2026年11月03日 公開

ゴディバ ジャパン代表、ジェローム・シュシャン氏が、日本企業が勢いを失った理由を考察する。
※本稿は、ジェローム・シュシャン 著『挑戦するブランド、ゴディバ』(Gakken)の内容を一部抜粋・編集したものです。
ーー日本の経済は「失われた30年」という言葉もあり、バブル崩壊後、長期にわたって低迷することになりました。日本企業もかつての奇跡の成長期のような勢いを失ってしまいました。この先を考えるとき、「正射必中」にヒントがあるような気がします。
【シュシャン】私が初めて日本に来た1980年代、日本の金融機関やメーカーは絶好調で、世界をリードする存在でした。当時、言われていた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が、まさに私の印象でもありました。
ところが、経済がどんどんグローバル化していくと、その波に乗り遅れてはいけない、というかけ声のもと、日本企業はそれまで大事にしてきたスタイルを変えてしまいました。
成果主義や利益偏重主義を追求した結果、日本企業はどんどん元気を失ってしまった気がします。それは日本企業の中にあった「道」の精神を失ってしまったことが大きいのではないかと思っています。
まさに数字に気を取られてしまったのではないでしょうか。「正射必中」。結果を狙うのではなく、プロセスを大切にすることこそ重要なのに、です。フォーカスすべき点を間違えてしまった。
弓道では、的にあてようとするのではなく、よい形を作るというところにこそ意識を向けます。企業で言えば、数字による実績達成を追い求めるのではなく、よい商品を作るとか、よい店舗にするとか、そういうところに集中しなければいけなかった。数字達成だけを目指すと、うまくはいかないのです。
ーーまさに、それが起こったのですね。
【シュシャン】例えば、弓道の昇段試験で2本あてなければいけないというとき、1本目がうまくいくと2本目に相当なプレッシャーがかかります。このとき、的にあてたいと欲が出るとうまくいきません。とにかく「正射」だけに集中することが大切になります。
会社も数字に気を取られると、「正射」以外のところが気になり始める。これは株主も同じかもしれません。そうすると、コスト削減をしよう、人員削減をしよう、などという方向に向かう。
大切にすべきなのは、本当によいものが出せるか、よいサービスができるか。当たり外ればかり気にしてはいけません。それは必ずあるものですから。それよりもまずは、「正射」にこだわる。的に気を取られないように、やるべきことをやる。
もちろん、言うは易しで、きれいごとと思われるかもしれない。実際には大変です。プレッシャーもたくさんかかってくる。しかも、さまざまなところからかかってくる。
それでも、リーダーはしっかり理想を持っておくべきです。そうすることで「正射」が実現できる。
ーーお話を伺っていると、そもそも簡単にはうまくいかないのだ、という前提があるような気がします。弓道でも、小さな的にあてることは、とても難しい。百発百中なんて、まずできないということですよね。
【シュシャン】弓道を通じて、改めて感じたことの一つに、物事は思うようにはいかない、ということです。何だってうまくいく、などと考えていたら、それは大間違いだと思います。
弓道には、理想的な射があります。それは理想を目指してベストを尽くす目標になるという意味で、よい影響を与えます。しかし同時に、完璧な射はないということも知っています。ベストを尽くして矢を放ったときでさえ、それよりもよい矢を放つ可能性がある。
弓道の先生にこう言われたことがあります。完璧になるまで待ってはいけない、と。完璧な瞬間を待っていると、いつまでも自分は十分ではないと感じて、次の昇段試験を受けることを先延ばしにしてしまう、と。
ビジネスでも、必ずうまくいく、などと考えてしまうから、完璧主義が生まれます。完璧に準備ができないと、前に進まない。どんどん先送りしてしまう。でも、完璧なんてないのです。だから、前に進むしかない。
そもそも思うようにはいかないことがほとんどだと思っていてよいかもしれません。もちろん、うまくいくときもあります。結果が発表されるものは大抵うまくいっているものです。しかし、そうではないものもたくさんある。
私たちゴディバも、うまくいったことばかりではありません。失敗をした取り組みもあります。でも、それは仕方がないことです。物事は思うようにはいかないのですから。それがわかっているから、また新しいチャレンジに向かう。
メディアで紹介されるのは、成功したことばかりです。それは弓道で的にあたった話ばかりを聞かされるようなものです。実際には、100の矢を放っても、一度もあたらないこともある。だから、そこに意識を向けるのではなく、「正射」にこそ向ける。そうすることで、自分の気持ちも静まっていきます。
ーー一方で、結果をシビアに受け入れる、起きたことにしっかりと向き合うことの大切さも、弓道では言われるそうですね。
【シュシャン】「矢所を見る」という言葉があります。矢所とは、放った矢が刺さった場所のことです。的のそばまで歩いて行き、矢の位置、刺さった角度、刺さり具合などをつぶさに見る。そして、なぜそうなったのかを考え、原因を探り、技術的な弱点を改善する。これが、「矢所を見る」です。
実はこれは、なかなか実践できないことです。なぜなら人は、あたった、外れた、という結果だけに一喜一憂してしまうからです。
私は意識して、この「矢所を見る」をビジネスでも実践して、役立てています。起きていることに対して、一度立ち止まって考えてみる。うまくいっているときも、うまくいっていないときも、どうしてこうなのか、を見つめる。
これをやらずにすぐに次のアクションに行ってしまうと、経験も反省も活かせない。次のアクションに行くまでにはそのための「間」が必要です。それは弓道でもビジネスでも意識していることですね。
更新:11月03日 00:05