2025年07月25日 公開
グロービス経営大学院が主催する「あすか会議」は、年に一度、各業界のトップリーダーと学生(在校生・卒業生)および教員が一堂に集い、開催するカンファレンスです。21回目の開催にあたる「あすか会議2025」には約1,200人が参加。グロービスグループが地方創生に取り組む茨城県水戸市に集い、学びを深めました。
本稿では、「あすか会議」で行われた、チームみらい党首の安野貴博氏と衆議院議員・デジタル大臣の平将明氏・グロービス経営大学院 研究科長の君島朋子氏(モデレーター)によるセッション「AIが変える世界と社会」の様子をご紹介いたします。
平氏は、日本はAIに関して「学習しやすく、実装しやすい国」であると語ります。これは、法律でAIを厳しく規制するEUや、ビッグテック主導でイノベーションを追求するアメリカとは異なる、立ち位置です。
「世界ではAIに仕事が奪われることに対するデモが起きたりしていますが、日本は圧倒的に人手不足で、AIに反発するデモが起きにくい環境」と述べ、社会がAI導入に寛容である点を強調しました。
日本がAI大国となるためには、3つの要件が必要だと平氏は指摘します。
1つはサイバーセキュリティ。日本では「サイバー対処能力強化法」を制定されました。これにより、これまで難しかった通信情報の分析が可能となり、アメリカやイギリスと同等の体制が整いつつあるといいます。
2つ目は電力の確保。AIに不可欠なデータセンターの電力需要を満たす「ワット・ビット連携」という取り組みで、電力とデータセンターの整備を一体的に進めています。
3つ目はデータ利活用の法整備。平氏は「日本は個人情報を保護する法律はあるけれど、データ利活用に関する法律は抜けている」とし、現在その整備を進めているといいます。
安野氏は、AIが「産業革命レベルの変化」をもたらすと予測し、多くの人がその影響を過小評価していると警鐘を鳴らしました。特に、ソフトウェアエンジニア業界ではすでにその影響が現れており、ジュニアレベルの業務がAIに代替されつつあると指摘します。
「スタンフォードのコンピューターサイエンスを卒業しても、就職先がない、という状況に急速になりつつある。この波は容易にいろんな業種に広がり得ると思います。 特に情報処理を主とするあらゆるホワイトカラー職に大きなインパクトが来る可能性があることを想定する必要があります」(安野)
一方で、AIが社会課題の解決に貢献する例として"合意形成の自動化"を挙げました。Google傘下のDeepMind社が開発した、AIで合意形成を支援する「ハーバーマス・マシン」に関する論文に触れ、AIが利害関係の異なる複数のステークホルダーの調整役を担う研究について説明しました。
この研究では、AIが提示した案の方が、人間が出した案よりも合意を得る確率が高かったとされており、これまで合意形成のコストが高すぎて解決できなかった社会課題に対し、AIが新たな道筋を切り開く可能性を示唆しています。
平氏は、行政改革のレベルで起きる変化の例の一つとして、医療分野におけるAIの活用について言及しました。
現在、厚生労働省主導で進められている電子カルテの普及について、デジタル庁と連携し、政府共通のクラウド基盤である「ガバメントクラウド」の活用も計画中であることを明らかにしました。
「電子カルテの情報は、個々の患者へのサポート向上だけでなく、病院の運営コストを下げる話にもなるし、匿名化された電子カルテのビッグデータを活用することで、新たな治療法の発見に繋がる可能性もあります」(平)
平氏は、大規模な計算資源を投入してシンギュラリティを起こそうと試みるビッグテックの動きは日本には難しいとしながらも、必ずしもそこで戦う必要はないと述べました。大規模言語モデルと組み合わせた専門的なAIや、小規模言語モデルのような特定の分野に特化したAIを日本が開発していくべきだと提案しました。
安野氏も「日本もAIで頑張ろうと言うと、そんなのはもう遅いんだよと言われたりするのですが、僕はまだ可能性があると思っている」と語ります。
フロンティアモデルを開発する点では米中が先行しているものの、「実作業でAIを使いこなすレース」はまだ始まったばかりであり、日本には十分なチャンスがあると強調しました。特に、日本は人口減少という課題を抱えているため、自動化へのインセンティブが非常に強い点が追い風になると指摘しました。
AIが企業や組織の形を大きく変える可能性については、AIは需要に応じて柔軟に「スケールイン・スケールアウト(規模を縮小・拡大)」できるため、例えば繁忙期にはAIの利用を増やし、閑散期には削減するといった、人間では不可能な対応が可能になると説明しました。
また、AIはマネジメントの方法にも変革をもたらす可能性があります。複数人に同じタスクを与え、良い結果を出した者だけを採用するような方法は非効率的であると同時に、メンタルにも悪影響を与えかねません。しかし、AIであれば10個の案を出させて、最適な結果を採用する、という効率的な運用が可能です。
さらに、AIが複雑なコミュニケーションを円滑に集約・橋渡しすることで、一人の人間がマネジメントできるAIや人間の数が増加する可能性があります。安野氏は、こうした新しい技術を受け入れるための「組織のOS」を迅速に整えていく重要性を訴えました。
安野氏は、これからの時代に求められるスキルセットは大きく変わると指摘しました。最も重要なのは「はじめる力」であり、「AIにこれをやりたいと言える」ことが必要であると述べました。AIが道筋を示してくれる時代においては、人間が「これをやりたい」という欲望やビジョンを持つことが、ビジネスパーソンにとって非常に重要になります。
さらに安野氏は、将来的に、特に知的労働に就いている人々が「仕事ができる」ことにアイデンティティを持つことが難しくなる社会が来るだろうと予測します。しかし、「だからといって人生の生きがいが失われるわけではない」とし、「歴史を見ても、仕事が人生の全てではなかった時代にも人々は生きがいを持って生きてきた」と語りました。
AIが人間の知性を超えるポストAGI(汎用人工知能)時代において、私たちは「生きがいとは何か」「どう生きるべきか」といったことを急ピッチで考えていく必要があるとし、その際に不可欠なのが「豊かな文化」であると語りました。そのため、文化への投資や、歴史の中で培われてきた知識・価値観を学ぶことが、今まで以上に価値を持つのではないかと安野氏は提言しました。
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"あすか会議"主催法人「グロービス経営大学院」について
グロービス経営大学院は、2006年の開学以来「能力開発」「人的ネットワークの構築」「志の醸成」を教育理念に掲げ、ビジネスの創造や社会の変革に挑戦する高い志を持ったリーダーを輩出しています。日本語MBAプログラムは、東京・大阪・名古屋・福岡・オンラインの5キャンパスに加え、仙台・水戸・横浜に特設キャンパスを開設。さらに海外ではシンガポール・バンコク・サンフランシスコ・ブリュッセル・マニラに開講拠点があります。
2006年開学当初78名だった入学者数は、2025年4月には日本語MBAプログラムで943名に達し、在校生・卒業生は合計1万3,000人を超え、日本最大のビジネススクール*となっています。英語MBAプログラムは、パートタイム&オンラインMBAプログラム、フルタイムMBAプログラムを展開し、世界各国から多様な学生が集まっています。
*参考:文部科学省「令和7年度専門職大学院一覧」
グロービス経営大学院:https://mba.globis.ac.jp/
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更新:07月31日 00:05