2017年10月16日 公開
2023年03月23日 更新
――今も中国市場に打って出たいと考える企業は多いでしょうが、メーカーが自分でアピールするのはやはり難しいものですか?
翁 まず、中国の情報の流れは日本のそれとはまったく違います。もう、別世界と言っていいほどです。たとえば日本では、なんだかんだ言ってもいまだにキー局が強くて、みんな同じ番組を見ています。でも中国では、ずっと前から既に多チャンネルが始まっており、みんなが違う番組を見ています。視聴率は1%とれたらものすごいことなのです。紙媒体の存在感がほとんどないのも特徴でしょう。
さらに、TwitterもFaceBookもGoogleもLineもInstagramも、中国にはありません。あるのはWeChat、Weibo、そして大ブームの生放送。しかもそれらのツールの流行がすごいスピードで変わっているため、日本のメーカーが自分で発信しようと思ってもかなり難しいと思います。たとえば「生放送が大人気」と言ったって、「どこへ行って誰と何をすればいいの?」となりますよね。日本ではブロガーやインスタグラマーがオピニオンリーダーで、彼らが勧めた商品に火が着いたりするけれど、中国にはそれらの人はいません。
また、中国も情報過多ですから、1日24時間の中で情報に接している時間は決まっています。その中で届けるのは大変なことです。どれだけ多くの人に情報をデリバリーできるかで商品の売れ行きが決まるので、刺さる情報を作り、それを正しい場へ伝達する情報マネジメントが必須です。情報伝達方法によってコストも変わりますので、どんなスピード感で、どのくらいのコストで届けて、どうペイするか。これをメーカーが自分でやるのは不可能に近いでしょう。インアゴーラは3万5千商品分の情報を作り、それをデリバリーしているわけです。
――まだまだ新しい事業や会社が立ち上がりそうな予感がしますが、シリアルアントレプレナーと言うにふさわしい翁社長が、経営者として大事にしていることはなんでしょうか。
翁 会社というのは「場」にすぎないと、私は考えています。私は社長で、会社を経営していますが、それは社員に「ステージを提供している」と言い換えられると思います。ですから、社員がよく言ってくれる「翁さんのために、あるいは会社のために頑張ります」ということは、「1ミリも思ってくれなくていい」といつも言っているのです(笑)。
会社は、たまたま同じ方向にあるやりたいことを持った個人が集まった「場」。たまたま今、同じ時間軸と場を共有しているけれど、やりたいことの方向性が変われば、別の道を歩む。だから大切なのは、社員1人ひとりが「今」、「自分のため」に、「自分のやりたいこと」をやることだと思います。「やりたいことしかやらなくていい」とすら私は言っていますし、私自身もこういう感覚を持ち続けたいと思っています。
だから、当社には相手を役職で呼ぶ文化はなく、私も「翁さん」です。また組織には命令系統が必要なので、最低限のラインはあるものの、基本的には独立した個人たちがチームを組んでやっている、という認識です。これが、時代をリードするインターネット企業の健全な姿ではないかと、私は思っています。
《写真撮影:山口結子》
更新:11月22日 00:05