リゾートしらかみ(写真提供:JR東日本秋田支社)。
「日本一乗りたいローカル線」と呼ばれる路線がある。それが秋田県北部と青森県津軽地方を結ぶJR東日本の「五能線」だ。
人気の「リゾートしらかみ」は観光列車の先駆けと言われ、誕生から20年近く経つにもかかわらず、観光シーズンにはいまだチケットが入手困難なほどの人気だ。
なぜ、過疎化が進む地方にこれほどの人気ローカル線が誕生したのか。五能線の改革に早くから注目し、現地に足しげく通いその秘密を解き明かし、著書『五能線の秘密』にまとめた遠藤功氏にうかがった。
10年ほど前に初めて訪れて以来、五能線に魅せられてきたという遠藤氏。その魅力はどこにあるのだろうか。
「まずは、なんといっても絶景です。海に山にと変化に富む地形が続き、絶景ポイントがこれでもかというほど連続で現われる。季節によってさまざまな顔を見せるので、何度乗っても飽きることがありません。また、沿線には五所川原の立佞武多(たちねぷた)や不老ふ死温泉など、見どころも豊富です」
中でも人気なのが、快速列車「リゾートしらかみ」。雄大な景色を楽しめるよう窓は大きく、座席はゆったりと配置され、車内での三味線の生演奏や駅にたびたび現われる「なまはげ」などユニークなサービスもある。それでいて、追加料金はたったの520円。入手が困難なのもうなずける。
「そんな五能線ですが、かつては『JR東日本のお荷物』とすら呼ばれる存在でした。沿線は過疎化と高齢化が進み、自然環境も厳しい。しかも、管轄する秋田支社はJR東日本の中で最も売上げ規模が小さい。それが、25年かけて五能線をここまで育て上げてきたのです」
魅力的な路線や観光列車は他にもあるが、遠藤氏がとりわけ五能線に注目するのは、この改革が「現場発」だったからだという。
「その象徴が『サービス徐行』です。これは、沿線の中でもとりわけ景色の良い場所で、あえてゆっくりと列車を走らせるという、乗客に大人気のサービス。今では他社でも行なっているところがありますが、その元祖とも言えるのが五能線です。
私が何よりも驚いたのは、これが、運転士が独断で始めたサービスだったということです。鉄道の世界では時間どおりに、安全に運行することが何よりも求められます。運転士が勝手に徐行するなど、本来ならあり得ないルール違反です。それを、お客様が喜んでくれるならと、現場の判断で始めたというところがすごい。
法規制が強い業界では、どうしても『ルールを守る』ことに重点が置かれ、新しいことをやる機運が起きにくいもの。その典型とも言える鉄道業界で、現場発のこうした素晴らしいサービスが生まれたというのは、奇跡的だと思います」
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改革を成し遂げたのは、クリエイティブなぽっぽや >
更新:10月06日 00:05