んでいるというだけではなく、ルーティーンが確立されているということも挙げられるでしょう。

それも、「あれもこれも」と煩雑なものではなく、削ぎ落とされた、シンプルなルーティーン。自然体で変わらない行動を続けることがパフォーマンスに良い影響を与えると、彼らはわかっているのでしょう。

シーズン中、ベテランともよく会話をしましたが、悩みや困りごとを相談するというよりは、私との会話をルーティーンの一部に組み込んでくれているといった感じでした。

一方で、若手選手は、彼らほどメンタルが安定していません。年齢的に成熟していないのはもちろん、チーム内でのポジションが確立できていない、すぐに結果を出さなければという焦り・緊張も大きいでしょう。一試合で結果を出さなければすぐ二軍に落とされる。それがプロ野球界の厳しさですから。

ですが、結果に囚らわれていると、良いパフォーマンスは望めません。

春のキャンプで、計60人の選手にこのように質問をしました。「結果と内容、どちらに集中した方が、良いパフォーマンスが出る?」と。すると驚くべきことに、60対0で、「内容に集中していた時の方が良い」という回答が返ってきました。

この60人の中には、二軍の若手選手も含まれています。彼らだって、結果に囚らわれることの悪影響を、経験から知っています。わかっていても結果ばかりを求めてしまうことに、苦労しているのです。

若手選手とのコミュニケーションは、「今はどういうパフォーマンスを目指してる?」「また結果に意識がいってるよ」といった内容が、自然と増えていきました。最初はなかなか思うようにいかなくても、訓練を繰り返すことでメンタルコントロールは上達していきます。

「メンタルは技術」「技術は身に着けられる」ーー選手たちの取り組みや変化を見ていると、メンタルは気持ちではなく、積み重ねていける技術なのだと感じさせられました。

プロフィール

伴元裕(ばん・もとひろ)

福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ

株式会社OWN PEAK代表取締役。7年間の商社勤務経験を経たのち、米国オリンピックトレーニングセンターのメンタルトレーニングを学ぶため渡米。デンバー大学大学院スポーツ&パフォーマンス心理学修士課程を修了する。在学中にMLSコロラドラピッズアカデミーにてメンタルトレーナー(インターン)を経験。2017年に帰国後、OWN PEAK創業。スポーツ、ビジネス、教育現場における実力発揮のためのメンタルスキルの獲得を支援している。

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