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もはや米ドルは覇権通貨ではない...世界経済を揺るがす「新通貨」の可能性

2024年10月28日 公開

長嶋修(不動産コンサルタント)

ドルの価値

長らく世界の基軸通貨として君臨してきた米ドルの地位が、BRICS諸国の台頭によって揺らぎ始めており、新たな国際通貨体制の構築が迫られているといいます。ゴールドの価値や、ドルの変遷を紐解きながら、今後の世界経済を左右する可能性のある金融システムの大変革について、書籍『グレートリセット後の世界をどう生きるか』より解説します。

※本稿は、長嶋修著『グレートリセット後の世界をどう生きるか』(小学館)より一部抜粋・編集したものです。

 

ゴールドにはなぜ価値がある?

現行金融システムは1944年、つまり80年ほど前のブレトンウッズ会議で決まっています。日本が第二次世界大戦の敗戦を迎える前年に、すでに金融システムの話し合いが行われていたことにも驚きますが、この時、次のような国際合意が取り決められました。

「ドルを世界の基軸通貨とする」「ドルの裏付けとして、金(ゴールド)1オンス=35ドルとする」

要は、お金の価値をゴールドに紐づけることによってその価値を担保したわけです。一定のお金を持っていれば、いつでもゴールドと交換できる、というわけです。この時日本円は「1ドル=360円の固定相場」というように、各国通貨の価値がドルに紐づけられ、そのドルの価値はゴールドに紐づけられ、ということになったわけです。

しかしそもそもゴールドに、なぜ価値があるのでしょうか。

「1オンス35ドル」といった基準も、要は「エイヤッ!」と根拠なく決めた基準であり、さらに言うと「そもそもゴールドにはなぜ価値があるのか」ということは、あまり掘り下げられることはありません。

ゴールドの価値の源泉については「古来から人々に重用されてきたから」とか「希少資源だから」「腐食や錆など変質しないから」とか、もっともらしい理由が語られますが、これも結局は「みんなが価値があると思っているから価値がある」といったトートロジーで価値が担保されているだけだと、私は考えています。

はたまた古代のシュメール神話では「アヌンナキという宇宙人が、自分たちの星を守るために必要なゴールドが枯渇したため、地球まで取りに来た」といった記述がありますが、それが価値の源泉なのでしょうか。いずれにしても、ゴールドの価値の源泉は昨日今日に生まれたわけではありません。

しかし、ゴールドもやがて価値を大きく毀損する時代がやってくるでしょう。それ以前に金融システムの改変時期が迫っており、その際には一時的にゴールドの価値が大きく上昇する場面があるのかもしれません。

 

ドルは下落し続けている

ドルの価値を「エイヤッ!」と決めてスタートした世界の金融システムでしたが、その後世界の経済のパイが思いのほか大きくなると同時に、基軸通貨ドルを持つアメリカ経済がベトナム戦争などで疲弊し、ドル基軸体制の維持が厳しくなってきました。

ブレトンウッズ会議からわずか27年後の1971年、アメリカは「ゴールドとドルの兌換(交換)を停止する」と発表したのです。つまりこの時にドルの、ひいては世界中のお金の価値の裏付けはなくなったわけです。それでももうこの時には世界の経済は回っており、いわば「慣性の法則」が働いたとでも言うか、「みんながドルを信用しているから自分も信用する」といったトートロジーによって金融システムが保たれることになります。

この事件は、当時のアメリカ大統領名を付けて「ニクソンショック」と呼ばれています。裏付けのないお金であっても、世界の金融システムが何となく回ることが確認されたこの時、お金は単独で価値を持つようになったのです。要はゴールドという親から離れたお金の独り立ちですね。

2年後の1973年には現行の変動相場制となるわけですが、ここからお金の中における、ドルの相対的価値の下落が始まります。ドル円に限らず、世界の主要通貨とドルの長期的な価値の変遷は、1973年以降、約50年間は「ドル価値下落の歴史」なのです。

 

円とスイスフランが世界経済を支えている

「そうは言っても、昨今は強烈な円安ドル高じゃないか」という声が聞こえてきそうです。たしかに本稿執筆時点の為替は1ドル145円(2024年8月21日)と、直近のトレンドから円安に振れていますが、これは何も「ドルが強いから」とか「円が弱いから」ということではありません。「日米に金利差があるから」です。

