2016年06月24日 公開
2023年07月03日 更新
神田 「会社がキャリアストーリーを描いて、レールを用意する」というのは、派遣会社としては珍しいことですが、かつての日本企業では当たり前のことでした。終身雇用で、入社から定年退職までのレールを敷き、年代ごとに歩むルートを示したうえで、人材教育を施していました。ところが、そのようなレールを敷いてくれる会社が、少なくなってしまった。バブルが崩壊し、多くの会社の成長が止まり始めると、終身雇用が維持できなくなり、誰も気づかないうちに、途中でキャリアストーリーがなくなってしまった。
若山 今では大手企業ですら、社員のキャリアを描くことを放棄せざるを得なくなっていますからね。だからこそ、誰かがその役割を果たさなくてはならない。それが我々の役割だと考えているのです。私は、今後のUTグループに求められる役割は、「キャリア形成を支援するプラットフォーム」だと考えています。大企業に代わって、それを我々がすべきだと考えているのです。
神田 会社が、社員の定年退職までのレールを敷けたのは、やはり、国全体が成長していたことが大きかった。会社も、黙っていても伸びましたからね。
若山 いずれにしても、企業が縦割りの雇用形態の中で社員を終身雇用して、キャリアビジョンを示す、という道はもはやないのでは、と感じています。
神田 ただ、企業はそれでもいいかもしれませんが、個人は困ってしまったわけです。キャリアストーリーを描いてくれる人が誰もいなくなってしまったのですから。自分自身で自分の成長と家族の成長・幸せを考えながら、キャリアストーリーを描いていかなければならない。このような状況の中で、UTさんの試みは、すごく意味のあることだと思います。
若山 派遣法の改正で、派遣会社は派遣社員のキャリア形成支援をするというルールに変わることになりました。同時に、派遣社員に要求されるスキルレベルが上がり、教育の必要性も高まっていますので、他の派遣会社さんも、近いうちに同じような方針になるとは思います。ただ、私たちに一日の長があるのは確かですね。
神田 人材派遣会社が派遣社員のキャリアストーリーを描き、教育することで、一般企業よりも派遣会社に入ったほうが、スピーディにスキルアップできるようになる。派遣会社から、有能な人材が次々と現われる。そんな事例がどんどん出てくる時代になるかもしれませんね。
若山 私たちの取り組みをきっかけに多くの企業に刺激を与えることができれば嬉しいです。
神田 UTさんのように、新しい時代に合った人材開発モデルを示せる会社が出てくれば、あとは早いと思います。何よりも、大企業でも幹部社員がどんどん世代交代し始めていて、彼らは真剣に、企業変革を始めています。そのときに、どんなにすばらしい戦略を打ち出しても、ボトルネックになるのが、コミュニケーションと人材開発なのですが、そのボトルネックを解消するうえで、さまざまな背景を持った多種多様な人材が集まりながら急成長を遂げているUTさんの挑戦は、「人がストレスなく、モチベーション高く働くための職場づくり」において、大いに参考になると思います。
(『THE21』2016年6月号より)
(写真撮影:永井 浩)
更新:11月23日 00:05