2016年03月25日 公開
2016年04月06日 更新
――生産については、2014年12月に「楽月工場」(鳥取県倉吉市)を竣工させたことが話題になりました。手作業が多いということは、人件費の高い日本での生産はコスト増になるのではないかと思いますが。
安藝 当社は以前から中国に関連工場を複数持っているのですが、ずっと中国のままでいいのかというと、人件費が上がってきているので、そういうわけにはいきません。では、もっと人件費の安い国に工場を移転すればいいじゃないかという話になりますが、これが簡単にできないのです。フィギュアの生産技術や開発技術は、特殊な技術を磨き続けてきた独特のもので、移転が難しい。
もう1つ、フィリピンやベトナムでは人を集めるのが難しいという問題もあります。たとえば、(『艦隊コレクション -艦これ-』のキャラクターフィギュア『武蔵 重兵装Ver.』〈1/8スケール〉を指して)こういう複雑なものを大量生産しようとすると2,000人くらいの生産ラインが必要になります。『ねんどろいど』でも800~1,500人が必要。中国では、四川省から広東省へというように、出稼ぎに来る人が大勢いるので人を集めやすいのですが、フィリピンやベトナムでは地元の人しか集められません。
左(『レッドブル』の奥)が『武蔵 重兵装Ver.』のスタチュー。その右に並ぶ2頭身のフィギュアが『ねんどろいど』
また、中国では技術革新によって生産効率を上げようという議論になりにくいのです。「あと10人、人を雇えばいいじゃないか」という思考回路からなかなか抜け出せない。
そこで、思い切って日本に工場を作って生産技術を磨こうというのが、楽月工場を建てた目的です。ITを使うなどして、少人数で効率的に製造できる新しい生産技術を日本で開発し、それを少しずつ中国でも使う。あるいは、フィリピンやベトナム、バングラデシュといったところで展開できるようにしよう、ということです。
――技術開発の拠点という役割なのですね。
安藝 そうです。工場を稼働させながらR&Dもするということですね。1年くらいかけて、中国の工場でできていることのだいたいは、より少ない人数でできる目処がついてきました。中国では何倍か人手がかかることを、日本で100人くらいでできるようになった。とはいえ、まだまだ人手に頼っているので、次元の違う生産効率改革を目指していかなければいけません。
――話が遡ってしまいますが、中国の工場建設に投資を始めたのはいつ頃だったのですか?
安藝 2006年です。
その前は資本関係のない外注工場で生産していたのですが、外注工場だと、せっかく一緒に技術を高めていっても、2年くらいでお別れが来てしまうんです。生産ラインの8割くらいを当社が占めるようになると、「支配されてしまうんじゃないか」と心配になるんでしょうね。他のメーカーに「うちはこんなものを作れます」と売り込みにいくことが多い。当社の製品を実績としてプレゼンに使うのはいいのですが、精密なフィギュアはお互いの関係が深いからこそ作れるものなんです。ですから、他のメーカーが「これだけのものが作れるのなら」と複雑な製品を発注すると、生産ラインが混乱してしまって、当社とのパートナーシップが維持できなくなる。あるいは、「他のメーカーの比率が高くなったので、御社はもういいです」と言われることもありました。別の工場で生産するようになっても、同じことの繰り返しです。
また、外注工場だと、たとえば新しい機械を導入してほしいと思っても、強く言うことができません。深く立ち入ることができない部分が多いので、当社としては不満が生じてくる。そこで、やむにやまれず、工場自体を作ることに舵を切ったのです。
――工場への要求水準が高いのですね。
安藝 品質的な追い込み方はかなり激しいと思います。外注工場だと、工場のほうは製品の品質を大事にしつつも、最終的には工場が黒字になることを優先させますし、当社としても工場運営に対して最終的な責任は持てない。すると、品質的な追い込みはそこまでできません。関連工場なら、「新しい成型機がほしい」となれば買えますし、「新しい材料を使いたい」となれば「この製品で試しましょう」と言える。これも当社の強みだと思います。
――社長ご自身が工場の生産ラインで指導されたりするのですか?
安藝 指導というと大げさですけど、やりますね。もうだいぶ行かなくなりましたが、立ち上げの頃は中国に家を借りて住んでいました。
更新:11月22日 00:05