2017年04月28日 公開
2023年04月06日 更新
今年初め、トランプ氏がアメリカ大統領に就任しました。これにより世界経済はますます不透明感を増しています。
外国為替市場では、トランプ氏が当選した直後からドル高が続きました。これは彼が大型の公共投資や減税、規制緩和を行なってくれるのではないかという期待感によるものです。アベノミクスのときもそうでしたが、まだ具体的な政策を何も実行していないときから、市場は期待感で動くものなのです。
今では一段落しましたが、もしトランプ氏が早期に議会の同意を得て、インフラへの公共投資や減税を本当に実行できれば、アメリカに資本が流れ込み、ドル高は本物になるでしょう。しかし、これが来年や再来年にずれ込むようなら、怪しくなります。実際にどうなるかは、私も確信が持てません。
もうひとつ私が注目しているのは、トランプ氏の登場によってドル基軸体制に揺らぎが生じるのではないかということです。
今、ドルは世界の通貨の中心であり、為替取引の九割近くにドルが絡んでいます。中国はこの体制に異議を唱え、ドル、ユーロ、円、人民元などによる多極通貨体制を志向しています。ドル基軸体制である限り、経済の主導権を握れず、アメリカとの政治的対立が深刻になったときにはドルの資産を凍結されるリスクがあるなど、首根っこをつかまれた状態だからです。
一方、アメリカにとってドル基軸体制は、実需取引や投機取引が自国を中心に行なわれるため、多大なメリットがあります。いわば強大な経済力や政治力を維持しているという象徴でした。ところがトランプ氏は「ドル基軸体制によって、アメリカは過大な負担を強いられている」という理由で、体制の見直しを図っています。もしドル基軸体制が揺らげば、世界の通貨体制自体が大変動を起こします。
こうした不透明な時代だからこそ、古い為替レートの通説に縛られない考え方が大切です。みなさんも新聞記事に目を通すときには、「そのニュースが為替にどういう影響を及ぼすか」を常に自分の頭で考えながら読むようにしてください。「待てよ、こういう視点もあるぞ」と多角的に分析することも大事です。それが為替レートや世界経済の動向に強くなる秘訣です。
取材構成 長谷川敦
『THE21』2017年4月号より
更新:11月23日 00:05