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老後の不安、介護の悩み...精神科医が説く「50代で陥りがちな問題」への対処法

2024年09月05日 公開

Tomy(精神科医)

精神科医Tomyのアドバイス

Xフォロワー39万人突破の大人気精神科医Tomy氏。ゲイのカミングアウト、愛するパートナーとの死別、そして、うつ病の発症......苦しみぬいて得たその考え方は、多くの人にヒントを与えてくれる。『THE21』2024年10月号では、50代が陥りがちな仕事・お金・家族の相談事をTomyさんが解決。その温かくも、斜め上からの回答に、モヤモヤした悩みも一掃されるはずだ。(構成:辻 由美子)

※本稿は、『THE21』2024年10月号特集「50代で必ずやっておくべきこと」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

悩んでいるうちは現状を変えなくていい

【仕事】
役職定年で責任ある仕事も任されなくなり、後輩が上司に。一気にやる気がなくなりました。 従業員数300人規模のメーカーで部長をしていましたが、55歳で役職を外され、部署異動になりました。給与が下がってモチベーションをそがれたうえに、7期下の後輩が自分の上司に。会社に行くのがつらいです。(56歳・男性)

 

――つらければ辞める。でもその決意がつかなければ「動くな」。――

給与が下がって立場も変わるのは、ドライに言えば、会社に辞めろと言われているのと同じかもしれませんね。それに対してアナタがどう応えるのかという問題です。

今の状態で仕事をやりたくないなら辞めればいい。でもトータルに見て、本当に辞めたいのかは、ちゃんと見極める必要がありますね。

アナタの場合、定年まであと数年からせいぜい10年程度。定年まで勤めた場合と早期退職した場合の退職金や年金など色々考慮して、このまま在籍したほうがいいと納得できるのであれば、我慢して居続けてください。

辞めないと決意すれば、自分の状況にも諦めがつくので、給料が下がろうが、後輩が上司になろうが関係ない。精神的には落ち着きます。仕事以外のことに取り組んだり、喜びを見出したりして、会社ではルーティンを続けましょう。10年なんてあっという間ですよ。

一方、今の状況に納得できない、トータルで見ても辞めたいという気持ちが勝るのであれば、さっさと早期退職しましょう。

もっとも、一番多いのは、辞めるか辞めないか、決断できずに悩んでいる人ではないでしょうか。決断できないということは、まだ納得がいっていない証拠。精神科医的にアドバイスすると「動くな」が答えです。悩んでいるうちは現状を変えなくていい。無理して動かなくていいのです。悩まなくなったとき、人は勝手に動き出します。

もっともアナタの場合は、たかだか数年から10年くらいの話なので、悩んでいるうちに出口がやってくる気がします。その間、うじうじ悩んでいるわけですが、精神的にバランスを取るコツとして、「順番公平」と思うようにしましょう。

ある年齢に達すれば、多くの人がアナタと同じ立場に置かれます。給料が下がるのも、後輩が上司になるのも年齢的な問題。順番に公平にやってくることなので、恥ずかしいことでも、悔しいことでも何でもありません。

会社も「そろそろ定年だから自覚してね」という優しさで今のポジションを与えたのでしょう。そう考えると、特に恨む筋合いもない。「順番公平」にやってくる状況だと冷静に受け止め、静かに定年の日を待ちましょう。

 

老後のことは老後になってから考える

【お金】
老後のお金が全然足りません。「老後2,000万円は必要」と言われると、不安しかないのですが。 子ども2人が私大の大学生で、ボーナスはほぼすべて教育費で消えていきます。まだ家のローンも残っていて、生活もかなり切り詰めているのですが、老後に必要なお金を計算するとまだまだ節約が必要。安泰な老後を過ごせるのか、不安です。(53歳・男性)

 

――今から心配しても意味がない。手持ちのカードで何とかする工夫を。――

老後のことは老後になってから考えましょう。今から考えても結局、皮算用にすぎません。アナタも老後まで生きるとは限りませんし、計画通り老後資金を貯めても、大きな病気をして予定が全部パアになる可能性だってある。戦争が起きて、円やドルの価値がゼロになることだってあるかもしれません。今までそういう歴史を何度も繰り返してきたではありませんか。

そもそも今の物価を基準にして、将来の生活費を計算すること自体がナンセンスです。将来いくら必要かなんて、誰にもわからないのだから、そのときになってから考えても遅くはないでしょう。

そうは言っても、もしそのとき、手もとにお金がなかったら困るのでは? と思うかもしれませんね。その場合は最悪、生活保護を受けてもいいと考えておけばいいのです。まさか今の日本で餓死することはないでしょう。

ぶっちゃけ、いずれみんな死ぬ。だったら、生活保護も含めて、色々な経験をしておいたほうが有意義だと思うのです。

そこまで開き直れず、どうしても将来の不安に目がいってしまう人には、今日一日を楽しむ癖をつけることをお勧めします。明日のことは考えない。今日一日をどうやって楽しく過ごすかだけを考えるのです。

それは手持ちのカードで何とかするという訓練にもなります。人はみな手持ちのカードでやりくりするしかありません。だったら、今のうちからその訓練をしておく。そうすれば、老後になってカードが少なくなっても、置かれた環境で今日一日を楽しく過ごす工夫ができるでしょう。

それに冷静に考えれば、老後にそれほどお金は必要でしょうか? 子どもはとっくに独立しているので、教育費はいらない。

自分自身についても、若いときと違って、未来の選択肢を広げるための出費は必要ありません。これから留学したり、大学院に入ったり、資格の勉強をするためにまとまったお金が必要、という人はほとんどいませんよね?

