2019年04月17日 公開
韓国の小説は、日本の小説を読む人にとって違和感があるものではない、と金氏は話す。
「あえて違いを言えば、日本の小説のほうが個人史的で、韓国の小説には社会が透けて見えるものが多い、ということでしょうか。
社会が透けて見えるからこそ、日本でも韓国の小説を読む人が増えているという面もあると思います。韓国社会には、閉塞感があったり、若い人が仕事がなくて厳しい状況に置かれたりと、日本社会と重なるところが多くあります。
例えば、チョ・ナムジュさんの『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房刊)は、昨年12月に日本語訳が出版されてから2カ月ほどで約6万部が発行されていますが、女性の生きづらさを描いた小説です」
もちろん、作家によって作風は様々だ。
「ハン・ガンさんは、人間が本来的に持っている暴力性や悲しみを、血が滲むような文章で書く作家です。読むとつらくなって、1週間も小説の世界から出られなくなるほどです。
パク・ミンギュさんもアーティスト気質ですね。独特の文体で社会への批判意識の高い作品を次々に発表していて、日本でも人気が高いです。
『アンダー、サンダー、テンダー』(クオン刊)などの著者のチョン・セランさんは30代の若い作家で、もっとポップな作風です。『ウリ(私たちの)チョン・セラン』とも呼ばれて、ファンから親しまれています」
韓国の歴史を題材にした作品もあるが、知識がなくても、楽しむのに支障はないという。
「例えば、ハン・ガンさんの『少年が来る』(クオン刊)は1980年の光州民主化運動をテーマにした作品ですが、光州民主化運動とは何かを知らなくても、味わって読めると思います。人間が持っている普遍的なものが描かれていますから。
もちろん、この運動のことを知れば、より深く理解できます。歴史的な背景を知らなくても楽しめるし、知ればもっと楽しめるのも、韓国の小説の良さの一つではないでしょうか」
2000年代には、韓国の映画が国際映画祭の賞を次々と受賞した。それらには社会や人間性への深い洞察がある作品が多い。小説も同様だと金氏。
「映画やドラマは、小説の影響を強く受けていると思います。小説を読んだ人が、映画やドラマを作っているのですから。韓国の映画やドラマが好きな人は、小説も楽しめるはずです」
書店員からも、「韓国の小説は読み応えがあるので、応援していきたい」という声が届くそうだ。
更新:11月22日 00:05