2017年06月27日 公開
2017年12月18日 更新
高校在学中に起業。ビジネスの世界にのめり込む中で家族の死を経験、医療の課題を解決したいとの想いを抱き、既存の事業を譲渡後、ITで医療ヘルスケアの課題を解決する「メドレー」を創業。医療消費者と医療従事者の双方にとって「納得できる医療を実現する」というビジョンは現場の医師の共感も呼び、常勤の医師はすでに8名にも及ぶ。医療の課題解決につながるインターネットサービスに取り組み、法人向けから一般向けまでサービスを拡大中。まさに異色の経歴の瀧口氏が育む異色の企業、メドレーが目指す医療の未来とは。
――医療ベンチャー「メドレー」とはどんな会社でしょうか。
瀧口 インターネットを活用し、「医療ヘルスケア分野の課題を解決する」。これがメドレーのミッションです。ベンチャーと言っても創業から8年が経ち、メンバーも6月現在で165人と、ベンチャーの中ではレイターステージと言えると思います。しかし事業はここ数年にわたり年2倍以上の成長を続けていますし、メンバーも去年1年間の採用数を超える人数を今年に入りすでに採用しており、成長を加速させています。
――まさに拡大期を迎えているのですね。医療分野の課題を認識されたきっかけはなんだったのですか?
瀧口 私の個人的な医療体験が元になっています。私は高校在学中に最初の会社を起業し、そのまま大学へは行かずにビジネスに夢中になっていたのですが、その時期に祖父を亡くしました。胃がんでした。胃の全摘出手術を受けた後、食事が満足に食べられず弱気になっている祖父に向かって、普段は物静かな私の父が「つらい思いをして手術を受けたんだ! 頑張って生きないとだめじゃないか!」と大きな声で激励の言葉をかけているのを聞いて、いろいろな思いが交錯しました。
闘病中の祖父を想う父の強い気持ちに触れた感動もありましたし、果たして手術は正しい選択だったのだろうかという迷いもありました。結局、2か月後、祖父は亡くなってしまいました。
そのとき感じたのは、私は、そしておそらく父も、祖父の術後についてそこまでリアルに考えられていなかったということです。たとえば胃を摘出するということは、もう普通の食事はできないということ。食道楽だった祖父にとって、普通の食事ができなくなるということがどういう意味なのか。そんな当たり前のことすら、イメージできていませんでした。もし術後の祖父の生活や、祖父の身体に起きる変化をきちんと把握できていれば、手術という選択はしなかったかもしれません。どちらが正解だったということではありませんが、とにかく強いモヤモヤが残ったのです。
――そのモヤモヤはきっと、大勢の方が感じているものだろうと考えられたのですね。
瀧口 はい。たとえば、「手術をしたら生きられる確率が上がる」一方で、「手術をすれば一生植物人間の状態になる確率が高い」。こんな場面に際し家族は、「生きながらえることができるなら」と、手術の選択をする人が多いと思います。少しでも長く生きて欲しいという家族の気持ちはわかります。しかし、術後の生活を本当にきちんとイメージできていて、かつ冷静に判断するだけの時間があったら、果たしてみんながみんな同じ選択をするか。
本人がその場の痛みを取り除くため、なんらかの処置を望むこともあるでしょう。あるいは、本人が意思決定できる状況になく、周りの人が判断しないといけないこともあります。そんなとき、「さぁ、どうしますか?」と言われて、うろたえない人はいないでしょう。誰しもが不安の中、決めなくてはならない状態がある。そこで精一杯に下した決断を、後悔する人がいなくなってほしいと考えました。一人の医療消費者として感じた問題意識が、起業のきっかけになりました。
――そこから起業までにはどのような経緯があったのでしょうか。
瀧口 この出来事を通し、「インターネットによりあらゆる分野が便利になっているのに、医療だけそうなっていないのではないか」ということに気がつきました。医療分野では、ネットを使っても正しい情報にたどり着けなかったり、あるいは信頼できるはずの医師にいらぬ疑いを持ってしまったりすることすらあります。
医療消費者としての自分のリテラシーの低さにも気づきましたし、重大な決断を迫られる局面がいつ訪れるかわからない医療分野において、消費者側がアクセスできる情報があまりに少ないことにも問題意識を持ちました。さらに、その情報の信頼度にも当然、疑問を持ちました。これらの課題を解決することができれば、「本人が、家族が、“納得できる医療”」を実現できるのではないかと考えたのが、起業のきっかけです。
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更新:11月22日 00:05