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50代から増える“帯状疱疹” ワクチンは接種した方が良いのか?

2025年08月15日 公開

木原洋美(医療ジャーナリスト)

帯状疱疹ワクチン

50代から増え始め、80歳までの間に約3人に1人が発症するといわれる帯状疱疹。その発症を抑えるワクチンについて、医療ジャーナリストの木原洋美さんが専門医への取材をもとに、分かりやすく解説する。

※本稿は『PHPからだスマイル』2025年9月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

80歳までに3人に1人が発症

2025年の4月1日から、帯状疱疹ワクチンが定期接種(B類疾病)の対象になりました。

今年度中に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳以上になる人、または60〜64歳でヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能の障害で日常生活がほとんど不可能な人(身体障害者手帳1級所持または同程度)は、一部公費負担(自治体によって金額は異なる)で予防接種を受けることができます。

帯状疱疹は、水疱瘡(水痘)のウイルスが原因で引き起こされる皮膚病です。主として子供時代に水疱瘡にかかった人の体内(神経節)に潜伏していた水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が、加齢や疲労、ストレスなどによる免疫低下を引き金に活動を再開し、発症します。

日本の成人の約9割はVZVに感染しており、患者が増え始めるのは50代から。80歳までの間に約3人に1人が発症します。

「ただし、若い人も安心してはいけません。実はストレスの関係で、日本では20代に小さなピークがあります」と、慢性痛医療の名医・北原雅樹医師。

帯状疱疹の特徴は症状が本格化した際の痛みで、主に体の左右のどちらか一方にあらわれ、眠れないほど痛むこともあります。さらに、帯状疱疹が治った後に残る「帯状疱疹後神経痛」という後遺症に長い間悩まされる人も少なくありません。

 

ワクチンは認知症、心臓病も予防

一部公費負担で受けられるのは有難いですが、「定期予防接種といえば無料」というイメージがある中、有料接種に抵抗を感じる人が少なくないかもしれません。でも、そんな人でも受けてみたくなる研究結果が、4月と5月に相次いで発表されました。

ひとつは「帯状疱疹ワクチンを接種すると、その後7年間で新たに認知症と診断される確率が約20%減少する」という英国のレポートです。

ちなみに、2023年12月、20年ぶりに登場した認知症の新薬は「18カ月投与した場合、症状の進行を27%抑制する」とされますが、高価な薬剤として知られ、高額療養費制度を使った場合でも帯状疱疹ワクチンの何倍もの費用がかかります。

もうひとつは、韓国の健康保険関連のデータを集計し解析した結果、「帯状疱疹ワクチン非接種者と比べ、接種者では心不全や脳血管疾患等、心血管イベントリスクが23%低かった」との報告。

認知症は「日本人が一番なりたくない病気」といわれていますし、心疾患は日本人の死因の第2位で、脳血管疾患は第4位(2023年)です。帯状疱疹の予防と同時に、これらの疾患の対策になるなら、かなりコストパフォーマンスは高いと思いませんか。

 

それぞれにメリットとデメリットあり

帯状疱疹ワクチンの特徴

日本国内で受けられる帯状疱疹ワクチンは、接種が1回ですむ「生ワクチン(ビケン)」と、2回接種が必要な「組換えワクチン(シングリックス)」の2種類が承認されています。上の表の通り、両者それぞれにメリット、デメリットがあります。

予防効果重視で、経済的に許すのなら、組換えワクチンを選択するのがおすすめです。一方、費用を極力抑えたい場合は、効果や持続期間は劣るものの、仮に発症しても軽症で済む可能性が高い生ワクチンを、5年ごとに接種するという選択肢もあります。

「帯状疱疹を発症したら24時間以内、遅くとも72時間以内に抗ウイルス薬を内服もしくは注射することが大切です。でも、一番大切なのはワクチンで予防することです」(北原医師)

 

【取材・文】木原洋美(きはら・ひろみ)
コピーライターとしてさまざまな分野の広告に携わった後、軸足を医療へと移す。雑誌やWEBサイトに記事を執筆。著書に『「がん」が生活習慣病になる日』(ダイヤモンド社)がある。

【監修】北原雅樹(きたはら・まさき)
横浜市立大学附属市民総合医療センター・ペインクリニック内科

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