住宅ローンだけが気がかりですが、どうしても払えなくなったら自己破産すればいいのです。

老後は究極、自分ひとりまたは夫婦ふたりが食べるだけの食料と清潔なスペースがあればいい、とアテクシは思います。ミニマリストはその生き方を実践している人たちです。彼らはそれで十分幸せなのですから、老後はミニマリスト的に生きる。そうすればそれほどお金はいらないのではないでしょうか。

老後のために今から必ずこれをやらなきゃいけない、と思いすぎないことです。平均寿命までもうそれほど時間は残っていないと考えれば、今の今を楽しむことが大切です。 

 

頑張る介護は長続きしない

【介護】
遠方に住む親に介護が必要に。きょうだいと力を合わせているが、お金も体力ももう限界......。 京都に住む要介護の父(80代後半)。その父を世話していた母(80代前半)にステージⅣのがんが見つかり、抗がん剤治療が始まりました。きょうだいで役割分担して、私も月2回ほど東京から手伝いに行きますが、お金も体力も限界です。(55歳・男性)

 

――子どもが犠牲になるのは親も不本意。親孝行のつもりで、自分を優先して。――

介護の問題は、まずケアマネジャーさんなどその道のプロに相談するのが先決ですね。そのうえで、介護を受ける親御さんの状態やアナタの経済状態、ライフスタイルも考えながら、無理のないところで折り合いをつけるしかありません。

親がかわいそうだからと無理をして頑張る人がいますが、親から見たら、自分のために子どもが窮地に追い込まれるのは不本意でしょう。ここは親に甘えて、多少のことは我慢してもらい、自分の生活を優先するほうが親孝行だと思います。

もし自分のことしか考えず、子どもの都合などどうでもいいという親だったら、お互いさまなので、割り切って施設なり、病院なりに入ってもらえばいい。

どちらにしても、できることしかできないのですから、無茶をして自分を犠牲にしないこと。頑張る介護は長続きしないし、誰のことも幸せにしません。 ただ、「自分のことより親の面倒を見たほうが幸せ」という人は介護を優先してかまいません。その場合でも、自分の気持ちを第一にしているので、自分を優先していることに変わりはありませんので。

 

離婚したあとの人生をひとりで生きられるのか

【離婚】
子どもも巣立ち、もう夫とは離れて生きていきたい。夫の定年を機に離婚を決断していいでしょうか。 ひとり息子も大学を卒業して就職。自分の将来について考えることも増えました。来年定年で、もう会話もない夫。「死ぬまで一緒に暮らすことで自分は幸せなのか。もう解放してもらいたい」と強く思うようになりました。離婚したいです。(49歳・女性)

 

――離婚後の生活が晴々したものとは限らない。ひとりで生きていく覚悟はあるのか。――

離婚してひとりで生きていくことに納得できていれば離婚すればいいし、迷いがあるなら、まだ納得できていないのだから、「動くな」。つまり離婚しないほうがいいですね。

それに、離婚したあとのことも、しっかり考えておく必要があります。離婚したのに同居していたり、復縁するなどわけのわからないことをする人がいるのは、離婚後の生活の見通しが甘かったから。

みな離婚すると晴々とした生活が待っていると思いがちですが、現実はシビアです。経済的な問題はもちろんですが、ひとりで暮らす寂しさや不便にも耐えなければなりません。

自分は夫の面倒ばかり見ていたという不満があるかもしれませんが、自分も面倒を見てもらっていたことを忘れてはいけません。お互いさまという認識が欠けているのです。

それまでは、夫という存在があったので、法的に守られている部分もあり、ある意味安心できました。そういう存在がまったくなくなってしまう。つまり、今までいた人がいなくなる状態を具体的にしっかり考えておくべきです。

寂しさに耐えかねて新しい相手を探したとしても、50、60歳になって、素晴らしい出会いがあるとはあまり期待できません。

今までずっと長く結婚生活を送ってきた人が、それまで以上に長くいられる人とめぐりあえる確率はほぼゼロでしょう。 離婚したあとの人生をひとりで生きられるのか。それでも離婚したいと決断できるのであれば、アテクシは何も言うことはありません。思う通り人生を歩んでください。 

 

著者紹介

Tomy(とみー)

精神科医

1978年生まれ。名古屋大学医学部卒業後、医師免許取得。精神保険指定医、日本精神神経学会専門医。2019年6月から本格的に旧Twitter(現X)で投稿を開始すると大きな反響を呼び、現在はフォロワー39万人超。著書に『精神科医Tomyの ほどほど力』(だいわ文庫)ほか多数。

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2024年10月号

THE21 2024年10月号

発売日:2024年09月06日
価格(税込):780円

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