THE21 » キャリア » 30年の経済停滞で日本は「道」を失った... ゴディバ社長の「正射必中」の提言

30年の経済停滞で日本は「道」を失った... ゴディバ社長の「正射必中」の提言

ジェローム・シュシャン(ゴディバ ジャパン株式会社 代表取締役社長)

ゴディバ ジャパン代表、ジェローム・シュシャン氏が、日本企業が勢いを失った理由を考察する。

※本稿は、ジェローム・シュシャン 著『挑戦するブランド、ゴディバ』(Gakken)の内容を一部抜粋・編集したものです。

 

日本企業は「道」の精神を失ってしまった

ーー日本の経済は「失われた30年」という言葉もあり、バブル崩壊後、長期にわたって低迷することになりました。日本企業もかつての奇跡の成長期のような勢いを失ってしまいました。この先を考えるとき、「正射必中」にヒントがあるような気がします。

【シュシャン】私が初めて日本に来た1980年代、日本の金融機関やメーカーは絶好調で、世界をリードする存在でした。当時、言われていた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が、まさに私の印象でもありました。

ところが、経済がどんどんグローバル化していくと、その波に乗り遅れてはいけない、というかけ声のもと、日本企業はそれまで大事にしてきたスタイルを変えてしまいました。

成果主義や利益偏重主義を追求した結果、日本企業はどんどん元気を失ってしまった気がします。それは日本企業の中にあった「道」の精神を失ってしまったことが大きいのではないかと思っています。

まさに数字に気を取られてしまったのではないでしょうか。「正射必中」。結果を狙うのではなく、プロセスを大切にすることこそ重要なのに、です。フォーカスすべき点を間違えてしまった。

弓道では、的にあてようとするのではなく、よい形を作るというところにこそ意識を向けます。企業で言えば、数字による実績達成を追い求めるのではなく、よい商品を作るとか、よい店舗にするとか、そういうところに集中しなければいけなかった。数字達成だけを目指すと、うまくはいかないのです。

ーーまさに、それが起こったのですね。

【シュシャン】例えば、弓道の昇段試験で2本あてなければいけないというとき、1本目がうまくいくと2本目に相当なプレッシャーがかかります。このとき、的にあてたいと欲が出るとうまくいきません。とにかく「正射」だけに集中することが大切になります。

会社も数字に気を取られると、「正射」以外のところが気になり始める。これは株主も同じかもしれません。そうすると、コスト削減をしよう、人員削減をしよう、などという方向に向かう。

大切にすべきなのは、本当によいものが出せるか、よいサービスができるか。当たり外ればかり気にしてはいけません。それは必ずあるものですから。それよりもまずは、「正射」にこだわる。的に気を取られないように、やるべきことをやる。

もちろん、言うは易しで、きれいごとと思われるかもしれない。実際には大変です。プレッシャーもたくさんかかってくる。しかも、さまざまなところからかかってくる。

それでも、リーダーはしっかり理想を持っておくべきです。そうすることで「正射」が実現できる。

 

完璧を目指すな。起きたことをしっかり見つめよ

ーーお話を伺っていると、そもそも簡単にはうまくいかないのだ、という前提があるような気がします。弓道でも、小さな的にあてることは、とても難しい。百発百中なんて、まずできないということですよね。

【シュシャン】弓道を通じて、改めて感じたことの一つに、物事は思うようにはいかない、ということです。何だってうまくいく、などと考えていたら、それは大間違いだと思います。

弓道には、理想的な射があります。それは理想を目指してベストを尽くす目標になるという意味で、よい影響を与えます。しかし同時に、完璧な射はないということも知っています。ベストを尽くして矢を放ったときでさえ、それよりもよい矢を放つ可能性がある。

弓道の先生にこう言われたことがあります。完璧になるまで待ってはいけない、と。完璧な瞬間を待っていると、いつまでも自分は十分ではないと感じて、次の昇段試験を受けることを先延ばしにしてしまう、と。

ビジネスでも、必ずうまくいく、などと考えてしまうから、完璧主義が生まれます。完璧に準備ができないと、前に進まない。どんどん先送りしてしまう。でも、完璧なんてないのです。だから、前に進むしかない。

そもそも思うようにはいかないことがほとんどだと思っていてよいかもしれません。もちろん、うまくいくときもあります。結果が発表されるものは大抵うまくいっているものです。しかし、そうではないものもたくさんある。

私たちゴディバも、うまくいったことばかりではありません。失敗をした取り組みもあります。でも、それは仕方がないことです。物事は思うようにはいかないのですから。それがわかっているから、また新しいチャレンジに向かう。

メディアで紹介されるのは、成功したことばかりです。それは弓道で的にあたった話ばかりを聞かされるようなものです。実際には、100の矢を放っても、一度もあたらないこともある。だから、そこに意識を向けるのではなく、「正射」にこそ向ける。そうすることで、自分の気持ちも静まっていきます。

ーー一方で、結果をシビアに受け入れる、起きたことにしっかりと向き合うことの大切さも、弓道では言われるそうですね。

【シュシャン】「矢所を見る」という言葉があります。矢所とは、放った矢が刺さった場所のことです。的のそばまで歩いて行き、矢の位置、刺さった角度、刺さり具合などをつぶさに見る。そして、なぜそうなったのかを考え、原因を探り、技術的な弱点を改善する。これが、「矢所を見る」です。

実はこれは、なかなか実践できないことです。なぜなら人は、あたった、外れた、という結果だけに一喜一憂してしまうからです。

私は意識して、この「矢所を見る」をビジネスでも実践して、役立てています。起きていることに対して、一度立ち止まって考えてみる。うまくいっているときも、うまくいっていないときも、どうしてこうなのか、を見つめる。

これをやらずにすぐに次のアクションに行ってしまうと、経験も反省も活かせない。次のアクションに行くまでにはそのための「間」が必要です。それは弓道でもビジネスでも意識していることですね。

プロフィール

ジェローム・シュシャン

ゴディバ ジャパン株式会社 代表取締役社長

1961年フランス、パリ生まれ。HEC Paris経営大学院卒業。1983年、大学在学中に旅行で初来日。29歳で弓道を始める。フランス国立造幣局、ラコステ北アジアディレクター、LVMHグループ・ヘネシーのディレクター、リヤドロ ジャパン代表取締役社長などを経て、2010年ゴディバ ジャパン株式会社代表取締役社長に就任。革新的な新製品の開発やチャネル拡大戦略、マーケティング施策により多様化する顧客のニーズに応え、日本の業績を10年間で3倍に成長させた。
在日フランス商工会議所会頭。2010年国際弓道連盟理事就任、2013年弓道錬士五段取得。著書に『ターゲット ゴディバはなぜ売上2倍を5年間で達成したのか?』(高橋書店)、『働くことを楽しもう。ゴディバ ジャパン社長の成功術』(徳間書店)がある。

THE21の詳細情報

関連記事

編集部のおすすめ

残業代を上げれば社員は定時で帰る? 「長時間労働は美徳」の価値観を崩すロジック

太田肇(同志社大学名誉教授)

「高学歴で無難な社員」だけ採る大企業 トップ層は、尖った独創的な人材を選べない

太田肇(同志社大学名誉教授)

締切を守らない社員たちを一瞬で変えた マネージャーの「魔法の一言」とは?

堀場英雄(子供向け多読英語塾 BOOK i LAND 創業者・学長)

最高級の食事で信頼低下!?グローバル接待で日本人が犯す「3つのミス」

今野有子 (株式会社アルムンド代表取締役/Philosophy Technologies inc. Co-CEO)