2017年04月28日 公開
2023年04月06日 更新
さて、ここまでは為替の「基本のキ」を解説してきました。しかし現実の為替の動きは、教科書通りにはいきません。
たとえば日本銀行は去年、マイナス金利を導入しました。教科書通りに考えれば、お金は金利が低いほうから高いほうへと流れますから、多くの人が円を売ってドルを買うことによってドル高円安になるはずです。日銀の狙いもそこにありました。為替レートを円安に誘導することで、輸出産業を支援し、景気の浮揚を図ろうとしたわけです。
ところが、蓋を開けてみると円安にはなりませんでした。当時はちょうど中国経済の失速が顕著になり、世界経済の先行きの不透明感から、安全通貨である円が買われたからです。
このように為替レートは複雑な要素が絡みあって決まっていきます。「日銀がマイナス金利を導入した=円安になる」という単純な図式ではないのです。
日本には、「円安になると、日本株が上がる」という通説があります。円安になると日本経済の主力である輸出産業が儲かるため、景気が上向き、株価も上がるという図式です。
しかし現実には、今の日本企業は為替レートの影響を以前ほど受けない体質になっています。
1973年に1ドル360円の固定相場制から変動相場制に移行して以来、日本企業は円高にずっと苦しんできました。そこで海外での生産を増やすなど、円高の影響を最小限に留める努力を続けてきたのです。そのため、今では円高になっても円安になっても、以前ほど収益に大きな違いが出なくなってきています。
それにもかかわらず、現在でも円安になると日本株が上がるのは、実体経済とは関係なく、「円安=株高」という神話をみんなが信じているからです。そして多くの人がそう信じて株を買えば、実際に株価は上がっていきます。逆に言えば、「円安になったからといって、日本企業はそんなに儲からない」と多くの人が考えるようになったとき、「円安=株高」の神話が崩れる可能性があります。
実は「通貨安=株高」は日本特有の現象です。むしろ為替レートのセオリーから言えば、株価が上昇すれば、株を求めて海外から資本が流入するため通貨高になるほうが自然です。事実アメリカは「ドル高=株高」です。日本だっていつ「円高=株高」「円安=株安」になってもおかしくないのです。
とくに今は、市場参加者の思惑によって為替レートが変動しやすい時代です。先ほど通貨の交換には実需取引と投機取引があると述べましたが、70年代までは実需取引のほうが圧倒的多数を占めていました。ところが80年代以降、世界各国で金融緩和が進み、投機取引を行ないやすい環境が整えられました。今では為替取引の九割以上を投機取引が占めています。つまり実体経済とは別に、外国為替市場に参加しているプレーヤーの思惑が、為替レートの動向の多くを左右しているのです。
ですから、これからは「円安だから株高」とか「日銀が金融緩和をしたから円安」といったパターンを暗記するのではなく、為替レートに大きな影響を与える金利差や経済成長率、アメリカの雇用統計などの重要指標を踏まえたうえで、それに対して投機家たちがどう考え行動するかを読みとっていこうとする姿勢が、とても大切になります。
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更新:11月23日 00:05