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生産性や利益率アップへの重要な要素「従業員エンゲージメント」とは

グロービス経営大学院 著,嶋田毅(グロービス経営大学院教員/グロービス出版局長)執筆・監修

「従業員エンゲージメント」を高めることが業績アップにつながる

自身の業務に対して積極的な姿勢で取り組み、組織への貢献意欲が高い。そんな人材を多く抱える企業であれば、業績にも期待が持てるだろう。そのためには企業と従業員の相互理解度をはかる「従業員エンゲージメント」を高める必要がある--社員のやる気や成果にも大きくかかわる指標に着目する企業が増えている。

※本稿は、グロービス経営大学院 著、嶋田毅 執筆・監修『強くて元気な営業組織のつくりかた』(東洋経済新報社)より一部抜粋・編集したものです。

 

人材はコストから資本へ

皆さんの組織にいるセールスパーソンは、企業にとって「コスト」でしょうか、それとも企業活動の元手となる「資本」でしょうか。いずれも間違いではありませんが、現在は「コスト」から「資本」へ、考え方が変わっていく過渡期にあると言えるでしょう。そして、「人材=資本」という認識を持たないと勝ち残れない時代が近づいているとも言えます。

昨今、「人的資本経営」という言葉をよく目にします。人的資本経営とは、人材を「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげるという経営の在り方です。

企業は、従業員=資本という考えのもと、従業員に給与や賞与だけでなく、快適に働く環境の整備や人材育成なども含めた多様な投資を行います。その結果、社員のエンゲージメントの上昇やスキルアップにつながり、生産性向上を生み出して、企業の業績が向上するという流れが生じます。人材を資本として捉える企業が投資家や求職者から高く評価される時代が来ているのです(『日本経済新聞』2023年7月24日「人的資本人≠コスト、成長引き出す」)。

 

高いエンゲージメントが生み出す高い成果

従業員への投資を通じて高めたいものの一つに「エンゲージメント」が挙げられます。皆さんの所属する企業でも、従業員エンゲージメント調査を実施していたり、従業員エンゲージメントを高めるための施策が計画・実行されていたりするかもしれません。

エンゲージメントとは「誓約」「約束」「契約」など、深い関わりや関係性を意味する言葉です。「顧客エンゲージメント」など、複数の場面で使われるエンゲージメントという言葉の中でも、ここでは「従業員エンゲージメント」にフォーカスします。

従業員エンゲージメントとは、従業員の自社に対する信頼の度合いや企業への貢献意欲を示す指標です。もう少し別の表現をすると、「企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い」とも言えます(リンクアンドモチベーション「『エンゲージメントと企業業績』に関する研究結果」2018年)。

従業員エンゲージメントを高めるには、従業員が企業に対して一方的に貢献するという関係性ではなく、従業員と企業が対等な関係の下で、お互いがコミットし合う関係を構築する必要があります。企業は「従業員がイキイキと働き、高い成果を出せる環境の提供」にコミットし、反対に従業員は「企業の業績向上」にコミットするのです(日本パブリックフェアーズ協会「従業員エンゲージメント活用による企業経営の新たな潮流~ISO‒30414を中心とした国際動向と国内最新事例からの分析と考察~」岩本隆2021年11月11日発行)。

つまり、従業員エンゲージメントが高い状態=企業と従業員が対等な関係性を持って、企業の成長に十分コミットできている状態です。まさに我々が目指す「士気高く、共通のゴールに向かう組織」=従業員エンゲージメントが高い組織です。

過去の調査で、従業員エンゲージメントスコアが高まると、営業生産性や営業利益率が向上することがわかっています(リンクアンドモチベーション「『エンゲージメントと企業業績』に関する研究結果」2018年)。さらに、Gallupの調査によって営業組織においては比例して顧客からの評価も高くなり、離職率は低くなる傾向が見られます(Gallup,2017,"The Relationship Between Engagement at Work and Organizational Outcomes")。ここからも従業員エンゲージメントの向上が業績アップのために重要であることがわかります。

営業組織に所属する人々は顧客を第一に考える傾向が強く、それ自体はもちろん重要です。ただ、それと同じくらい自分自身のことも大切にすることが「強くて元気な営業組織」を作るためには必要なのです。

 

従業員エンゲージメントを高めるために

それでは、どのようにして従業員エンゲージメントを高めていけばよいのでしょうか。従業員と会社の関係性に基づく従業員エンゲージメントは、職場へのエンゲージメントと会社へのエンゲージメントの2つの構成要素で成り立つとされています。

職場へのエンゲージメントとは、所属するチームの目標実現や成果創出に向けて、自ら進んで貢献したいと思えている状態です。もう一方の会社へのエンゲージメントとは会社の理念、製品・サービスに共感し、会社への愛着と将来への期待を持てている状態です。

営業担当者は、時には厳しいクレームや目標達成に向けたプレッシャーにさらされるため、組織全体でエンゲージメントを高めることが非常に重要です。そのためには、マネジャーなどの中間管理職の役割が非常に重要になりますし、組織の各階層に上記の2つのエンゲージメントを高める仕組み・仕掛けを作らなければなりません。そして、この仕組みは自社のセールスコンセプトに沿って設計される必要があります。

一例としてグロービスの例を紹介します。グロービスの営業組織では、提案資料のコンテストを実施して専門性を相互に磨き上げています。優れた提案は同僚や上司から強く賞賛されます。また、会社がグロービス経営大学院への進学をサポートしており、さらに、ゆくゆくは講師として独立するという道も用意しています。こうした仕組みが相まって会社へのエンゲージメントの向上を実現しています(そもそも人材育成や組織開発というビジネス自体がやりがいを感じられる仕事であるという側面もあります)。

著者紹介

グロービス経営大学院(ぐろーびすけいえいだいがくいん)

社会に創造と変革をもたらすビジネスリーダーを育成するとともに、グロービスがさまざまな活動を通じて蓄積した知見に基づく、実践的な経営ノウハウの研究・開発・発信を行っている。
https://mba.globis.ac.jp/

嶋田毅 <執筆・監修>(しまだ・つよし)

グロービス出版局長、グロービス経営大学院教員

東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。著書に『MBA100の基本』『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』『KPI大全』(以上東洋経済新報社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。

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