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60代以降のストレスは命を縮める!「早すぎる老化」を防止するポイント3選

小林弘幸(順天堂大学医学部教授)

ストレスが老化を促進する。いかにして日々リセットするかがカギだ

強い酸化力で体の細胞をサビつかせる元凶が「活性酸素」。順天堂大学医学部教授であり自律神経の専門家でもある小林弘幸氏は、「ストレスは活性酸素の一大発生原因であり、ストレスのリセット習慣があるかないかで老化や病気の進み具合にも大きな差がつく」と述べる。メンタルだけでなく健康にもかかわるストレスをケアするには、どんな対策をすればよいのか。3つのポイントで解説する。

※本稿は、小林弘幸著『60代からは体の「サビ」を落としなさい』(飛鳥新社)より一部抜粋・編集したものです。

 

ストレスにさらされ続けている人は実年齢よりも老けて見える

精神的・肉体的ストレスは活性酸素を増やす大きな原因となります。みなさんの中にも悩み、不安、心配事などを長く引きずっている人がいらっしゃるかもしれませんが、そのストレスの影響を甘く見てはいけません。何も対策しないままストレスを放っていれば、活性酸素が日々積み重なるように多くなって、「体をサビさせるもと」「老化や病気を進ませるもと」になっていくと思っておくほうがいいでしょう。

ストレスと活性酸素の関係性を少し説明しておくと、ストレスを感じると、まずコルチゾールなどのストレスホルモンが分泌され、それによって血管が収縮して血液の流れが悪くなり、血圧や心拍数が上がって、体内の酸素が急激に不足するようになります。

すると、体はこの状況を回復させようとして、大量の酸素を一気に取り込み出します。
これにより細胞のミトコンドリアが過剰に働いて多くの活性酸素が発生するようになるのです。

ですから、長い期間過剰なストレスを抱えて悩んでいると、連日活性酸素の害にさらされ続け、知らず知らずのうちに体のサビつき度を高めていってしまうようになるのです。

これは私の推測ですが、長年にわたって苦労を重ねて多大なストレスに悩まされ続けてきた人には、実年齢よりもだいぶ老けて見える人が多いという気がします。肌や髪の状態や顔色も悪く、自律神経のバランスも大きく崩れていて、健康面でも不調や病気などのトラブルを抱えた人が少なくありません。そして、やはりそれは、長年にわたって活性酸素のダメージにさらされ続けてきたのと無縁ではないのではないでしょうか。

みすみす活性酸素を増やして老化や病気を加速させてしまわないために、毎日の生活にストレスケアを取り入れて、ためすぎないよう適切にコントロールしていく必要があるのです。

 

孤独のストレスは予想以上に怖ろしい

ストレスをリスクマネジメントする方法を細かくいい出したらたくさんありすぎてキリがありません。なので、ここでは「ストレス過多で活性酸素を増やさないようにするための重要ポイント」を、思い切って3つに絞って紹介していくことにしましょう。

1つめは「孤独にならないようにすること」です。
ストレスの多くは人間関係のいざこざから生じるもの。日々人づき合いで悩まされていると「めんどうな人間関係なんか清算して、ひとりで静かに暮らしたい」と思うこともあるかもしれません。

しかし、だからといって、本当に孤独の身になってしまったら、人間関係に疲れていたときよりもいっそう高レベルのストレスが降りかかってくると思ったほうがいいでしょう。

孤独のストレスは予想以上に怖ろしいものなのです。人間はひとりでは生きていけない生き物。家にこもって誰とも会わないような生活をしていたり、社会的に孤立した状況で暮らしていたりすると、精神的にも身体的にも衰えが加速してしまうようになります。当然、活性酸素も大量に発生するでしょう。「人とのつながりがない」ということは、知らず知らずのうちに生存への不安を駆り立てて、人をストレスの泥沼へと追い込んでしまうものなのかもしれません。

