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なぜ今、「ROE」がブームになっているのか?

2015年06月24日 公開
2022年11月14日 更新

小宮一慶(経営コンサルタント)

小宮一慶

 

指標を知らずして、経営は語れない!

 

企業の好決算が続く中、最近よく聞く言葉がある。それが「ROE」だ。
「自己資本利益率」と訳され、経営や投資に非常に重要な指標と言われるが、果たして「ROEって何?」と聞かれて、答えられる人はいるだろうか。
そこで『「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』を刊行した小宮一慶氏に、そのものずばり「ROEって何?」と聞いてみた。

 

そもそも、「ROE(自己資本利益率)」とは?

「ROEって何ですか?」

 部下や後輩からこう質問されたとき、あなたはきちんと説明することができますか?

 勉強熱心な読者の中には、「自己資本利益率」と答えられる人もいるかもしれませんね。それでは、次の質問はどうでしょう?

 最近、どこどこの企業が『ROE向上のために自社株買いを行った』という新聞記事をよく見かけます。企業が自社株買いをすると、どうしてROEが高まるのですか?」

 「ROEとよく似た指標にROAというものがありますよね。この二つは何が違って、どちらがより重要なのですか?」

 こう聞かれると、答えに詰まってしまう人がほとんどではないでしょうか。

 今、多くの経営者や投資家が、ROEという指標に注目しています。特に昨年後半あたりから、新聞やビジネス誌などの見出しに「ROE」という言葉を見かけることが一気に増えました。

 ROEとは「Return On Equity」の略で、次の式で計算されます。

 ROE=当期純利益÷自己資本(≒株主資本)

 詳しくは、拙著『「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』(PHPビジネス新書)をお読みいただければと思いますが、ひと言でいえば「株主が会社に預けているお金を使って、どれだけリターン(利益)を稼いでいるか」を見る指標です(「率」ですので、「0%」という形で表されます)。

 したがって、このROEの数値が高い企業というのは、「株主から預かったお金を使って効率よく利益を稼いでいる企業」ということができます。

 

大きなきっかけとなった「伊藤レポート」

 ではなぜ、最近になって「ROE」という言葉を目にする機会がこんなにも増えたのでしょうか。

 大きなきっかけとなったのは、2014年8月に発表された「伊藤レポート」です。

 これは、経済産業省が中心となって進めた「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築〜」プロジェクトの最終報告書のことです。同プロジェクトの座長を務めたのが一橋大学大学院特任教授の伊藤邦雄先生で、そこから通称「伊藤レポート」と言われています。

 いったい、このレポートにはどのようなことが書いてあったのでしょうか。

 バブルが崩壊した1990年以降、日本経済は急速に冷え込み、長い間低成長が続いてきました。伊藤レポートでは、その最大の原因は日本企業の利益効率が低いことにある、と言っています。そこで同レポートは、「日本企業はROE8%を最低ラインとして、その上を目指すべき」と具体的な目標を提示しました。

 また日本企業が「稼ぐ力」を取り戻すためには、企業と投資家の関係を対立的に捉えるのではなく、「協創(協調)」的に捉えて、経営者と投資家がもっと対話すべきだ、という提言もしています。

 ここからは私の解釈ですが、これは投資家も企業の成長を促すように対話をするとともに、企業も、もっと株主のほうを向いた経営をしなさい、ということだと思います。日本企業は昔から内部指向が強く、株主のほうを向いていないということがずっと言われてきました。

 

日本企業も「なぁなぁ」からの脱却を!

 たとえば、取締役というのは本来は株主の代理人であり、経営者(業務執行を行う役員)がきちんと経営しているかどうかを「取り締まる」ものですが、日本企業の取締役にそんなイメージはあまりありませんでした。社長の子飼いの役員だっていますし、経営者と取締役の関係がなぁなぁという会社はいまだに少なくないと思います。

 一方、特にアメリカの企業では、取締役の大半が社外取締役ということも珍しくありません。それだけに、経営者が正しい意思決定をして、まともなパフォーマンスを出しているかということがシビアに問われる。場合によっては即座に解任、ということもあるわけです。こうした状態を「コーポレートガバナンスが効いている」と言います。

 グローバル経営と言われる時代、日本企業もなぁなぁの経営ではなくガバナンスをもっと強化し、それによって収益力を高め、株主を重視した経営をしていかないと、海外からの投資が集まらない。逆に言うと、そうした経営をしていけば、投資も集まるし、企業の収益力もさらに高まり、日本経済全体ももっと活性化していくだろう、というのが伊藤レポートの主旨だと私は考えています。

 この提言と呼応するように、金融庁が動き出しました。日本株に投資している国内外の機関投資家に企業との対話を促す「日本版スチュワードシップ・コード」と、会社のガバナンスを強化するための「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」を制定したのです。前者は2014年2月からすでに導入されています。

 これは、投資家に対してのもので、投資家は企業に対し長期的な発展を促すための対話を重視するものとしています。また後者は、企業に対してのもので、2015年6月から導入され、東京証券取引所に上場する企業は独立した社外取締役を2人以上置くことなどが求められるようになりました。

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著者紹介

小宮一慶(こみや・かずよし)

経営コンサルタント、小宮コンサルタンツ代表

1957年、大阪府生まれ。1981年、京都大学法学部を卒業後、東京銀行に入行。1986年、米国ダートマス大学経営大学院でMBAを取得。帰国後、経営戦略情報システム、M&A業務や国際コンサルティングを手がける。1993年には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。1996年、〔株〕小宮コンサルタンツを設立。『小宮一慶の1分で読む!「 日経新聞」最大活用術』(日本経済新聞出版社)など、著書多数。

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