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「消費減税すると社会保障が削られる」は嘘? 高橋洋一氏が解説する“税と財源”の真実

2025年08月04日 公開

高橋洋一(経済学者、元大蔵・財務官僚)

消費減税と社会保険

先の参議院選挙では、野党が「消費減税」を重要な争点として掲げた。一方、与党は消費税を引き下げれば「社会保障が削られる」と主張している。だが、果たしてそれは本当なのだろうか。

この「消費税と社会保障は不可分である」という論理に対し、元大蔵・財務官僚で経済学者の高橋洋一氏は、それは一種の"脅し"だと断じる。社会保障制度と消費税の関係について、高橋氏の著書『お金のニュースは嘘ばかり』から見ていく。

※本稿は『お金のニュースは嘘ばかり』(PHP新書)より抜粋・編集を加えたものです。

 

「消費税は社会保障に充てるもの」というまやかし

消費税をめぐる議論ではよく「社会保障と一体的な議論を」という話が出てきます。国民民主党の時限一律5%引き下げ案に対しても、「消費税を減らして社会保障を削るつもりなのか」という批判が出てくる可能性は大でしょう。

これは過去、何度も筆者が見てきた「脅し」です。社会保障と消費税を結びつけるのは、噓のロジック。現にコロナ禍において、先進国38カ国のうち30カ国が消費税を下げました。社会保障の話と消費税は関係ない。社会保障の話を持ち出して消費税の減税に反対する日本のロジックは、世界の非常識です。

にもかかわらず、財務省が吹き込んだ「消費税は社会保障に充てるもの」というまやかしの説を国会議員も国民も真に受けてしまい、噓のロジックを信じているわけです。

では、財務省のロジックがなぜまやかし、噓なのか。詳細は拙著『「消費増税」は噓ばかり』(PHP新書)でも記しましたが、おさらいしてみましょう。

 

年金・医療・介護は「税方式」ではなく「保険方式」で運営すべき

増税論者は長年、「財政再建のために消費税を増税する」という主張を続けてきました。

しかし「消費税率を上げても財政再建できない」「まず経済成長を図るべきだ」という議論や分析の前に、ウソのメッキがはがれつつあります。

そのためか、彼らは「社会保障のため」というふうに看板を付け替えました。「少子高齢化を迎えて、社会保障財源が足りないから、消費増税をするしかない」という。

ところが、この年金・医療・介護社会保障財源のために消費税を上げる、というのもロジックがおかしい。

まず年金・医療・介護は基本的に、消費税のような「税方式」ではなく「保険方式」によって運営されるべきものです。事実、世界のほとんどの国ではそうですし、日本の基本的な制度設計もそうなっています。

医療が保険方式であるのは馴染み深い事実ですが、誤解されているのは年金です。

「年金は国からもらえるお金である」と思っている人が多いのですが、年金は「年金保険」です。

簡単に説明すると、「健康保険」が発想としては「病気にならなかった人のお金で、病気になった人を保障する」ものであるのに対して、年金保険は「早く死んでしまった人の保険料を、長生きした人に渡して保障する」ものです。

健康保険制度の下では、一生、健康で病院に一度も行かなかった人は、保険料は1円ももらえないことになります。公的年金保険も、65歳で亡くなった方がいたら、その方には一部、遺族年金は支給されますが、基本的には保険料は掛け捨てです。

ある日突然、病気に罹ってしまい、収入の道が閉ざされて生活が苦しくなる。あるいは退職後、収入がないまま長生きをして将来の見通しが立たなくなる。いずれも人生の「リスク」といえます。さまざまなリスクに備えるため、保険金を出し合って互助の仕組みでリスクに直面した人をカバーする。これが保険の考え方です。

年金保険の基本的な発想も同じです。誰もが一律にもらえる「給付金」ではなく、保険料を納めた人が納めた保険料の額に応じてお金を受け取れるという意味で、まさに「保険制度」なのです。

 

保険料は実質的に税金と同じ

年金が保険であることは、法律を見ればよくわかります。たとえばサラリーマンが加入している厚生年金は、「厚生年金保険法」という法律に基づいています。法律名のなかに「保険」と書かれていることでわかるように、あくまでも「保険」です。

他方で、国民年金の場合は「国民年金法」という名前の法律で、法律名に「保険」という言葉は付いていませんが、法律の文面を読むと「被保険者」「保険料」という言葉があり、やはり保険であることがわかります。

繰り返しますが、保険というのは保険料で成り立つシステムです。したがって、税金とはまったく関係がありません。この重要な点を押さえておかないと、財務省の「年金などの社会保障費が逼迫しているから消費増税が必要」というまやかしのロジックに騙されてしまうのです。

日本の場合、国民皆保険制度になっており、国民には社会保険料を支払う義務があります。

ですから、保険料は実質的には税金と同じです。しかも、社会保障限定で使われるものですから、究極の目的税です。

 

消費税は目的税ではない

対して消費税は本来、目的税ではなく、何にでも使える一般財源です。最近、耳にする「消費税を社会保障目的税化せよ」という議論は、制度のあり方として間違いです。

消費税と社会保険料には大きな違いがあります。 

消費税は誰がいくら支払ったのかという明細が残っていないのに対して、社会保険料は誰がいくら支払ったかという個人別の明細記録が残っています。じつは、この記録の有無の違いが大きい。

保険料は記録が残るので、給付と負担の関係が明確になります。保険料を多く支払った人は給付が多くなり、保険料をあまり支払っていない人は、給付が少ない。じつにシンプルな仕組みです。

このように、給付と負担の関係が明確なほうが、国民もストレスがありません。

「こんなに年金が少ない」という文句に対し、過去の保険料支払いの記録をもとに「年金の給付額は支払った保険料に対応しています。あなたの保険料の支払いはこの額なので、給付はこの額です」とはっきり伝えることができます。不満がゼロになることはないにせよ、少なくとも「俺の年金が少ないのは政府のせいだ」という類の声はいまより減るでしょう。

ところが消費税を年金財源に使う場合は、消費税の支払い記録が残っていません。消費税を払っていない人が「俺の年金が少ない」と文句をいってきたとき、「消費税をあまり払っていないので年金が少ないんです」と答えられない。誰がいくら消費税を払ったかという記録がないと、「ルールでこの額しか出ません」程度のことしかいえません。

その点、社会保険料には①使用目的が明確、②記録が残る、③給付と負担の関係が明確という3つの利点があります。

保険料が高くなればその分、社会保障が充実して高福祉になり、保険料の負担を減らすのであれば社会保障が減る、という関係です。

給付と負担の関係が明確であれば、「負担を増やしたくないから、低福祉社会でいい」という選択を国民がすることもできます。「高負担・高福祉」がいいのか、「低負担・低福祉」がいいのかは、国民が決めることです。「低負担なのに高福祉」という都合のいい世界は、存在しません。

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