東能代駅にて、なまはげの衣裳で乗客を見送る(写真提供:JR東日本秋田支社)。
もう一つの「現場発」の好例が「なまはげ」だ。駅になまはげの衣裳を着た人が現われ、乗客を出迎えるというサービスだ。
「私は最初、このサービスは駅や本部のスタッフが発案したものと思っていました。しかし、実際に発案したのは東能代運輸区、つまり運転士や車掌が率先して始めたというのです。それも当初、男鹿の観光協会に打診したところ、色よい返事がもらえなかった。ならば『自分たちでやってしまおう』ということで、運転士や車掌が自らなまはげの衣裳を着てお客様を出迎え始めた。さらに、自分たちで五能線のガイドブックを作ったりと、彼らの取り組みは明らかに通常業務の枠を超えている。いわば、工場で働く人たちが自ら作った製品を売り歩くようなものです」
遠藤氏自身、今回の取材で鉄道マンに対するイメージが大きく変わったという。
「最初は、いわゆる『ぽっぽや』のイメージだったわけです。真面目で愚直に与えられた任務を遂行するけれど、頑固一徹。それに対して、彼らはまさに『クリエイティブなぽっぽや』だったのです。
五能線の改革には、誰か一人の明確なリーダーがいたわけではありません。このままでは五能線がなくなってしまうかもしれないという危機感を持ち、自分たちがなんとかしなくてはという当事者意識を持った『クリエイティブなぽっぽや』たちが集まって、一人一人ができることをやっていった。その結果として現場力がどんどん進化して、ついには『日本一乗りたいローカル線』と呼ばれるまでになった。現場発の改革がこれほど大きな成果を生んだ例は極めて稀です」
五能線の事例からは、地方活性化のさまざまなヒントが得られるという。その一つが「地元を巻き込む」ことだ。
「いくら人気の列車を運行して乗客を運んできても、列車を降りてそこに何もなければ、二度と来てはもらえません。リピート客を増やすためには鉄道会社だけでなく、地元の自治体、企業との連携が不可欠なのですが、それができず、ブームが一過性で終わってしまうところが非常に多い。
五能線の改革では、沿線の自治体と連絡協議会を作って地元の協力を取りつけることで、地域ぐるみで観光客をもてなす体制が生まれました。その結果、列車の時間に合わせてバスのダイヤを組み直してもらい、観光客がより効率的に回れるような工夫をすることができたのです」
遠藤氏は、地方が生き残るためには「スピード&スロー」を意識することが大事だと主張する。
「昨年は北陸新幹線が、今年は北海道新幹線が相次いで開業するなど、鉄道の世界ではスピード化が進んでいます。鉄道に限らず、現在は多くの分野でスピードが何よりも重視される時代。だからこそ、一方で多くの人が非日常としての『スロー』に魅力を感じるようになっているのです。速度も遅ければ停車時間も長い五能線に注目が集まっているのも、まさにこのスローの魅力が再発見されているからでしょう。
今後の地方活性化においては、このスピードとスローをいかに組み合わせるかが求められます。たとえば現地までは新幹線でスピーディに行き、着いたらゆっくり過ごす。地方にミニ都会を作るのではなく、いかにスローの魅力を提供できるかが問われるでしょう」
更新:11月23日 00:05