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部下に任せたつもりが、リーダー失格を招く「丸投げ」ワードとは?

五十嵐剛([株]リーダーズクリエイティブラボ代表取締役CEO)

任せる勇気

優秀なプレイヤーほど、リーダーになると「任せられない病」に陥りやすい――。日本電気株式会社(NEC)で1000人規模のプロジェクトを何度も率いてきた五十嵐剛氏は、そんなリーダーの"任せることへの苦手意識"を打ち砕くためには、「任せる技術」だけではなく、メンバー心の底から信じ抜く「任せる勇気」が必要だと語る。本連載では、『任せる勇気』(三笠書房)から、メンバーに仕事を依頼するときの最重要ポイントを紹介します。

※本稿は、五十嵐剛著『任せる勇気』(三笠書房)より一部抜粋・編集したものです。

 

リーダーの責務は「1本の線」を引くこと

レッドラインとは、納期・予算・品質基準といった「超えてはいけない一線」のことです。リーダーは、この境界線を明確に引く必要があります。
なぜなら、こうすることで「この線までは、あなたの裁量で動いていい」という、信頼と権限委譲のサインをメンバーに伝えることができるからです。

具体的な例を挙げるとするなら、
「原価800万円までなら、あなたの判断で自由に決めて構いません」
「納期さえ厳守できるなら、プロジェクトのスケジュールは任せます」
「品質を担保できるなら、開発方式は最適だと思うものを選んでいいよ」
といった具合でしょう。

会社のチームでランチに出かける場面を想像してください。

上司から「今日のお昼、いい感じのお店を探しておいて」とだけ伝えられても、メンバーは「予算はどのくらいなんだろう」「ジャンルは何でもいいのかな」などと、多くの疑問にぶつかります。結局、お店を全然絞り込めずに時間だけが過ぎていく、という状況になりがちです。

しかし、上司が「予算は1人1500円までで、和食かイタリアンに絞ってくれる? あとは君の好きな店を選んでいいよ」とレッドラインをはっきり示したらどうでしょうか。

メンバーにも裁量の余地が生まれ、安心してお店を探すことができます。

このように、任せる上で大切なのは「ここだけは絶対に守ってほしい」というレッドラインをメンバーに伝え、ある程度の権限を委譲させることです。

1本の境界線が、メンバーに「これを守ってさえいれば大丈夫だ」という安心感を与えるとともに、「自分で試行錯誤できる」という自律性も育むわけです。

 

絶対に言ってはいけない「リーダー失格」の言葉

しかし、この原則を理解せず、「任せる」を「丸投げ」や「指示」と混同してしまっているリーダーが非常に多くいます。

例えば、「丸投げ型リーダー」はこのような言葉をよく口にします。
「○○さんの好きなようにやっていいよ」
これは、レッドラインを明確にしないまま、ほぼすべての権限を相手に与えてしまっている状態なので、「任せる」とは言えません。

たしかに、メンバーの好きにやらせたほうが自分の時間を取られることもないし、接する機会を最小限に抑えることで、昨今の多様化するハラスメントを事前に回避することも叶うでしょう。

しかし、丸投げは、レッドラインを引く責務の放棄です。

仕事を任せる場面において、このような言葉を安易に投げかけてしまうのは、はっきり言って「リーダー失格」なのです。

 

大型プロジェクトで経験した「リーダーの孤独」

そして、「レッドラインを明確にし、ある程度の権限をメンバーに委譲する」という原則に従うと、「指示」という行為も「任せる」とは明確に異なることがわかります。

なぜなら「指示型リーダー」は、メンバーに一切の権限を与えず、自分の言った通りにしか行動させないからです。

自分の裁量で動くことができないならば、それはただの命令遂行にすぎません。

もちろん、指示することが必要な場面もあります。難易度の高い緊急プロジェクトなどでは、強い統治がなければ成り立たないこともあるでしょう。

ただ、恐ろしいのは、リーダー自身が「任せる」と「指示する」を混同させやすいことです。「指示型リーダー」は、一時的ではあるものの、チームの成果をそれなりに出すことができてしまうため、「自分は上手に任せられている」という勘違いを起こしやすいのです。