海外では300万人を対象として調査した研究があり、孤独のストレスは寿命を縮めるほどのインパクトをもたらすことが分かっています。こうした研究によれば、孤独による死亡リスクは、1日に15本のタバコを吸ったり、アルコール依存に陥ったりするのと同じくらい危険度が高いのだそうです。

とくに注意すべきは仕事で定年を迎える60代の時期です。先にも述べたように、定年を機に家にこもってしまうのがいちばんいけません。外に出なくなったり人に会わなくなったりした途端、体調を崩したりうつ病になったりする人は数えきれないほどいらっしゃいます。だからむしろ、60代のこの時期こそ、ストレスをためないよう、意識して外に出て新しいことにチャレンジをしたり、積極的に人と会ってつながりを深めたりするほうがいいのです。

それに、年齢にかかわらず、こうした「孤独の怖さ」や「人とのつながりの大切さ」に関しては、わたしたちはコロナ禍のときに嫌というほど思い知らされたはずです。つながりを断ち切られ、外に出ることも人に会うこともろくに許されなかったあの時期、ストレスをため込み、活性酸素を増加させて、心身に不調を訴えたり病気になったりする人が続出しました。

わたしたちはあの経験を無駄にしてしまわないようにすべきです。ぜひみなさんも、なるべく若いうちから家族、仕事、地域などとの人とのつながりを大事にして、孤独な状況に陥るのを防ぐようにしてください。

 

意地を張らず、自分の弱みや衰えを柔軟に受け入れる

ストレスケアのポイントの2つめは「意地を張らないこと」です。

人はけっこう意地っ張りなものです。こうあるべきだとか、こういう生き方をするべきだとかといった考えで自身を縛っていて、その意地があるからか、自分と違う考え方や行動を認めたがりません。

また、そういう人はけっこうプライドが高く、他人に弱みを見せたり、弱音を吐いたりするのを嫌う傾向があります。この傾向はとくに男性に顕著なのですが、日頃から意地を張って自分を鎧で固めていると、鎧を脱いだときの自分の姿を周りに見せられなくなってしまうのかもしれません。

しかし、こういう意地っ張りタイプの人が、じつはもっともストレスに対して弱いのです。

悩みやストレスというものは、自分ひとりで抱え込んでしまうのがいちばんいけません。ところがこのタイプの人は、他人に相談したり他人に助けを求めたりすることが大の苦手。悩みや不安、心配事などがあっても、誰にも相談せず、誰にも助けを求めず、自分だけでどうにかしようと抱え込み、そうこうするうちにそのストレスをどんどん大きくしてしまいます。

なかにはストレスを肥大させたあげく体調を崩し、うつ病になったり重大な病気になったりするケースも少なくありません。その原因は、間違いなく、長い間ストレスにさらされているうちに活性酸素がじわじわと心身を蝕んだせいでしょう。

とりわけ、60代を過ぎて高齢になってくると、体力や筋力も落ち、自律神経の力も落ちて、だんだんこれまで普通にできていたことができなくなってくるようになります。そうすると、必然的に日々の不安や心配事がかさんでくるようになります。いつまでも意地を張ってひとりでストレスを抱え込んでいたら、体中で活性酸素が悪さを働き出して、みすみす衰えを進ませてしまうことになりかねません。

だから、意地を張っていてはダメなのです。

自分の弱さを見せても何ら状況は変わりません。だから、自分を覆っていた鎧を脱ぎ捨てて、素の自分のまま人とつき合っていけばいい。悩み事や不安があるときは人に相談すればいいし、困ったときは人に助けを求めればいい。とくに高齢に近づいていろいろなことが思うようにいかなくなってきたときは、ひとりで何とかしようとせず気軽に周りにヘルプを求めていくべきなのです。

私は、そういうふうに意地を張らずに柔軟な姿勢で振舞っていくほうが、ストレスや活性酸素の害を大幅に減らし、結果的に自分の身を守ることにつながっていくと思います。鎧を脱ぎ捨てて身軽になってしまうほうが、日々の人生を強く生きられるものなのです。

