海沿いを走るだけに、自然環境は厳しい(写真提供:JR東日本秋田支社)。
そのために必要なこと、それは地元の魅力を「再発見」するという視点だ。
「どんな絶景もユニークな文化も、それを毎日見ている地元の人にとっては日常に過ぎず、そのすごさに気づかないものです。たとえば、五能線沿線に深浦という美しい町があります。まるでスペインやポルトガルの漁港を思わせる雰囲気のある町で、太宰治の泊まった宿もある。私も世界のいろいろな町を見てきましたが、こんな町が日本にあったのかと驚きました。老後は本気で深浦に移住したいとすら思っているほどです。
日本にはまだ、こうした土地がいくらでもあるはず。地元の人は観光客が来て初めて『実はすごかったのか』と再発見する。すると、地元に対するプライドが生まれる。このサイクルをいかに生み出すかが、日本全体にとって重要だと思います」
また、仕事で逆境にさらされている人たちにもぜひ、五能線に乗り、「五能線の奇跡」を体感してもらいたいという。
「そもそも、五能線ほど逆境だらけのローカル線はありません。海沿いだから風は強いし、冬は地吹雪にもなる。沿線は過疎化が進み、乗客も少ない。首都圏からも遠い。でも、JR東日本秋田支社の人たちは『手間がかかる子供ほどかわいい』という感じで、みな、五能線のことを語り出すと止まらない。
ポイントは諦めないこと、そして当事者意識を持つこと。それさえあれば、『地方にあるから』『規模が小さいから』『規制が厳しいから』という逆境はいくらでも跳ね返せるはず。ぜひ、五能線に乗って素晴らしい景色を楽しむとともに、そんな彼らの現場力を感じてもらいたいと思います」
(『THE21』2016年8月号より)
更新:11月23日 00:05