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「いつでも何でも聞いて」は注意...上司がつい使いがちなNGフレーズ

2025年04月10日 公開

大野萌子([一社]日本メンタルアップ支援機構代表理事)

言い方

「部下の自主性を尊重したいから」と、明確な物言いを避けるリーダーは多い。しかし、目的に合わせた適切な言語化ができていないと、意図しないメッセージが伝わってしまい、かえって部下のやる気を削ぐこともある。公認心理師・産業カウンセラーとして企業内カウンセリングを担当する大野萌子氏に、リーダーが言いがちなNGフレーズと言いかえのポイントについて聞いた。(取材・構成:横山瑠美)

※本稿は、『THE21』2025年4月号特集[できるリーダーは必ずやっている「言語化」]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

言いかえで業務が円滑に! コツはいつでも「具体的に」

「言語化」の重要性が、かつてないほど高まっています。

口頭はもちろん、メールやチャットで仕事を指示する場面も格段に増えており、リーダーにとっては、もはや「言語化が苦手」とは言っていられません。

今の時代、対面にせよオンラインにせよ、言葉による明確な説明なしにビジネスは成り立ちません。しかし、実際の社内コミュニケーションが十分に言語化されているかと言えば、そうとは言えないようです。

私は長年、産業カウンセラーとして企業内で現場の社員の相談に乗ってきていますが、職場のトラブルのほとんどは人間関係のトラブルであり、その原因は言葉のやりとりが発端になっています。

言葉のやりとりから不信感、不満、猜疑心が生まれ、それが人間関係のトラブルにつながっているのです。 そもそも日本は「察する文化」で、多くを語らないことが良しとされてきました。そのため、思っていることがあっても抽象的で曖昧な言葉を使ったり、少ない言葉で察してもらおうとしたりする傾向があります。

しかし、言葉の解釈は人それぞれですし、価値観も多様化しています。話し手と受け手の解釈に差が生じることが増えて、それがトラブルにつながってしまうのです。

昨今の職場で起こる言葉の行き違いには、パワハラ防止法の影響もあるのだと思います。

パワハラから縁遠いリーダーほど、「この言い方で大丈夫だろうか」と気にしているようですし、部下を思いやった結果、いっそう言葉が曖昧になり、それが言葉による行き違いを生んでしまっているのです。

ではリーダーはどうすればいいかというと、指示・指導はもちろん、褒めたり叱ったりする場面でも、言葉選びはとにかく「具体的」であることを心掛けるべきです。

リーダー側は、「はっきり言い過ぎてやる気を削ぐよりは、部下の自主性に任せたほうが良い」と考えがちですが、部下側は明確な指示を求めているものです。実際に企業で話をうかがっていると、最近の若手は「委ねられることに恐怖を感じる」こともあるようです。部下にはむしろ明確に指示することで、業務はスムーズに進むのではないでしょうか。

具体的に話すことを意識しないままでは、どうとでも解釈できる抽象的な言葉を使うことが癖になりますし、伝えるための語彙が少なくなります。

日本人は、ただでさえ曖昧な表現に流れがちですから、「ここまではっきり言っていいのかな」と思うくらい具体的でちょうどいいと思います。

相手が受け取りやすい言葉選びのポイントは、抽象的より「具体的」、否定形より「肯定形」、ネガティブより「ポジティブな言葉」の3つです。

これらのポイントをふまえて、次ページからのケーススタディを見ていきましょう。リーダーにありがちな伝え方にどんな問題があるのか、その言葉をどう言いかえると良いか、一緒に考えてみてください。

 

上司がつい使いがちな「NGフレーズ」とその言いかえ方

1. 会社のビジョンをチームで共有するとき

NGフレーズ「『たゆまぬイノベーションで人々を幸せにする』をチームで徹底しよう」
OKフレーズ「○月末までに新規の販売チャネルを○カ所に増やし、お客様の売上アップに貢献しよう」

【POINT】「抽象的」な言葉は「具体的」な言葉に言いかえる

 

経営層が掲げるビジョンは、だいたいの場合、壮大な文章になっています。しかし、「たゆまぬ」「イノベーション」「幸せ」は、抽象的かつ曖昧で、情報の受け手がいかようにも解釈できる言葉。現場の社員は具体的なアクションを想像できず、途方に暮れてしまうでしょう。

このような言葉が上から下りてきたときにリーダーがすべきことは、チームのメンバーを巻き込んで一つひとつの言葉の意味を再定義していくことです。「たゆまぬ」とは具体的にどういうこと?    「イノベーション」とは自チームにとってどういうものを指すか?抽象的で壮大な目標を、具体的で小さな目標に落とし込んでいきましょう。

ポイントは、リーダー1人で考えるのではなく、チーム全員で話し合うこと。それにより、メンバーも会社のビジョンを自分ごととして捉え直すことができ、具体的なアクションに移りやすくなります。全員で話し合うことで、チーム内のコミュニケーションを深めることにもつながります。

 

2. 部下に仕事を依頼するとき

NGフレーズ「『なるはや』でやっておいて」
OKフレーズ「○月○日の○時までに提出をお願いします」

【POINT】「○月○日」「○時までに」と日付・時間を明確に伝える

 

