2016年03月25日 公開
2016年04月06日 更新
――そうすると、フィギュアの業界の知識などはマックスファクトリーさんから教えてもらったということでしょうか?
安藝 当時は、まだ業界というものができ始めた頃で、ルールがない状態でした。もともと、ガレージキットという、マンガで言えば同人誌の模型版みたいなものがあって、それが人気になったことで模型店が扱うようになり、それがもう少し進化してガレージキット文脈の精密彫刻の量産品が商品化され始めた、という時期です。ルールがないわけですから、別の業界から来た僕らが知っているビジネスソリューションを持ち込むしかなかった。新しい方法論を作っていった感じです。
――具体的にはどういう方法論ですか?
安藝 以前の模型店のビジネスというのは、簡単に言えば、在庫がすべてでした。自動車や戦車、戦闘機、ゴジラやガメラやガンプラ、あるいは金沢城などといった模型の在庫が店頭にたくさんあって、それはすべて財産。お客さんはそこから楽しくピックアップして買うわけです。問屋さんも同様で、在庫は財産。
ところが、当社が扱っているキャラクターフィギュアは、商品としての寿命が比較的短いのです。金沢城の模型なら今年売れなくても3年後に売れるかもしれませんが、キャラクターフィギュアだとそういうわけにはいかない。ですから、在庫を持つのが危険で、小売店さんは大量発注をしづらい。問屋さんにとっても同じです。「在庫は財産」から「在庫は悪」に変わったわけです。
すると、小売店としては、事前に何が売れるかを知っておいて、それを大量に発注したい。それができる仕組みがなかったので、当社が導入したのが、ユーザーに予約をしてもらい、その数を必ず生産するというサービスです。
従来は、人気商品だと、小売店が100個発注しても30個しか届かないというようなこともよくありました。需要どおりに生産されていないので、多くの小売店が数多く発注すると足りなくなるわけです。これでは、小売店は怖くて予約が取れません。あるいは、「100個発注してもどうせ30個しか届かないのだから、300個発注しよう」ということにもなります。それで、もしその商品の人気が出なければ、本当に300個届いてしまいます。また、在庫になった商品も買ってくれれば人気商品を融通する、というような、一種の抱き合わせ販売みたいなことも生じていました。小売店がユーザーのために満足なサービスができない状態だったのです。それを改めるために、事前予約を取って、その数は必ず生産するというビジネスに変えたわけです。
――予約がどれだけ入れば、全体としてこれだけ売れる、という需要予測はできるのですか?
安藝 経験知だと思います。ただ、予約を取ることで考えるベースができますよね。予約を取らずに「このアニメは人気だから30個仕入れよう」というのと、「Aは20個予約が入ったから25個仕入れよう」「Bは10個予約が入ったから11個でいいかな。いや、キャンセルもあるかもしれないから8個にしようかな」と考えるのとでは違います。「予約はあまり取れていないけど、発売されたら人気になるはずだ」と、あえてリスクを取るチャレンジングな小売店も出てきます。さらには、「もっと予約を取るためにはどうすればいいだろう?」と小売店も考えてくれるようになります。メーカーも流通も小売店も、思考停止にならずに、それぞれのレイヤーで考える状況をうまく作れたなと思っています。
――予測よりもよく売れた場合、追加生産はするのですか?
安藝 品切れしてプレミアがついてしまった場合には、することがあります。ただ、非常にリピート性が悪いので、よほどのことがないとしません。それに、追加生産には半年以上かかりますから。
――金型があればすぐにできる、というものではないのですね。
安藝 生産ラインが埋まっているということもありますし、そもそも生産には1~2カ月かかります。手作業も多いですし。
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更新:11月22日 00:05