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社内政治を根絶できない理由 「誰もが自由に意見を言える職場」ほど厄介?

2025年12月19日 公開

木村琢磨(昭和女子大学教授)

社内政治

「社内政治はないほうが良い」と語られることは多いものの、組織のなかで利害が交わるかぎり、調整や根回しは常に存在します。表面的に風通しが良く見える職場でも、価値観の同調や発言の力学が働くことは珍しくありません。本稿では、社内政治がなぜ消えないのか、そして組織にどのような影響をもたらすのかを考えるヒントを書籍『社内政治の科学 経営学の研究成果』より紹介します。

※本稿は、木村琢磨著『社内政治の科学 経営学の研究成果』(日経BP)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

社内政治は根絶できるか

会社で働く人たちの中には「社内政治はない方が良い」と考える人も少なくないと思います。もし組織の中から利害対立や根回しが一掃されれば、もっと合理的で透明性のある意思決定ができるのではないか、と考えることもあると思います。

一方で「うちの会社は風通しが良いです」「社内政治はありません」―このように言い切れる会社は、理想に近い組織といえるかもしれません。マネジャーであれ、一般社員であれ、派閥争いや根回しに煩わされることなく、誰もが自由に発言し、合理的に物事が決まっていく職場で働きたいと思うのは、おかしいことではありません。

しかしここでは、社内政治をなくせるかどうかを現実的に考えてみましょう。社内政治を完全になくすことは可能なのでしょうか? また、そもそも社内政治は本当に「ない方が良い」のでしょうか?

結論から言えば、社内政治は「なくせるもの」ではありません。さらに言えば、社内政治は「なくすことを目指すべきもの」でもなく「前提とすべき現実」です。そして、政治のない組織が健全な組織になるとは限らないということを私たちは認識しておくべきです。

ある企業で「風通しの良い職場づくり」を掲げた組織風土改革が実施されました。

「心理的安全性」(※心理的安全性:自分の考えや疑問、懸念、あるいはミスを口にしても、罰せられたり恥をかかされたりしないと信じられる状態のことを言います。1950年代に心理学者カール・ロジャーズが提唱し(Rogers, 1954)、その後にエドガー・シャインとウォーレン・ベニスによる組織開発の視点からの議論を経て(Schein & Bennis,1965)、エイミー・エドモンドソンが1990年代に職場のチーム研究に適用し、経営学の中でも1つの概念として確立しました(Edmondson, 1999))をスローガンとして、上司・部下の垣根をなくし「誰もが自由に意見を言える」雰囲気づくりが徹底されました。当初は活発なディスカッションが展開され、多様なアイデアが吸い上げられ、改革は成功したかのように見えました。

しかし、次第にある傾向が見え始めます。それは「多数派の意見」や「世間でポジティブに評価されている価値観」に基づいた発言ばかりが通りやすくなるという現象です。たとえば、環境意識やダイバーシティ推進といったテーマに関しては、肯定的な発言が「理解がある」「時代に合っている」とされる一方で、社内の実態をふまえた慎重論や懸念は「時代遅れ」「保守的」として軽視される空気が生まれました。

結果として、自由なはずの議論の場に、形を変えた同調圧力が漂うようになりました。この圧力を利用して、世間の流行を自分の主張の根拠として用いたり、「雰囲気を壊したくない」という心理を利用して、発言の方向性をコントロールしたりする人たちが現れました。

このように、表面的に政治がないように見える場が、実は最も政治的な空間になっていることもあります。

さらに重要なのは、「政治が存在しないことを証明するのは事実上、不可能である」という点です。何も表面化していないからといって、それが「社内政治がない」ことの証拠にはなりません。むしろ、静けさの裏で誰かが根回しを済ませているだけかもしれません。たとえ今は表面化していなくても、利害対立が強くなれば、政治的な動きが表面化または再燃するでしょう。

だからこそ、マネジャーに求められるのは、社内政治を駆逐することではなく「社内政治は常に存在する」という前提で、それを健全な調整機能として活用していく姿勢です。社内政治は悪ではありません。それは、人が集まって働く組織において避けることのできない現象です。それを理解し、うまくマネジメントしていくことが、優れたマネジャーへの第一歩なのです。

 

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