2017年10月16日 公開
2023年03月23日 更新
――他に、インアゴーラ設立の重要な決め手となったことはありますか。
翁 当時、「時代の潮目が見えた」というのは大きかったですね。2014年3月に、私は越境ECという概念を知りました。「中国の服がネット通販アプリを通じ、アメリカでバカ売れしている」と聞いたのです。越境ECという概念に初めて触れ、モノがそういう形で国をまたいで売れるとは面白いなと思いました。
加えて同年7月に、中国におけるSNSショッピングのブームを知りました。個人が小さな商店を開き、クラウドに在庫を置いてモノを売るような、ドロップシッピング的なビジネスです。ドロップシッピングとは簡単に言えば、個人が契約した会社の商品を自分のサイトで独自に紹介し、商品が売れれば報酬を受けとるというシステムです。
この2つを組み合わせると面白いことができるのでは、と思いました。ある国の商品を違う国の人に売るためには、情報をセットで伝達する必要あります。たとえばニューヨークで流行っている商品が日本で売れるのは、誰かが「今、これが流行っていますよ!」とアナウンスしているからで、誰もアナウンスしなければその商品の存在にすら、誰も気がつきません。オピニオンリーダーが勧めて初めて、需要が生まれるわけです。越境ECに「選ばれるための情報」をオンすることを、ここで考えつきました。
――「中国人消費者」が「日本の商品」を欲しがるだろう、という確信はどのように得られたのですか?
翁 2011年頃、私たちが持っている中国法人において、現地社員の昇給率がおかしなこと(笑)になりました。前年比150%とか200%がずっと続くような状態です。そしてそのうち、日本で中国人による爆買いが始まりました。
新しく生まれた中国人の中流階級が日本製品を欲しがることは当然のことです。中国へ行くたびに物価がどんどん上がるのを目の当たりにしましたが、とにかく急成長なもので、クオリティがついていきません。「このレベルのモノがこの値段!?」と驚かされることも多々。もはやインフレ状態のようなもので、このギャップに日本商品がハマるのです。
日本商品は中国人にとって、クオリティも安心感も段違いに高い。たとえば中国産の70円のお茶と日本産の150円のお茶があったなら、年収100万円の頃は70円のお茶で我慢していた人が年収400~500万円になり、より身体によくて美味しいほうを150円払って買えるようになったのです。エルメスをしょっちゅう買うことはできないけれど、日本のドラッグストアにあるすべてのものはためらわず買える。それが中流階級です。かくして、日本の商品が中国の消費者のストライクゾーンに入ったわけです。
――爆買いを勝機ととらえた人は多くいましたが、あくまでも瞬間風速的な恩恵で終わっているところも多いと思います。インアゴーラはどこが違うのでしょうか。
翁 中国の消費者は日本語が読めません。日本商品は欲しいけれど、日本に直接行かない限り、どうやって買うのか、という問題が発生します。どんなブランドがあって、どこに行けば買えるのか、わからない。そこで、越境ECの出番です。
モノを運ぶというのは古代から貿易という形態で行なわれてきました。昔は、誰かがたくさんある商品から「これは絶対売れる」というモノを厳選して運んでいました。次にコンテナなどを使って、遠くに、大量のモノを運べるようになりました。これがネット時代になって、「あらゆる商品を、物理的に運ばずして紹介できる」ようになりました。
しかし先ほども言ったとおり、こうなると「選んでもらうための情報」が大変重要になります。「情報に付帯してモノが動くようになった」と言えるでしょう。たとえば日本にある無数の歯磨き粉を中国に紹介するとき、そのうちどれが売れるかは、情報によって決まります。同じブランドの商品でも「あっちは売れてこっちは売れない」ということが起きるのは、その商品に「どんな情報が付いているか」によるのです。
インアゴーラは、中国消費者向けの情報作成し、中国国内のしかるべきところまでその情報を伝達します。中国人“観光客”の興味が日本から離れても、中国人“消費者”の日本商品へのニーズは変わらず高いので、いかに中国国内に直接リーチできるかが重要です。
――やってみたかったeコマース事業に向けて、パズルのピースがきれいにはまっていったのですね。
翁 これだけそろっていれば、成功のレベルはともかく、失敗の確率は低いですよね。それで、それなら中国の中流階級、つまり「世界で一番アツい市場」には何が売れるだろうかということを考え始めたら、やってみたくてたまらなくなり、インアゴーラを設立しました。
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ネット社会で、情報伝達の難易度はむしろ上がっている! >
更新:11月22日 00:05