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部下のメンタル向上が上司の評価につながる...日米で大きく異なる「管理職の役割」

2025年01月29日 公開

牛尾剛(米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア)

マイクロソフトのマネジメント

米マイクロソフトに勤める牛尾剛氏によると、マイクロソフトでは、インディビジュアル・コントリビューター(IC)と呼ばれる開発者一人ひとりが個人商店のように扱われ、マネジャーは部下の主体性をサポートする「サーバントリーダーシップ」を徹底しているという。

部下に細かく指示を出して管理をする「コマンドアンドコントロール」が一般的な日本企業と比較すると、どのような違いがあるのか。『THE21』2025年1月号では牛尾氏に話を聞いた。(取材・構成:村上敬)

※本稿は、『THE21』2025年1月号特集「人が育ち、チームも伸びる最高の任せ方」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

初歩的な質問にも 「グッドクエスチョン!」

日本企業と米マイクロソフト社の文化の違い

新人が活躍できる理由として、もう一つ、人に質問しやすい環境が整っていることも大きいと思います。

仕事を進めていけば、新人に限らず誰でもわからないことが出てくるものです。日本の場合、それを上司や先輩に質問すると「質問する前に自分で調べたのか?」と逆に問い質されます。「ググれ、カス」というネットスラングがありますが、それを職場でぶつけられれば誰だって委縮します。その結果、わからない状態が長く続いて仕事が止まり、生産性が落ちていきます。

それに対して、マイクロソフトには、日本でなら怒られそうな初歩的な問題も、すぐに隣の人に聞くカルチャーがあります。聞くほうも遠慮しないし、聞かれたほうも不愉快になったりせずに普通に教えてくれます。

これはマイクロソフトというより、アメリカ全体のカルチャーなのかもしれません。スティーブ・ジョブズがiPhoneの新機能をプレゼンしたあと、聴衆から「新機能の特徴を説明してください」と質問がありました。私は心の中で「今、説明したばかり。この人は何を聞いていたのか」とツッコミましたが、ジョブズは「グッドクエスチョン!」と言って同じ説明を繰り返しました。アメリカではこれが普通です。

もちろん、質問すれば納得がいく回答が常に得られるわけではありません。「気軽に聞ける空気」と「気軽に断れる空気」とはセットであり、質問したものの「ごめん、わからない」「あいつなら教えてくれるかも」と断られることもよくあります。

それでも遠慮がないのはお互いさまなので嫌な気持ちにはなりません。また、教えてもらえないことがわかれば、別の人に質問するなどすぐ次のアクションに移れます。一人で悶々と悩み続けているより、ずっと効率的です。

いずれにしても、わからないことがあれば周りに質問しやすい雰囲気があるので、新人も「困ったら人の頭を借りよう」と気軽に考えつつ主体的に仕事を進められます。

日本との違いでもう一つ強調するとしたら、納期の考え方でしょうか。 日本は何をするにも納期がついて回ります。仕事は不確実性がつきもので、ときにはアクシデントやミスで進捗が遅れることもあります。しかし納期は絶対で、帳尻合わせのために徹夜も辞さないカルチャーです。QCD(クオリティー、コスト、デリバリー)はトレードオフな一面があって、品質を犠牲にしてでもデリバリー(納期)を優先するのが日本です。

一方、マイクロソフトの開発チームには、大きなイベントで発表するプロダクト以外、ほぼ納期がありません。一応の目安はありますが、それに遅れそうだと伝えると、マネジャーからは「いつでもいい。キミが納得する品質でやってくれ」と返ってきます。マイクロソフトに入社以降、仕事を急かされた経験は一度もありません。

納期がほぼないのですから、マネジャーは細かく進捗管理をする必要もありません。日本だと作業の進捗を把握するために部下に日報を書かせたり会議をたくさん開きますが、私のチームは週に2回、30分の会議でお互いの仕事の情報をシェアし合うだけです。

マイクロソフトでは、ICが個人商店で主体的に動き、仲間同士で教え合い、納期より品質のいいプロダクトを開発することを優先しています。そうしたカルチャーがあるので、リーダーがコマンドアンドコントロールでマネジメントしなくても仕事が回っていくのです。

 