「なるべく」「早く」は曖昧表現です。仕事には締め切りがあることが当たり前。遠慮せずに「○月○日まで」と日付を明確にしましょう。

そのとき、「時間」も具体的に伝えることを忘れずに。例えば、「3月1日が締め切り」と聞いたとき、3月1日の始業時刻である9時に提出しようと思う人もいれば、3月1日の終業時刻の17時までに提出すればいいや、と考える人もいます。

私は先日初めて聞いて驚いたのですが、「3月1日締め切り」を3月2日の始業時刻の9時までに提出すればセーフ、と考える人もいるとか。

コロナ禍以降、フリーアドレスやフレックス制度が浸透し、人によって始業や終業の時刻はまちまちになりました。そのため、締め切りの解釈が多様化しているのでしょう。

部下に無理をさせていないかと心配なら、依頼するときに「○月○日の○時までと考えているけれど、状況はどう?」「難しければ相談して」と、ひと言付け加えるといいでしょう。

 

3. 部下の仕事が締め切り通りに上がるか気になるとき

NGフレーズ「今日が締め切りだけど、企画書はどうなってる?」
OKフレーズ「企画書の件、明日締め切りです。よろしくお願いします」

【POINT】締め切り前のリマインドを上司が日頃から心がける

 

締め切り当日の確認では遅すぎます。部下が忘れていた場合、当日に「どうなっている?」と聞いたところで締め切りには間に合わないでしょう。

「部下を信頼していないと思われるのではないか」と事前リマインドを避ける上司やリーダーの方がときどきいらっしゃいますが、それは普段から事前リマインドをしていないからです。普段から事前リマインドを徹底していれば、部下も「いつもの事前リマインドだな」と感じ、「責められている」「信頼されていない」と敏感に反応することはなくなります。

仕事で重要なのは、期限内に終わることです。そのためには、部下を信じて終業時刻までイライラしながら待つより、事前リマインドを積極的にしていきましょう。

事前リマインドのコツは「○日締め切りの件、よろしくね」と事実だけを言うこと。「○日締め切りの件、忘れないでよ」と言うと信用していない感じがあからさまに伝わり、部下のやる気を削いでしまいます。

 

4. 部下にもっと頼ってもらいたいとき

NGフレーズ「わからないことがあったらいつでも何でも聞いて」
OKフレーズ「○○についてわからなかったら聞いて。火曜日と木曜日の就業時間内は空いてるから」

【POINT】質問してほしい「内容」と質問への対応が可能な「タイミング」(曜日や時間帯など)を明確に伝える

 

NGフレーズは一見、思いやりがあるようですが、「いつでも」という表現は要注意です。

想像してみてください。「いつでも」と言いながら、夜中に部下からLINEで質問されたら不快に感じたり、中には「非常識だ」と部下を怒ったりする人もいるのではないでしょうか。

この場合の「いつでも」は、矛盾する2つのメッセージを出す「ダブルバインド(二重拘束)」の状態になっています。「いつでも」と言ったのに聞いたら怒られた──。そう感じた部下は二度と質問も相談もしてくれなくなります。

極端なたとえ話と思われるでしょうか。しかしこれは、私が実際に企業での相談で見聞きしたケースです。

同じ意味で「何でも」も要注意ワードです。ちょっと調べればすぐわかることを尋ねられて「自分で調べなさいよ」と言われれば、やはり部下は上司を信用しなくなります。

聞いてほしい「内容」と対応可能な「タイミング」を明確に伝えましょう。

 

5. 何度も同じ失敗を繰り返す部下に指導するとき

NGフレーズ「前にも注意しましたよね」
OKフレーズ「どこまで理解できているかを確認させて」「もう一度説明しますね」

【POINT】どこまで理解できているかを確認して、つまずいた箇所を重点的に説明する

 

「前にも注意しましたよね」「前にも言いましたよね」は、部下を責めてやる気を削ぐNGフレーズの代表格です。

このフレーズが出る背景には、上司の自己防衛もあるでしょう。「自分に非はない。あなたが全面的に悪い」と言っているのと同じです。

同じ失敗を繰り返す部下は確かにいます。しかし、クリアになっていない部分があるからこそ、同じところでつまずくわけです。それを解決しない限り、失敗はなくなりません。

切羽詰まった状況では、「自分でやったほうが早い」と部下の失敗を巻き取る上司もいるかもしれません。しかし、それは長期的な視点で見れば、上司の首を絞める行為です。上司の仕事は増え、部下はいつまで経っても成長しない。そんな悪循環に陥ってしまいます。

部下を責めても何の解決にもなりません。まずは理解度の確認から入りましょう。そして、つまずきの箇所を把握して重点的に説明してください。

 

6. 部下を褒めるとき

NGフレーズ「チームは目標を達成しました。Aさんも頑張りましたね」
OKフレーズ「チームは目標を達成。Aさんの資料によって情報共有が速やかにできたおかげです」

【POINT】褒めるときは部下のどこが良かったのかを具体的に言葉にする

 

