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デンマーク人はなぜ休日を重視するのか 脳を回復させる休養習慣

針貝有佳(デンマーク文化研究家)

単純作業がひらめきを呼び寄せることがある

効率性6年連続トップの「ビジネス先進国」デンマークは、幸福度ランキングでも常にトップ3に入る「幸せな国」でもある。彼らは平日午後4時に帰宅し、夏休みは3週間以上取得するという。積極的に休むデンマーク人がなぜ成果を出しているのか。彼らは休みの日になにをしているのか。デンマークで暮らし、その文化を研究する針貝有佳氏が、デンマーク人の余暇の過ごし方と「休み」がもたらす効用について解説する。

※本稿は、針貝有佳著『デンマーク人の休む哲学 幸福度も生産性も「いいとこどり」する習慣』(大和書房)より一部抜粋・編集したものです。

 

余暇の「単純作業」が良いアイデアを引き寄せる

集中力が求められる作業への「没頭」が雑念を取り払ってくれる一方で、ちょっと退屈な単純作業にも意味があります。
皆さんも体験したことがないでしょうか。単純作業をしていたときに、突然、良いアイデアが閃いたこと。

デザイナーのアネは、帰宅してキッチンでトマトを切っているときに、突然、良いアイデアが降ってきたことがあります。
グローバルな仕事をしているヤコブも、良いアイデアや解決策を思いつくのは、ジョギングをしているときだと言います。
映画プロデューサーのカトリーネは、ジムでバイクに乗っているときに、よく「その瞬間」を迎えます。

「ジムのフィットネスバイクってハードなんだけど、意外と退屈なの(笑)。だけど、そのおかげか、バイクを漕いでると、頭の中にクリエイティブなスペースが生まれるの。行き詰まってた問題の解決策が急に思い浮かんだことが、今までに何回もある」

編み物が趣味の義姉ルイーセは、いつも傍らに編み物を置いていて、ちょっと隙間時間があると、編み物をしています。編み物にはとても良い癒しの効果があると言います。

「ちょっと考え事があるときは、簡単な編み物をするのがちょうどいいわ。あまり難しすぎなくて、頭を使わないでできる単純作業がいい。
単純作業をしていると、脳が休まる」

頭の中から雑念を追い出す「没頭」に対して、片手間でできる単純作業は、脳を休め、頭の中をスッキリさせてくれます。
その意味では、状況に応じて、趣味を使い分けることもできそうです。

たとえば、一時的にでも、悩み事や問題を忘れたいときには、あえて「集中力が求められる趣味」に没頭するのが良いでしょう。

ちょっと落ち着いて考えたい問題があるときには、頭の整理のためにシンプルな「単純作業」をするのが良さそうです。

単純作業の筋トレやジョギングをすれば、身体の健康も維持できます。

編み物をすれば、作品がカタチになります。

そのついでに、頭の整理ができて、良いアイデアや解決策まで思い浮かんだら、最高ではないですか。

 

ガガッと集中して仕事をし、一段落したらしっかり休む

ここまで読んで、頭では「休んだ方がいい」「別の活動もした方がいい」とはわかっても、自分にはなかなか難しいと感じた人もいらっしゃるかもしれません。
わかっていても忙しくて休めない場合は、どうすればいいのでしょうか。

インタビューをしていると、当然ながら、デンマーク人にも色んなタイプの人がいることに気がつきます。
毎日同じような仕事をしている人もいれば、プロジェクトベースで変化に富んだ仕事をしている人もいます。
コンスタントに業務をこなすタイプの仕事もあれば、大きな締切に向けて一気に集中して仕上げるタイプの仕事もあります。
デンマーク人に話を聞いていると、どんなタイプの仕事に就いている人でも、それぞれに最適な方法でしっかり休んでいます。

「大きな締切があるときは、一時的に長時間労働が続くこともある。でも、それがいったん終わったら、しっかり休んで充電する」(建築家ソーレン)

建築業界であれば、大きなコンペの締切日までは集中して毎日長時間仕事する代わりに、作品を提出して一段落したら、長期休暇を取得して休むのです。
海外出張や週末の業務が多くて、休日にも家を空けることが多いビジネスパーソンは、出張中は思いきり仕事に振り切って、家に戻ったときに家族との時間をしっかり持ちます。

聴覚ヘルスケアのグローバル企業デマントの管理職で海外出張が多いクラウスは、年間の膨大な時間を飛行機の中で過ごしています。
彼にとって機内は「職場」であって、飛行機に乗ると仕事モードのスイッチがオンになります。

「仕事のために家を不在にしてるわけだから、出張中はとにかく集中して仕事しなきゃって思うんだ。
その代わり、出張がない週末は、家族と一緒にゆっくり過ごせる『神聖なひととき』で、他の予定を入れないで家族と一緒に過ごすようにしてる」

