2025年08月08日 公開
実は本来のビタミンの定義からは外れている「ビタミンD」、あらゆるがんの死亡率を下げるという、その驚異的な効能について、医療ジャーナリストの木原洋美さんが専門医への取材をもとに、分かりやすく解説する。
※本稿は『PHPからだスマイル』2025年8月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
「ビタミンDといえば骨を丈夫にする栄養素」――ほとんどの方の知識はそこで止まっているのではないでしょうか。実はビタミンDには、骨を丈夫にするだけではない、超高額な薬をも凌駕する素晴らしい効能があります。
一方で、ビタミンの定義から外れているという「謎」の面があるため、「医師さえも、間違った知識を患者さんに伝えているケースが珍しくない」と、ビタミンD研究の第一人者である浦島充佳医師は困惑しています。詳しく解説していきましょう。
まずは「ビタミン」の基礎知識から。そもそもビタミンは、「私たちが生きていく上で不可欠な栄養素」のうち、必要量は微量ながら、「体内で十分な量を合成することができず、体外から取り入れなくてはならない栄養素」を指します。つまりビタミンは、食べ物であれサプリメントであれ「口から摂る」のが定義です。
しかしビタミンDに限っては、食事として口から摂取しているのはわずか1~2割程度。必要量の8~9割は日光に当たることによって皮膚の下でつくられます。その上、ビタミンDを多く含む食品は非常に限られているため、現実問題として、必要量を食品だけから摂るのは困難です。
2023年、「日本人の98%はビタミンD欠乏症」という研究結果が話題になり、専門家は「ビタミンDが豊富なシイタケや鮭を頑張って食べましょう」と推奨しましたが、浦島医師は「日光に一切当たらずに食品から摂るだけでは無理」と断言します。
このようにビタミンDは「食品から摂取する必要がある」というビタミンの定義から外れており、厳密にはビタミンとは呼べません。
もう1点。「ビタミンDを摂りすぎると高カルシウム血症になる」と言う医師がいますが、それは処方箋がなければ入手できない「活性型ビタミンD」の話。「市販のビタミンDサプリなら、1日当たり2000IUを連日摂取しても高カルシウム血症にはならないというエビデンス(科学的根拠)もあります」と浦島医師。
近年、ビタミンDのサプリには、骨を強くする以外にも「免疫力を高める」「心筋梗塞、糖尿病、妊娠高血圧症候群等を予防する」など、スーパービタミンと形容するにふさわしい効果があることが次々と報告されています。なかでも今最も注目したいのは、「がんで亡くなる人を減らす」効果です。
浦島医師も参加した国際共同研究によって、「毎日ビタミンDのサプリを摂取していると、がんの種類に関係なくすべてのがんの死亡率を12%減じ得る」ことが証明されたのです。世界中でがんが原因で亡くなる人が約1000万人だとすると、単純計算で年間120万人の命が救われるのです。
それはどういう仕組みなのでしょう。浦島医師は次のような仮説を立てました。
細胞には、車でいえばアクセルのような「がん遺伝子」とブレーキにあたる「がん抑制遺伝子」があり、そのどちらかが壊れると、細胞増殖の暴走が始まり"がん"になる。数あるがん抑制遺伝子の中でも一番壊れやすいのが「p53がん抑制遺伝子」で、がん全体の4~5割で機能が失われている。しかも、p53が壊れているタイプのがんは悪性度が高く、亡くなる確率が高いこともわかっている。ビタミンDには、この壊れたp53を減らす働きがあり、がんの再発・死亡リスクを減らせるのではないか。
2022年1月からは、この仮説をもとに、ビタミンDのサプリが本当に効くのかを明らかにするための「アマテラス2試験」が進められています。
ほかにもビタミンDのサプリを毎日摂取することで、インフルエンザなど急性気道感染症の発症リスクを16%低下させることも明らかになっています。
「ビタミンDのサプリは医師の処方箋なしで、ネットでも薬局でも購入できます。しかも日光に当たるのは無料です」(浦島医師)
試験の結果が分かるのはまだ先ですが、副作用もなく効果的で、誰でも手に入れやすいビタミンDのサプリは、これからの医療に目覚ましいイノベーションを起こすかもしれません。
【取材・文】木原洋美(きはら・ひろみ)
コピーライターとしてさまざまな分野の広告に携わった後、軸足を医療へと移す。雑誌やWEBサイトに記事を執筆。著書に『「がん」が生活習慣病になる日』(ダイヤモンド社)がある。
【監修】浦島充佳(うらしま・みつよし)
東京慈恵会医科大学分子疫学研究部部長・教授、小児科専門医
更新:08月08日 00:05