2022年10月21日 公開
2023年02月08日 更新
幸之助が巨大な組織を統率できたのは、それだけの人の心に火を点けた結果である。筆者は幸之助の指導を受けた数多くの部下の証言を聞いてきた。厳しい叱責を受けた人は数知れず、中には貧血を起こした人までいる。
こんな話が残っている。ある失態をして、社を退職せざるを得なくなった人物がいた。彼は幸之助個人には恨みはないが、少しばかり納得できない部分が残っていて、職場での最後の挨拶のときに、その思いをぶちまけてしまおうと腹を決めていた。
ところが、その前に幸之助がマイクを握った。幸之助が語り始めたのは、彼がどれほどの素晴らしい仕事をして社に貢献したかという苦労話であった。その彼が退職することに対する自分の忸怩たる思いも続いた。
いつの間にか当人がもらい泣きをしてしまって、彼がマイクを渡されたとき、出てきた言葉は本人も予定外の感謝の言葉だけだったとか。今で言うなら職場テロを防いだことになるのだろうか。
松下電器元常務・山崎孝氏は、叱られ話をひと通り披露したあと、筆者にこう言った。
「感情のまま怒っているようでいながら、創業者は目の前の人物をどういう心持ちで立たせるかを計算している。よし、やるぞという気持ちで終わらせるように」
「君やから任せているのに」等叱りながら褒め、叱った翌朝フォローの電話までする幸之助の配慮は、心の変化性を確かめるルーティンなのかもしれない。
更新:11月22日 00:05