私の周りのデンマーク人を見ていても、出張中は予定をぎゅっと詰めている人は多いです。
場合によっては、日中は食事を抜いて仕事に集中する人もいます。
その代わり、出張から戻ってきたら家族との時間をしっかり持ちます。あるいは、出張先にそのまま家族を呼び寄せて、休暇を取ることもあります。
ガガッと集中して仕事をして、一段落ついたら、しっかり休みをとる。
仕事に振り切る時期もあるけれど、その分を必ずどこかで休んで取り戻すのです。

デンマーク人の生活を見ていると、メリハリがあります。
仕事をするときは集中して仕事をする、休むときはしっかり休む、誰かと一緒に過ごす時間は、スマホを置いて目の前の人と一緒に過ごす時間を楽しむ。「今この時間は何をする時間なのか」と、時間の使い方にとても意識的です。

ただ、休み方は、人それぞれ。休むペースも、人それぞれ。
無理して定期的に休まなくてもいいのです。自分の仕事の特性に合った、無理やストレスのない「休み方」を開発すればいいのです。
大切なことは、あまりに長期間にわたって、四六時中ずっと働き続けないこと。どんな形であっても「どこかで必ず休みを入れて、エネルギーを取り戻す」ことです。
そして、大切な人と一緒に過ごす時間を必ず持つことです。

デンマーク人は「充電」という言葉をよく使います。
日常的に少量の充電をしつつ、必ずどこかでしっかり「フル充電」をすることが大切です。
それが、仕事に前向きに立ち向かっていくための燃料になるのです。

 

誰かといるときにスマホをいじるのはマナー違反

デンマークの子どものいる家庭は「ファミリータイム最優先」で動いています。
家族で一緒に過ごす時間が少ない人にはちょっと想像しにくいかもしれませんが、大人の予定優先でもなく、子どもの予定優先でもなく、「ファミリータイム最優先」なのです。

平日の夕方以降と週末は、ファミリータイム最優先。
親が平日の夜に出かけることはあまりなく、子どもの習い事が夜遅い時間に入ることもあまりありません。
また、週末に開催するイベントは、基本的に家族を丸ごと招待するのが一般的です。

では、デンマーク人はなぜ親子で一緒に過ごす時間をそこまで大切にするのでしょうか。

クリエイティブ業界で世界の人と関わる仕事をしてきたマリエ・ルイーセは、その理由は、「人は体験によってつくられる」というデンマーク的な考え方が根本にあるからだ、と指摘します。
デンマーク人は、誰かと一緒にいる時間を、ただ一緒にいる時間とは思っていないのです。
誰かと一緒にいる時間は、その人と「一緒に体験している時間」であり、体験がその人を形づくる、と考えるのです。

たとえば、デンマーク人は、一緒にいながら、各自それぞれのスマホを見ている状況をあまり好みません。
なぜなら、各自がそれぞれスマホを見ている状況は、体験を共有していることにならないからです。
誰かと一緒にいるのであれば、その人と共有する時間を大切にしよう、という考え方をします。

わかりやすいのは、ヒュッゲ(心地良いひとときを過ごすこと)の時間です。
家族・親戚・友人・仲間...誰と一緒でもいいのですが、たとえば食事会やお茶会などのイベント中にスマホをいじるのは、マナー違反です。

絶対禁止とまではいかないのですが、みんなと一緒にいるときにスマホを触る場合は、一言、事情を説明するのが一般的です。
何も言わずにスマホを見たりしていると、一緒に過ごしている相手のことを大切にしていない、という印象を与えてしまうからです。
誰かと一緒に過ごす時間は、相手と一緒に「体験している瞬間」なのです。

では、デンマーク人はファミリータイムに何をしているのでしょうか。何を一緒に「体験している」のでしょうか。

日本でファミリータイムというと、家族と一緒にどこかに出かけるイメージがあるかもしれません。遊園地・水族館・動物園・プール・日帰り旅行など。
もちろん、デンマーク人も週末に家族でどこかに出かけることもありますが、それは特別な日や休暇であって、普段はわりと地味に身近なことを楽しんでいます。

子どもと一緒に、お菓子づくりをする、庭や公園で遊ぶ、近所の森や湖に行く、スポーツをする、焚き火をする、レゴブロックで遊ぶ、ボードゲームをするなど。
平日の夕方や週末は、大人の都合優先でもなく、子どもの都合優先でもなく、「ファミリータイム最優先」で身近な活動を「一緒に体験する」のです。

プロフィール

針貝有佳(はりかい・ゆか)

デンマーク文化研究家

デンマーク在住。1982年生まれ。2009年末にデンマーク移住後、15年以上にわたってテレビ・ラジオ・新聞・雑誌・ウェブなどからデンマークの現地情報を発信。「サタデーステーション」「ビートたけしのTVタックル」「ミヤネ屋」などに取材協力・出演。著書に、6万部のベストセラー『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHPビジネス新書)など。

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