2016年01月14日 公開
2022年05月25日 更新
今、世界の経営者たちの注目を集めているキーワードが「LFP」だ。これは、極めて不安定で、かつ不確実性が高い現在のビジネス環境の中で、企業が生き抜くために不可欠な要素。ローランド・ベルガー日本法人会長の遠藤功氏に、その重要性と、日本のビジネスマンにとってどんな意味があるのかをお聞きした。
世界各国に50の拠点を持ち、グローバルな視点からコンサルティングサービスを提供し続けるローランド・ベルガー。そのグローバルCEOであるシャレドア・ブエ氏と日本法人会長である遠藤功氏が共著『LFP』を上梓した。まだ日本では聞き慣れないこの言葉が何を意味し、どのような重要性を持つのか、遠藤氏にうかがった。
「『LFP』は『ライト・フットプリント(Light Footprint)』の略で、『足跡が残らないほど素早く身軽な経営』を意味します。目まぐるしく環境が変化する中、どの企業も新しい経営のあり方を模索していますが、LFPがそのキーワードになると私は確信しています。
LFPという言葉は、米国のオバマ政権下で生まれた軍事用語です。ブッシュ政権では、中東に大規模な軍を駐留させ、足跡がくっきり残る『ヘビー・フットプリント』を目指しました。一方、オバマ政権は、可能な限り足跡を残さない戦略にシフトしました。敏捷さや変化に対応する柔軟さを何よりも重視するようになったのです。
これは企業経営にも大きなヒントとなります。明日がどうなるかも予測できない環境では、スピードと柔軟性が生き残りのカギになる。だから私たちは、LFPの概念を経営にも取り入れるべきだと提唱しているのです」
LFPのイメージが漠然としかつかめないという人のために、遠藤氏はこんなたとえを使って解説してくれた。
「わかりやすく表現すれば、LFPとは『忍者経営』です。足跡さえ残さない素早さで行動し、臨機応変さを持って確実に任務を遂行する忍者こそ、今の時代に企業が目指すべき姿。もし動きや判断の遅い忍者がいたら、一発で敵に仕留められてしまうでしょう。それと同じく、スピードが遅い会社は絶滅するしかありません。
これは会社だけでなく、個人にも当てはまります。『スピードが遅いビジネスマンは必要とされなくなる』という危機感を持って、仕事のやり方を見直す必要があります」
注意するべきは、『速さ』の意味を正しく理解することだ。
「LFPで求められる速さとは、『俊敏性』ではなく『敏捷性』です。俊敏性とは『quickness』。つまりAという場所からBという場所への移動が速いということ。Bへ進むことは最初から決まっていて、そこを目指すときの速さです。
一方、LFPで必要とされる敏捷性は『agility』。自分はAにいて、どこへ行くか決まっていない。BやCやDなどの選択肢がある中で、どこへ進むべきかを自分で判断しなくてはならない、という状況での速さです。要するに、敏捷性とは『判断の的確性×行動の速さ』。行動の速さだけを意味する俊敏性とは大きく異なります。
一般に、『質の高いものを作るには時間がかかり、速さを追求すると拙速に終わる』と言われます。しかし、今後、経営がLFPへと舵を切れば、社員一人ひとりも、速さと質を両立しないと会社に貢献できなくなるでしょう。
そのために必要なのが『身体性』を劣化させないことです。最近はロジカルシンキングやフレームワークが重視され、知識やスキルを偏重しがちですが、なんでも机上で考え、情報を分析すれば答えが見つかると思ったら大間違い。もちろんビジネスの原理原則を学ぶことは大事ですが、どんどん現場に出ていろいろな物事を体験するフットワークの軽さも同じくらい重要です。現場で動けない忍者が使いものにならないように、頭脳と身体性の両方を磨かなければ、LFPは実践できません」
更新:11月23日 00:05