マネジャーの仕事は部下を応援すること

サーバントリーダーシップの方法

指示や管理をしないマネジャーは何をするのか。そこで登場するのがサーバントリーダーシップです。

マイクロソフトでのマネジャーの役割をひと言で言うと「応援団」です。マネジャーはメンバーに仕事を一度アサインしたら、その後は信頼して任せ、応援することに徹します。

応援の中でも一番重要なのがアンブロックです。アンブロックとは、タスクを遂行するうえで障害になっているもの(ブロック)を排除することです。

例えばプログラミングの場合、技術上の問題で他のチームに動いてもらわないとタスクが一歩も進まないケースがあります。あるいは、いったん開発したものをレビューしてもらわないと次のステップに進めないのに、レビューする人が忙しくて待ち時間が発生するケースもよくあります。こうしたブロックは、個人のパフォーマンス以上に生産性に影響を与える厄介な存在です。

ICは個人商店ですから、基本的には自分で動いて解決を目指します。ただ、マネジャーも「この問題はあの人が詳しいから紹介しよう」「レビューを急ぐよう私からもつついておくよ」と手伝ってくれます。主体的に動くのはICであり、マネジャーはICが動きやすいようにサポートしてくれる。まさにサーバントリーダーシップです。

これを単なる調整役と捉えるのは間違いです。日本では、マネジャーはマネジメントのスキルさえあればいいという考え方が支配的です。しかし、そのようなマネジャーに技術の問題を相談しても、「俺にわかるように説明してくれ」と言われてしまう。これではマネジャー自身がブロックのようなものです。

マイクロソフトのマネジャーは違います。私の上司やその上の上司たちは、私よりずっと優秀な元スーパーエンジニア。具体的に技術の話ができるので、日本企業のときに味わったようなストレスがいっさいありません。本当に頼れる存在です。

 

仕事をエンジョイしているか?

マネジャーがサポートするのはタスクそのものだけではありません。マネジャーが重視するのはメンバーのメンタル面です。マネジャーと1on1でミーティングすると、上司は必ずこう質問します。

「ツヨシ、仕事をエンジョイしているかい?」

幸い私は、今の仕事を心底楽しんでいるので「イエス」と答えます。仮に答えが「ノー」ならば、ありとあらゆる手を使ってエンパワーしてくれます。例えば「障害対応のタスクに魅力を感じない。自分はもっとプログラミングをやりたい」と言えば、きっとプログラミングのタスクを増やしてくれるでしょう。

失敗したときのエンパワーも積極的です。日本だと失敗は許されないものでした。しかしアメリカでは、失敗は難しいことに挑戦した証拠だと解釈されます。

実際、新しいチームに入って最初のプレゼンで、私は大失敗したことがあります。そのとき上司はこう言いました。

「私たちはいつも未知のことをやっているのだから、こういうことはよく起きる。気にする必要はないよ」

別件でミスをして連絡したときも「フィードバックをありがとう」「むしろ助かった」と明るく言ってくれます。おかげで反省はしても、必要以上に落ち込むことなくまた仕事に取り組めるのです。

マネジャーがメンバーのメンタルに配慮するのは、仕事を楽しんでいるかどうかがパフォーマンスに影響することを知っているからでしょう。個々のパフォーマンスが高まればチームのパフォーマンスも高まり、最終的にマネジャー自身の評価にもつながります。みんながハッピーになるのだから、メンバーのメンタルをケアしない手はありません。

日米のカルチャーの差は大きいですが、私は日本でもサーバントリーダーシップの実践は可能だと思います。

コツは、まず上を巻き込むこと。いざサーバントリーダーシップでチームをマネジメントしようとすると、反対するのは他のミドルマネジャーたちです。今でさえ数字に責任を持たされて大変なのに、新しいことはできないというわけです。

その人たちの反発を抑えるには、まず上を巻き込んでお墨付きをもらうべき。そうすると、「自分はやらないけど、勝手にやれば」と一歩引いてくれます。あとは自チームが活性化して成果を出せば、おのずと組織に広がっていくでしょう。

 

著者紹介

牛尾剛(うしお・つよし)

米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア

1971年、大阪府生まれ。シアトル在住。関西大学卒業後、大手SIerでITエンジニアを始め、2009年に独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、2019年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。著作に『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』(日経BP)などがある。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す。 著書『世界一流エンジニアの思考法』(文藝春秋)は9万部突破のベストセラー。

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2025年2月

THE21 2025年2月

発売日:2025年01月06日
価格(税込):780円

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