2025年11月17日 公開

企業にはそれぞれの「経営理念」があるが、ただの題目になってはいないだろうか。理念が日々意識されている企業と、そうでない企業の違いはなにか。セールスパーソンに理念を浸透させるメリットとは。好業績を叩き出す企業を調査・研究するグロービスが、士気の高い組織を形成する企業の特徴を解説する。
※本稿は、グロービス経営大学院 著、嶋田毅 執筆・監修『強くて元気な営業組織のつくりかた』(東洋経済新報社)より一部抜粋・編集したものです。
皆さんの職場のゴールは何でしょうか。今月の営業目標売上を達成することでしょうか。顧客企業の皆さんに喜んでもらうことでしょうか。それとも一人ひとりの社員が活躍して成果を出せていることでしょうか。
さまざまな答えがある中で、一番大きなゴールは何かと考えたとき、それぞれの会社が掲げる経営理念に立ち戻ることになるのではないでしょうか。
我々が着目した企業の経営理念を見てみると、キーエンスの「最小の資源と人で最大の経済効果(付加価値)を上げる」、リクルートの「私たちは、新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、一人ひとりが輝く豊かな世界の実現を目指す」、グロービスの「ビジネスを通しての社会貢献、自己実現の場の提供、理想的な企業システムの実現」などがあります。いずれもそこまで特別な表現ではありませんが、やはり各企業の色が出ています。
皆さんの会社にも経営理念やそれに近しいものはあるでしょう。その理念を今、何も見ずに言えますか?自分自身は覚えていたとして、メンバーの皆さんも同じでしょうか。さらには、その理念を意識して、日々の意思決定やコミュニケーションを行っていますか?ここまで来ると「そこまでは意識していない」という方も多いのではないでしょうか。
企業は多くの人が関わって運営されている組織です。採用段階である程度は企業にマッチする人材が選択されているとはいえ、何もしなければバラバラな方向に進んでしまいます。
そのような状況を回避し、皆で共通のゴールに向かうための北極星のような位置付けとなるのが、企業の理念体系です。顧客や社会に対する存在意義、大切にする価値観、体現すべき行動指針などが含まれます。このような理念体系を定め、浸透させることで、社員一人ひとりの意欲が高まり、ベクトルがそろった強い組織となります。今回詳細調査を行った強くて元気な営業組織を有する企業でも、理念体系の浸透が徹底されていることがわかりました。
まず、キーエンスの例を紹介しましょう。キーエンスの営業組織の会議には、経営理念がそのまま登場します。会議の中で、「取るべき行動が経営理念に即しているか」、つまり「最小の資源と人で最大の経済効果(付加価値)を上げられているか」を判断軸として意思決定がなされているのです。高い営業利益率が有名な同社ですが、改めてこのような日々の地道な取り組みが背景にあることを思い知らされます。
この経営理念については、マネジャーレベルだけでなく、セールスパーソン一人ひとりが暗唱できるレベルにあるかをチェックする体制もあります。これにより、経営理念が日々の営業活動の行動基準となり、意思決定のスピードを速めることにも寄与しています。
もう一つプルデンシャル生命保険の例も紹介しましょう。同社は、セールスパーソンの理念体系への「共感」を大切にしています。理念は上から降ってきて、なんとなくそれに従うものと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、同社は数歩進んで従業員の「共感」を目指しているのです。
プルデンシャル生命保険ではまず、入社前の採用プロセスでかなり時間をかけて理念に対する共感を確かめます。また、入社後もワークショップ形式のイベントを通じて、社員が自社の理念体系について能動的に考え、自分事としてアウトプットする機会が設けられています。
同社には理念浸透の専任チームもあり、以上のような非日常の取り組みだけでなく、週2回の定例ミーティングで共通価値観に触れる仕組みもあります。目にする、耳にする、意識するといった回数が多いことで、理念体系への共感が高められるようになっています。まさに理念浸透が徹底されている企業ですが、これだけやるのはもちろんかけた労力以上の成果につながると確信しているからでしょう。
皆さんの会社で、ここまでのことをすべて取り入れるのはややハードルが高いでしょうし、各社いろいろな事情があると思います。ただ、営業が強い会社では、経営理念が経営層、中間管理職、現場に至るまで、口を開けばすぐ出てくるほど浸透しているというのも事実です。
更新:11月18日 00:05