どこを褒められているかがわからないと、部下のモチベーションはかえって下がってしまいます。当たり障りのない言葉で褒められるのは「褒めるところがないからだ」「自分が期待されていないからだ」と今の若い人は思ってしまうのです。

企業内でカウンセリングを行なうと、部下の方からこの手の相談がよく寄せられます。

褒めるのは小さなことで構いません。「わかりやすい資料をつくってくれたから情報共有が速やかにできて助かった」「根気強くお客様のところを毎日訪問してくれた」など、良いところを具体的に挙げましょう。

コロナ禍を経てリモートワークが浸透し、職場で一緒に時間を過ごす機会が減ったことで、部下の良いところを見つけるにはどうすればいいかと悩む上司も多いかもしれません。

その場合は、出社の機会があれば挨拶をして他愛のない話をする、オンラインで定期的に5分、10分の雑談の機会を設けるなどして、部下の普段の状況を知るように心がけてみてください。

 

7. トラブルに見舞われた部下が相談してきたとき

NGフレーズ「昔、こういうトラブルが起こったとき、自分はこんな方法で解決したぞ」
OKフレーズ「自分はこう解決したけど参考になるかな。フォローもするから必要なら言ってください」

【POINT】自分の経験談から得られることがあれば活用してほしいと伝え、フォローする意思があることも伝える

 

部下が仕事のトラブルについて相談してきたとき、やってはいけないのが、昔の「武勇伝」を語って自慢することです。

「相談したかったのに、自慢されて終わった」「今の時代、そのやり方では通用しないのに」と部下に思われ、二度と相談してもらえなくなってしまいます。

過去の経験談を部下に伝えることが悪いわけではありません。ただし、それを押しつけないようにしましょう。「時代背景も変わっているけれど、自分の経験がヒントになるかもしれないから伝えますね」というニュアンスを大切にしてください。

「自分でまいた種は自分で何とかしなさい」と突き放すのではなく、部下に任せながらも、難しいときはフォローする意思もあると伝えておくと、部下は安心して困難に立ち向かえます。

顧客から理不尽なことを言われ、自分では解決方法を見つけられなかったので上司に相談したのに、その上司からも突き放されると、部下は行き場を失います。相談されたあともなるべく心を配り、フォローを忘れないようにしましょう。

 

8. 進行中のプロジェクトが会社都合で方針転換することを告げるとき

NGフレーズ「会社の方針変更で○○することになりました」
OKフレーズ「頑張ってくれたみんなには申し訳ない。こういう理由で方針転換が決まりました」

【POINT】方針転換の「概要」を説明したうえで、部下への「ねぎらい」と「謝罪」の気持ちを伝える

 

頑張ってきたのに、会社の都合で方針転換することになったり、突然プロジェクトが終了することになったりすることは、仕事では日常茶飯事です。

ただ、仕事だからといって理由もろくに説明せず、「つべこべ言わずに決まった通りにしろ」と言われたら、誰でもいい気持ちはしないはずです。しかし、このようなケースは現場で頻繁に起こっています。

私がカウンセリングを担当する企業でも、不満を持つ部下の方の声をよく聞きます。

突然の方針転換をする際は、頑張ってくれた現場の部下に方針転換の理由と併せて、ねぎらいや謝罪の気持ちも伝えるようにしましょう。

上司に直接の非はないかもしれません。それでも、「頑張ってくれたのに申し訳ない」という気持ちを表明することで、部下が「自分たちの気持ちを代弁してくれた」と感じ、むしろ協力的になってくれます。

 

9. 部下から新たな提案を受けたとき

NGフレーズ「その提案だと、このあたりに問題があるんじゃないかな」
OKフレーズ「○○の視点が盛り込まれていていいですね。ただ、□□は問題だと私は思うんだけど、どう?」

【POINT】提案を受け止めてから、主語を「私は」にして懸念点を自分の意見として伝える

 

せっかくの提案に「駄目出し」から入るのはよくありません。話し始めるときに「だって」「でも」が癖になっている人はいませんか? そういう言い方をすると、部下は否定されたと感じ、やる気を失ってしまいます。

会話では、来たボールをまず受け止めるのが鉄則です。「提案ありがとう」「○○というところに着目しているのがいいですね」「なるほど、○○ということですね」など、話に合わせて受け止める言葉から始めましょう。そのうえで、問題があると感じるなら、その点を率直に伝えます。

問題点を伝えるときにはコツがあります。それは「私は」と主語を主体的にすることです。

「普通は」「常識的には」「一般的には」「みんな」という言葉は「一般化」にカテゴライズされる言葉です。自分の意見に自信がないときに「大勢の人が言っている」というニュアンスで相手を服従させようとする言い回しですから、部下が不信感を抱いてしまいます。「私」を主語にして、自分の意見として伝えましょう。

 

著者紹介

大野萌子(おおの・もえこ)

(一社)日本メンタルアップ支援機構代表理事

企業内カウンセラーをはじめとする相談業務において2万人以上のカウンセリングを担当。また長年の現場経験を生かし、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメント教育を得意とする。官公庁・企業・大学などで講演・研修を6万人以上に実施。著書に『電話恐怖症』(朝日新書)、『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)など。

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