近年の世界経済は強烈なインフレに見舞われ、とりわけアメリカにおいては2022年6月には9.1パーセントのインフレとなるなど、火消しのために順次、金利を上げてきました。金利が上がれば景気を冷やす、ひいてはインフレを抑制する効果があるからです。

その間日本はずっと「マイナス金利」政策を続けたため、日米金利差がドンドン開きます。こうなると「円キャリートレード」が発生しがちです。

「円キャリートレード」とはカンタンに言えば「円で資金調達したマネーをドルに換えて資産運用や事業投資を行うこと」を指しますが、これは何も外国人投資家のみならず、国内企業も同様の資産運用を行っているどころか、事業投資にも充てています。

これは、利益を追求する事業会社としてはある意味当然の行動とも言えます。「低金利で資金調達し、高金利で運用する」のは儲けの鉄則にほかならないからです。

ということは、実は次のようなことが言えるのではないでしょうか。

金利差をつけることで円が売られ、ドルが買われているわけですから、この構図は大きく見ると「ドルを、円が支えてあげている構図」にほかなりません。グローバルに見ると「低利の円とスイスフランがドルを支え、世界経済を支えている」と言っても差し支えないと思います。

このスタイルは到底持続可能ではありませんので、どこかの段階で基軸通貨のドルが崩壊するか、崩壊させたくないのなら何らかのドラスティックな方策を打ち出すしかないでしょう。その時期はもうそう遠くなく、本稿執筆時点では2026年あたりと想定しておきたいと思います。

 

台頭するBRICS経済圏

現行金融システム(以降「旧システム」とします)は、「米ドル基軸通貨体制」で成り立ってきました。そして「1971年ニクソンショック」や「石油・米ドルペッグ制(固定相場制)」「1985年プラザ合意」などで米ドルを保護しつつ、世界の金融システムを維持してきました。

ところが最近、ロシアや中国などのBRICS経済圏が台頭し、独自の通貨流通圏を形成し始めています。このBRICS経済圏の規模は現在、G7の30パーセントより大きい36パーセント。今後も仲間に入りたいとする国が増加中で、やがてドル経済圏に肩を並べるどころか、追い抜く勢いです。

ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5か国の頭文字を合わせて名付けられたBRICSグループに、サウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦、エチオピア、エジプトが加わった10か国のBRICS+では、全ての取引と支払いを米ドルを使わずに自国通貨で行うことに合意しています。

ねらいは「ドルの締め出し」です。加盟希望国はシリア、ボリビア、ジンバブエ、キューバ、カメルーンをはじめ、2024年中には40か国を超える見込みです。

またBRICS諸国は、タイ、ラオス、スリランカ、カザフスタン、ベネズエラ、ボリビアなど多くの国と自国通貨で支払いを行う協定を締結。さらにはASEAN10か国も相互の貿易決済に今までのように米ドルは使わないで自国通貨を使う方針を表明しました。

 

もはや米ドルは覇権通貨ではない

ではドルを使わずに、どうするのでしょうか。

BRICSは現在、新通貨「The UNIT」の発行を計画中で、BRICS+ビジネス評議会「金融サービスおよび投資ワーキンググループ」ですでに議論されており、早ければ2025年にBRICS+の公式政策となる見込みです。

BRICSが主に国家間決済用通貨として利用する新通貨「The UNIT」の通貨価値は、金40%、BRICS+通貨60%で価値を構成する半金本位通貨でペッグ制(固定相場制)。分散型台帳(ブロックチェーン)を採用し、ドルのようにどこかひとつの主体が使用・保有を制限できることがない非政治的通貨であるとしています。

このような状況を受けて米経済学者ジェフリー・サックス氏は次のように述べています。

「BRICSの経済は米国やその同盟国の経済よりも大きい。ワシントンでは一種のパニックが起きており、それは不安の神経症にまで高じている」

少なくとも、もうすでに米ドルは覇権通貨ではありません。米ドルが価値の源泉となる覇権通貨の地位を脅かされ、やがて追い越されようとしているのに、米ドルが今の水準であるのは、大きな市場の歪みであると私は考えています。

 

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