
介護保険を申請しても、サービス開始前に亡くなる人がいるといいます。
※本稿は、『からだスマイル』2026年10月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※写真はイメージです。
40歳以上になると納める介護保険料。けれども、いざ介護が必要になったとき、誰もがすぐにサービスを利用できるとは限りません。
とくに問題なのが、病状が急速に変化する終末期のがん患者です。介護保険は、65歳以上なら原因を問わず、40〜64歳なら末期がんなどの特定疾病で要介護・要支援状態になった場合に利用できます。
しかし、実際は必要な時期にサービスが間に合わないケースが少なくありません。
国立がん研究センターが2018〜2019年度に実施した遺族調査では、死亡前6カ月間に介護保険を一度も利用しなかった人が2万807人いました。そのうち4849人(23.3%)は「申請したが利用できなかった」と回答し、さらにその約半数にあたる2413人は、要介護認定に必要な調査を受ける前に亡くなっていました。
首都圏最大規模の在宅医療チームを率いる佐々木淳医師は言います。「がんの患者さんは、比較的ぎりぎりまで歩けることもありますが、歩けなくなると平均1カ月ほどで亡くなることが多い。介護保険を申請してから認定を待つという通常の流れでは、間に合わない人がいるのです」。
現在の要介護認定は、もともと高齢者の介護を想定して作られた仕組みです。市区町村への申請後、認定調査員が心身の状態を確認し、主治医意見書とあわせてコンピューターで一次判定します。その後、保健・医療・福祉の専門家による介護認定審査会が二次判定し、要支援1・2、要介護1〜5、または非該当が決まります。結果の通知は原則30日以内ですが、自治体や書類の状況により2〜3カ月かかることもあります。
ところが、終末期のがん患者は、亡くなる直前まで歩けたり、トイレに行けたりすることもあり、認定時点では「まだ介護度が軽い」と判断されやすいのです。
しかし、がんでは数日後、数週間後に急激に状態が変わることがあります。食べられない、トイレに行けない、起き上がれない、こうなれば訪問介護や福祉用具、家族を支えるケアが欠かせません。それなのに、認定調査や主治医意見書、審査会などの手続きに時間がかかって、サービスを受ける前に最期を迎えてしまうことがあります。
厚生労働省も2024年5月31日、事務連絡「がん等の方に対する速やかな介護サービスの提供について」を出し、急速に病状が変化する人には、要介護認定の手続きと介護サービス開始に特段の配慮が必要だと示しました。暫定ケアプランの活用、同日中の認定調査、介護認定審査会の柔軟な運用など、現行制度内でできる対応はあります。それでも佐々木医師は、自治体ごとの工夫に任せるだけでは不十分だと考えています。
必要なのは、病状の急変を前提にした「即時利用」の仕組みです。主治医が「急速な悪化が見込まれる」と判断した時点で、一定期間は要介護3や4相当のサービスをすぐに利用できるようにする。後から認定結果が軽く出た場合に、患者や家族、介護事業所が差額を負担する不安を残さない、公的な保障が必要だというのです。
もうひとつの課題は年齢です。介護保険を利用できるのは原則65歳以上で、40〜64歳は末期がんなどの特定疾病に限られます。つまり、同じように重い介護が必要でも、40歳未満のがん患者は介護保険の対象外です。佐々木医師は、年齢だけで線を引くのではなく、医学的に重い介護が必要と判断される人には特例的に支援を届ける仕組みも必要だと話します。
「適正な予算執行はもちろん大切です。でも、その手続きに時間をかけた結果、必要な介護が届かないまま亡くなる人がいるなら、本末転倒です。終末期のがん患者さんには、主治医の判断で即日サービスを使える緊急支援の仕組みが必要です。地域によって差が出ないように、国が全国共通のルールとして示すべきだと思います」(佐々木医師)
制度を変えるには、この問題を多くの人が知り、自分や家族にも起こりうることとして関心を持つことが大切です。介護保険は、「最期の暮らし」を支える制度でもあります。必要な人に、必要なときに、必要な支援が届く仕組みへ。終末期のがん患者を取り残さない制度づくりが、いま問われています。
◎監修:佐々木淳医師(医療法人社団悠翔会理事長)
更新:09月10日 00:05