
㈱アップルシード・エージェンシーの代表取締役であり、新刊『会社は大きくするな!』が発売された鬼塚忠氏。起業家・代表としての知見を、過去の失敗談も交え語ってもらった。
ーー鬼塚さんの新刊のタイトルは『会社は大きくするな!』。刺激的なタイトルですがどういった思いを込められたのでしょうか。
【鬼塚】会社を大きくしようと必死に突き進んだ末に、自らが潰れそうになったからです。
海外の作家のエージェント業から、日本人作家のエージェントとして設立したのが、アップルシード・エージェンシーの始まりでした。
ところが、会社を大きくしようといろいろなものに手を出していった結果、次第に歯車が狂っていってしまった過去があるんです。
ーー会社の規模が大きくなっていく過程で、具体的には何を失っていきましたか?
【鬼塚】数字を追うほど現場が遠くなり、社員一人ひとりの顔が見えなくなっていきました。
売上も人数も増えたのに、大切にしていた社員や作家は一人また一人と離れ、終いには、無茶がたたって秘書が体を壊してしまい...。
あろうことか、当時の私はそれを本人の自己管理不足だと考えていました。今にして思えばとんだ思い上がりです。社員の健康を犠牲にする働き方を強いていたのは、ほかでもない私自身だというのに。
会社が大きくなって失うのは、たいてい一番守るべきだったものです。一人を大切にできない会社が、百人を幸せにできるはずがない。当たり前のことを、私は痛い代償を払って思い出しました。
ーー一方、組織を大きくしないと会社としてできることの範囲が狭まってしまうのでは、とも考えられます。
【鬼塚】もちろん、小さい会社のままでいるデメリットはあります。特にスケールメリットで大企業に比べて不利になるのは避けられません。
ただ、大企業も大企業で、人が増えることによるコミュニケーションコストの増大というリスクを抱えています。
それならば、たとえできることは少なくても、経営者自身が現場に目が届く範囲で、自分たちの好きなことを追求していく方が良いのではと考え、現在の規模感にいたっています。
社員数はパート、アルバイトを含め10~11人程度でキープしていますが、私はこれを「円卓に座れる10人」と表現しています。
この言葉は、組織におけるマネジメント可能な人数を表現した言葉です。10人程度で中華料理屋の円卓に座った時、不思議なことに全員の顔が等しく見えるんです。組織運営においても同様で、社員一人ひとりの顔が見える規模感がベストだと考えています。
また、現代は人口減少が続いており、またAI時代でもあり、かつてのような「成長=正義」という時代ではありません。そんなパイが縮小していく時代に会社の規模拡大を追えば、値下げ競争と人手不足の消耗戦に巻き込まれかねません。
人が減るからこそ、少人数で濃く戦う会社が有利になるんです。
会社を大きくしないのは、後ろ向きの縮小ではなく、この時代を幸せに生き抜くための一番前向きな戦略なんです。
ーー「AIは円卓の11人目」と表現されています。
【鬼塚】AIは使い方次第で百人力の成果を出せますので、小さい企業にとっては特に心強い味方です。
リスクや危険性があるから使わない、という方針の人や企業もあるようですが、それは交通事故を怖がって自動車に乗らないことと同じようなものではないでしょうか。
AIの出現はまさに自動車の出現と似ていて、以前の世の中にはもう戻れないわけですから、どんどん使って慣れていかないとものすごい損をすることになると思います。
ーー社内でAIの使用法に対する取り決めなどは設定されていますか?
【鬼塚】AIの進化は日進月歩で状況は日々目まぐるしく変化しています。そのため、決まったルールというよりは、その都度試行錯誤を繰り返しているという段階です。
使用法に関しても、社員個々人の裁量に任せています。各々の業務内容に合わせて、「こんなこともできるんだ」と発見をし、それを共有し合うことで会社全体の効率化を図っています。
更新:10月20日 00:05