2026年09月16日 公開

海外で問われるのは専門性だけではない。顧客価値、利益、
※本稿は、グロービス、高橋亨 著『海外で結果を出す人は、「異文化」を言い訳にしない』(英治出版)の内容を一部抜粋・編集したものです。
事業全体を捉える力も重要なスキルだ。
そもそも、海外で事業を推進し、新規のビジネスを作るには、事業全体のバリューチェーンを理解し、どのように顧客価値を創り上げていくかを把握することが求められる。
たとえば、その国の市場特性に合わせて「製品の供給体制を検討し、実現させる」「販売サービス網を整備する」「新たな部品の購入先を開拓して、ロジスティクスに落とし込む」といったように、押さえるべき業務の幅が広い。
また、マーケットを開拓するために、現地のパートナー企業との協業を検討する際には、双方がどのような仕組みで、どのように価値を提供しているか、構造的に理解しておきたい。
それ以外にも、「お互いの強みや弱みは、どこにあるのか」「その強みは、どのような仕組みによって発揮されているのか」「逆に、弱みとその原因は、どこか」といったことを説明する必要がある。
これらのことをきちんと押さえておかないと、肝心なところで詰めの甘さが出て、のちに大きな問題に発展することもある。結果、顧客からクレームが出たり、無駄な業務が頻繁に起こってコストが余計にかかったりする。
特に、日本の本社で長く仕事をしていた人は、事業全体に関わる機会が少ない場合が多い。営業なら営業、製造なら製造、開発なら開発と、細分化された一機能のなかに業務が閉じており、その一機能のなかでも、さらに細かく業務が分けられていることもよくある。
すると、部門横断で全体を見ながら最適なプロセスを組むといったような業務はあまり経験できないので、海外に出て、いきなり事業の全体を統括する任務に就くと苦労することになる。
私が企業研修で一番苦労するのも、事業全体を捉える力を参加者に身に付けてもらうことだ。なぜなら、ひとくちに「事業全体を捉える力」といっても、一部門のトップの目線をも越えて、各事業が会社にどう関わり、全体をどのような仕組みで動かしていくのかを捉える力、まさに「CEO目線」が求められるからだ。
では、CEO目線になるには、まず何が必要かについて述べたい。端的に言うと「ビジネスモデル」、つまり自分たちが始めようとしている事業がどのような仕組みで行われ、どのような価値を提供するのかを理解するということだ。
ところが厄介なのは、「ビジネスモデル」という定義が人それぞれで違うことだ。そもそも、トップと現場で定義が違っていたり、双方とも曖昧なままで話していたりすることが本当に多い。
そこで、共通の定義を持つために、単純で分かりやすいビジネスモデルのフレームワークを紹介しておく。ビジネスモデルは、一般に以下の4つの要素で成り立っている。
1.CVP(Customer Value Proposition)...ターゲット顧客のニーズに対して提供する価値は何か
2.利益モデル...どのような仕組みで収益をあげるのか
3.プロセス...提供価値を実現するためのプロセス(バリューチェーン)
4.必要な経営資源...仕組み全体を支えるために必要な「ヒト・モノ・カネ・知恵」などの資源
ビジネスモデルを語るには、この4つの要素を明確に説明できること、また、それぞれの要素が互いにどう関連しているのか、という整合性を説明できることが鍵となる。
ビジネスモデルを研修で扱うときに、参加者が共通してつまずきやすい点がいくつかある。
まず、CVP(顧客への価値)の定義が、なかなかうまくいかない。そもそも、ターゲット顧客をきちんと定義できていないことが多い。ターゲット顧客の定義が曖昧だと、顧客ニーズや提供価値の定義にも精度を欠いてしまう。
次に、利益モデルをうまく構築できない。なぜかと言うと、有効な利益モデルを見出すには、稼ぎ方のパターンを幅広く知っておく必要があるからだ。実際、自社の業界以外にも目を向ければ、他の業界や異なる業態の利益モデルからヒントを得られることが多い。
このように、CVPや利益モデルがきちんと定義され、確立されないと、それらを実現するための要素である、業務プロセスの構築や経営資源の投入についての検討に具体性を欠いてしまう。結果、全体としてキレのない、緩いビジネスモデルになってしまうのだ。

では、実務的にビジネスモデルへの理解を深めるには、どうすればいいのか。ビジネスモデルは、まさに事業の全体像となるため、押さえなければならないことは多岐にわたる。
日常の業務では関わらない部分も多々あるため、計画的に学んでいく必要がある。私は、基本的には以下の4つのステップを実践していくと、次第にビジネスモデルで思考し、理解できるようになると考えている。
まずは、先ほど示した4要素のフレームワークを使って、自分が携わっている事業を分析してみよう。そうすれば、自分がどれくらい理解しているかが分かるだろう。
いざ書き出してみると、意外と書けないものがあることに気づく。分からないものがあるのは仕方がないので、いったん全体像を描いてみる。
そのうえで、自分がふだんから携わっているのは、全体のなかのどの部分なのかを考えてみよう。全体感を持って見ると、仕事の意味づけも変わってくるかもしれない。
ステップ1の分析で、分からなかった部分を調べる。たとえば、次のようなことだ。
・自分たちがやっているビジネスの提供価値は、具体的に定義されているか?
・収益は、どのような形であげているか?
・業務プロセス、バリューチェーンは、どう組まれているか?
・大事な経営資源は何か?
こうしたことを、1つひとつ綿密に調べていく。必要に応じて、社内の他部署の人に聞いて情報を得よう。調べた結果をもとに再度分析して、ビジネスモデルを完成させる。
ステップ1とステップ2を通して、「実際の業務」をもとに、自分で分析を繰り返していく。そうすることで、これまでイメージできなかった「ビジネスモデルの概念」への理解を深めていくことができる。
また、この作業を自分だけで終えるのではなく、分析した結果を社内の他のメンバーと共有して、共通認識を育むことも大切だ。あるいは、組織のメンバーとともに、1〜2のステップを経験してもいいだろう。
そもそも、ビジネスモデルにはどんな種類があるのかを知識として学んでおくと、自社だけでなく、他の業界に対する理解や、新規事業の開発にも役に立つ。ビジネスモデルに関する書籍やケーススタディは多数あるので、ぜひ目を通しておいてほしい。
たとえば、客先を訪問したときも、ビジネスモデルのフレームワークを思い浮かべながら、いろいろな観点から話を聞いてみよう。いつもの雑談とは一味違う、踏み込んだ会話になるはずだ。
また、新聞やビジネス誌で企業事例を取り上げていれば、同じようにフレームワークを使って分析してみよう。もちろん、分からないところはそのつど調べながら、ビジネスモデルで思考し、理解する訓練を日頃から行うようにしておきたい。
更新:09月16日 00:05