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地価が上がるほど「相続税」が重くなる…髙橋洋一が日本の税制を「非常識」と指摘する理由

2026年11月05日 公開

髙橋洋一(株式会社政策工房会長、嘉悦大学教授)

地価が上がるほど「相続税」が重くなる

2026年の全国平均路線価は前年比2.9%上昇し、現在の算出方法となった2010年以降で最大の伸び率を記録しました。
都市部の再開発やインバウンド需要を背景に地価が高騰するなか、嘉悦大学教授の髙橋洋一氏は、日本経済が長年のデフレ停滞から脱しつつあると指摘します。
一方、地価上昇は不動産を所有する人の相続税負担を重くする側面もあります。最高税率55%という日本の相続税は、国際的に見て妥当なのでしょうか。髙橋氏が、地価上昇の背景と日本経済の変化を読み解きながら、相続税制度の問題点と見直しの必要性を解説します。

※本稿は、髙橋洋一著『経済のニュースは嘘ばかり 株高、円安、物価高の正体』(PHP研究所)の内容を一部抜粋・編集したものです。

 

過去最高の路線価上昇率

2026年7月、国税庁は、相続税や贈与税の算定基準となる2026年分の路線価を公表しました。全国の平均変動率は前年比2.9%増で、都市部の再開発や訪日客の増加に伴うホテル、店舗需要を背景に5年連続で上昇しました。
路線価とは、道路に面する宅地1平方メートル当たりの評価額です。国税庁が毎年7月1日に公表し、主に相続税や贈与税の算出基準として使われ、金額は地価公示価格の約80%を目安に設定されています。

近年の推移を見ると、コロナ禍で6年ぶりの下落となった2021年はマイナス0.5%、22年はプラスに転じて0.5%となり、23年は1.5%、24年は2.3%、25年は2.7%、そして26年は現在の算出方法に変更された10年以降で過去最高の上昇率(2.9%)です。地価を押し上げた要因として国内外の投資マネーの流入や堅調な住宅需要、訪日外国人客の回復、再開発への期待感がある、といわれます。

全国的に地価が上がるなかで、注目すべきなのは「大都市圏」「再開発エリア」「インバウンド人気リゾート」での地価高騰です。
東京都内の地価上昇率は平均9.4%上昇と全国平均の3倍超伸びており、地価日本一は銀座の鳩居堂前(銀座中央通り)で1平方メートル当たり5336万円(前年比11.0%増)、41年連続で全国最高額を更新しました。ほかにも都心に近い浅草や再開発が進む中野、北千住周辺で大きな上昇が見られます。リゾート地の上昇率も高く、インバウンド(訪日外国人客)に人気が高い長野県の白馬村や野沢温泉村、北海道の富良野などの観光地が全国の上位に並んでいます。

 

大停滞から脱しつつある

路線価は当然ながら、地価の公示地価と連動しています。全国の伸び率を全用途(住宅地や商業地、工業地を合わせた平均)の時系列で見ると、1991年に11.3%を記録したのち、バブル崩壊後の92年以降はマイナスが続いていました。しかし、2016年以降はコロナ禍の21年を除いて低水準ながらプラス基調に転じ、24年以降は2%台を維持しています。

2026年の全用途公示価格は2.8%とバブル崩壊後最大であり、バブル前の1980年代中ごろの3%程度と同水準とはいえ、大停滞から脱しつつあることが明らかになりました。地価の先行指標の一つである日経平均株価も、すでにバブル崩壊前を上回っています。資産価格の増大は、日本がデフレの大停滞から完全に脱したことを意味します。長きにわたる「デフレがよいか、インフレがよいか」をめぐるエコノミストの論争も、これで決着がついたと考えてよいでしょう。

 

高率の相続税は世界の非常識

なお相続税についていえば、日本が極端に相続税の高い国であることはよく知られています。最高税率は世界最高水準の55%。海外を見れば、シンガポールやマレーシア、インド、中国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ポルトガル、スウェーデン、ノルウェーなどが相続税ゼロです。

相続税がある国でも基礎控除額が高いために実質の負担は軽く、日本ほど負担の重い国はそうありません。米国ではほとんどの家庭が基礎控除額を下回るので、相続税の課税対象にならない。対する日本は基礎控除が3000万円+600万円×法定相続人数ですから、東京に不動産をもつ人であれば、大半が課税対象のラインに引っかかるのではないでしょうか。

最高税率の対象者に至っては、数億円のキャッシュを支払い期限の10カ月以内に集めなければならない。不動産を焦って売って現金化しようとしたら、足元を見られて買い叩かれてしまい、相続後にお金がほとんど残らなかった、という悲劇もあります。
10万円以下のお金をこまめに振り込むとか、相続税の対象にならない物品に換えるとか、生前贈与をあれこれ進める人が多いのも納得できます。ただし物品といっても、金(ゴールド)はいわずもがな相続税の対象です。私は学者なので、詳しくは税理士にご相談ください。

日本の相続税が高い理由として、所得税の代わりという側面があります。かつてはマイナンバー制度もなく、はっきりいって所得税の脱税が横行していました。源泉徴収のサラリーマンを除く自営業・農家の人が収入を複数の銀行口座に分散させると、税務署が捕足しきれない。所得税の税収不足を相続税で補う、というのが実のところでした。

しかし現在はマイナンバー制度があり、金融機関の口座チェックもかなり楽になりました。そう考えると、所得税の補完としての相続税は役割を終えた感があります。にもかかわらず、いまだに高率の相続税を納めなければならないのは非常識である、と訴える人がいても不思議ではないでしょう。

ところが、財務省にとっては税金が一円でも多いほうがよく、政治家のなかには不動産を政治資金団体の持ち物にして相続税を払わない議員がいます(政治資金には原則、相続税や贈与税が課されない)。相続税ゼロの提案をしても、自分たちが困っていないので、なかなか話が通じないところがあります。

プロフィール

髙橋洋一(たかはし・よういち)

株式会社政策工房会長、嘉悦大学教授

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。80年、大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008年に『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞を受賞。他の著書に、『お金のニュースは噓ばかり』(PHP新書)などがある。

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