私自身も管理職になってしばらくは、典型的な「指示型リーダー」でした。

メンバーへの仕事の振り分けばかりを考え、「○日までに終わらせておいて」「□□の進捗状況を共有して」と、一方的な指示ばかりを繰り返していました。

メンバーに権限を委譲することなど、まるでできていなかったのです。

なのに、私は「うまく任せられている気」になっていました。

しかし、「指示型リーダー」のもとでは、メンバーの自主性は生まれません。メンバーは私から言われたことを、ただやるだけ。しかも、うまくいかなければ責められる。

メンバーの目は死んでいました。恐ろしいことに、私はそれに気づけていませんでした。そして何より、私自身も常に気が張り詰め、クライアントや会社からの厳しい要求とメンバーの価値観とのギャップに挟まれ、いつも1人で孤独でした。

 

最高の結果は、いつだって「常識の外」にある

このような「指示」から生み出される成果物は、リーダーの能力と常識の範囲内のものにしかなりません。
つまり、リーダーの技量以上の結果は生まれないということです。

中央官庁がクライアントの案件で、若手のメンバーに提案資料の作成を任せてみたときのこと。私はそのとき別の作業に追われ、資料作成の方法について事細かに指示する余裕がありませんでした。

すると、それまでのルールでは、中央官庁へ提出する資料はワードで作成すると決まっていたのですが、彼はパワーポイントで作成してきたのです。
資料を作り直させる時間がなかったので、「もしお叱りを受けたら私がお詫びしよう」という覚悟で、そのまま打ち合わせに臨みました。

しかし、私の心配をよそに、打ち合わせは無事終了。かつてないほどスムーズに、提案は受け入れられました。

そして最後に、「これまでで一番わかりやすかったよ」というお褒めの言葉までいただいたのです。間違いなく、細かな指示を出さずに、ある程度の裁量がメンバーにあったからこそ得られた結果でした。

 

境界線を引くための「超実践的フレーズ」

繰り返しますが、仕事を任せる際は、まずはメンバーの裁量で自由に行動できる「余白」を作ることが不可欠です。

そのために、次のフレーズを口ぐせにしてみてください。

「この範囲までは、任せる」

私はこの言葉を習慣化させたことで、「指示型リーダー」から脱却することができました。

このフレーズによって、
「これを守れる範囲内であれば、いちいち報告しなくてもいいよ」
「ただし、これを守れない恐れがあるとなったら、即時報告してほしい」
という2つのメッセージを、同時に伝えることもできます。

明確なレッドラインを設定することによって、メンバーはリーダーへの細かな報告に煩わされることなく、任された仕事に集中できるようになるわけです。

著者紹介

五十嵐剛(いがらし・つよし)

(株)リーダーズクリエイティブラボ代表取締役CEO、いきいきチーム創り仕掛け人

長野県東御市出身。上田高校卒。
東海大学卒業後、長野市のNECグループ会社に入社し、NEC本社に逆出向。実績を認められて移籍。中央官庁の大規模システムプロジェクトを担当するなど、リーダーとして多様な現場を経験。年間売上600億円、メンバー1000人超のプロジェクトを率い、NECグループ12万人の中から年100人しか選ばれない社長賞を前代未聞の4度受賞。しかし、その裏で「指示型リーダー」として任せられない苦悩を重ね、突発性難聴を発症。孤独の中で「任せる勇気」こそがチームを動かす原点だと痛感し、トップダウンとボトムアップを融合させた独自のマネジメントスタイルを確立。すると、わずか半年で危機的プロジェクトをV字回復へ導く。
2023年にNEC を定年退職。株式会社リーダーズクリエイティブラボ代表取締役CEOに就任。チームを自律に導くリーダーの育成や、結果を出すチームビルディングを支援している。
著書に『結果を出すチームのリーダーがやっていること』(すばる舎)がある。

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