 

ストレスのリセットには「3行日記」がおすすめ

3つめのストレスケアのポイントに移りましょう。

それは、1日1日、ストレスをリセットする習慣をつけることです。悪い流れを引きずらず、その日限りで断ち切る習慣といってもいいでしょう。

そもそも私は、ストレスはあるのが当たり前だと思っていますし、自律神経は乱れるのが当たり前だと思っています。

イライラしたり、不安を感じたり、焦りや緊張を覚えたりするきっかけは日常生活のいたるところにあります。誰しもそういうことがあるたびにストレスを感じ、自律神経を乱しているもの。1日の仕事を終え、家にたどり着く頃にはもうヘトヘトになっているかもしれません。日中の活動でそういった乱れた状態になるのは、みんなそう大差ないのではないでしょうか。

ただ、ストレスケアで差がつくのは、じつはここからなのです。どういうことかというと、1日のストレスや自律神経の乱れをその日のうちにどうリセットしているかで大きな差がつくんですね。ストレスを日々ずるずるとため込んでしまうのと、ストレスを1日1日リセットしているのとでは、日々活性酸素が及ぼす影響度も大きく違ってくるはず。

つまり、悪い流れをその日のうちに断ち切るリセット習慣があるかないかで、活性酸素の発生量にも差がつくし、その結果、老化や病気の進み具合にも大きな差がつくと考えられるわけです。

では、1日のストレスや自律神経の乱れをその日のうちにリセットするには、どのようなケアをすればいいのか。
これに関して、私はかねてから1日の終わりに「3行日記」をつけることをおすすめしています。
ネーミング通り、この日記はたったの3行。長々と文章を綴る必要はありません。しかも、書くべきテーマが3つ決まっていて、そのテーマを1行ずつ書いて3行にしていけばいいのです。

その手順は次の通りです。

【1】今日、いちばん悪かったこと(失敗したことなど)を書く
【2】今日、いちばんよかったこと(感動したことなど)を書く
【3】明日の目標を書く

1日1日、その日に起きた出来事を振り返りつつこの3つを書き起こしていると、自然に呼吸が整い、自律神経が整って、心身が鎮まってきます。すると不思議なもので、その日1日のストレスや気持ちの乱れが氷が溶けるかのように小さくなっていくのです。

そもそも、日記とは「その日の心の片づけ作業」のようなもの。散らかっている部屋を片づけると気持ちがすっきりするのと同じように、日記で心を片づけると、その日の自分の乱れた心身をすっきりとリセットできます。また、そのリセットによって、明日を迎える準備が整い、悪い流れを引きずることなく、よりよい状態で1日をスタートできるようになるわけです。

なお、この「3行日記」は、手書きで1文字ずつていねいに書くのがセオリーです。手書きで短く書き綴った言葉は、人の意識に深くインプットされます。1日1日を振り返りながらその意識づけを繰り返していると、自分の仕事、生き方、健康、ストレスなどに対する見方がだんだん変わってきて、自分をよりよい方向へシフトしていけるようにもなっていくでしょう。

とにかく、今日という日にいかに片をつけて、明日という日をいかに迎えるか。1日の最後にそのリセット作業をやっているかどうかで、日々のストレスのたまり具合は大きく変わるものなのです。

このリセット作業は、当然、活性酸素の発生量を少なく抑えることにもつながっていくはず。ぜひみなさんもストレスケアの一環として「3行日記」を習慣づけてみてはいかがでしょうか。

プロフィール

小林弘幸(こばやし・ひろゆき)

順天堂大学医学部教授

1960年、埼玉県生まれ。92年、順天堂大学大学院医学研究科博士課程を修了後、ロンドン大学附属英国王立小児病院外科などの勤務を経て帰国。順天堂大学小児外科講師、助教授を歴任後、現職。自律神経研究の第一人者としてアスリートや芸能人のアドバイザーを務めるほか、TV出演などメディアでも活躍中。

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