2015年06月24日 公開
2022年11月14日 更新
さらに、外国人投資家に強い影響力を持つ、世界最大手の議決権行使助言会社ISS(Institutional Shareholder Services)も大胆な方針を打ち出しました。2015年版「議決権行使助言方針」の中で、「過去5年間の平均と直近決算期のROEがいずれも5%未満の企業については、経営トップの取締役選任議案に反対するよう株主に勧める」という方針を発表したのです。
つまり、過去5期の平均ROEが5%を下回れば、社長をクビにするようプレッシャーをかける、というわけです。
もう1つ、2014年1月に作られた新しい株価指数「JPX日経インデックス400」の存在も、ROE重視の流れに拍車をかけました。この株価指数は、日本経済新聞社、日本取引所グループ、東京証券取引所が共同で開発したもので、3年間の平均ROEや、累積営業利益、基準時の時価総額などを考慮して上位400銘柄を選んだインデックスです。
なぜ、この株価指数が重要なのかと言いますと、日銀が、買い入れている上場投資信託(ETF)にJPX日経400も追加すると発表したからです。また、日本の年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も、これを運用インデックスの一つに加えました。
日銀は、異次元緩和の一環として、ETFを月間2000〜3000億円ほど買い入れています。また、135兆円以上の規模を持つGPIFも国内株式の運用比率を12%から25%まで引き上げましたから、最終的には十数兆円規模の資金が株式市場に流れ込むことになります。つまり、JPX日経400に選ばれれば、その銘柄は当面の間、上がりやすくなるということなのです。
こういった背景から、企業にとって、JPX日経400に選ばれるかどうかということは、今後の自社の株価を大きく左右するポイントになるというわけです。この株価指数に含まれるためにはROEを高めることが必須ですから、こういった意味でも企業は必死になっているのです。
このような流れの中で、日本の上場企業は次々と具体的なROE数値を経営目標に掲げるようになりました。
会社がROEの数値目標を掲げることは、「これからは株主の存在を今まで以上に重く受け止めますよ」「株主のリターンを重視しますよ」というメッセージでもあります。
それが新聞などで報道され、ROEという言葉を目にする機会が一気に増えたのです。
米国では、日本より前からROEを重視した経営が行なわれています。ただ、米国の一部の企業では、ROEを追求し過ぎて、過度なリストラや自社株買いを行うことも見受けられます。日本では、今のところそういった企業はあまり見かけませんが、同じことが起こらないことを願います。
とはいえ、ROEを軽視していいと言っているわけではありません。これは多くの日本企業に言えることですが、キャッシュをたくさん持っているにもかかわらず、有効活用せずに貯め込むのもよくありません。それは、社会から預かっている資源が有効に活用されていないということになります。
資源を有効活用することと、効率的な経営をすることと、安全性を考えること。会社を経営するときは、このバランスが非常に大切なのです。
そして、そのバランスをとっていく上で重要な指針となるのが、さまざまな経営指標なのです。
拙著『「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』では、ROEのほかにも、ROA、EVA、EBITDA倍率、フリーキャッシュフロー、自己資本比率、流動比率、資産回転率、売上高営業利益率……最低限これだけはおさえておきたいという経営指標を厳選し、わかりやすく解説しています。
経営指標に振り回されないためにも、それぞれの指標が意味するものをしっかりと理解していただければと思います。
更新:11月22日 00:05