「親を施設に入れたら面会に行き過ぎるのは禁物」...それは何故なのか? 『THE21』2024年10月号では、NPO法人となりのかいごの代表を務める川内潤氏と、認知症になった祖母の介護に母親とともに取り組んだ漫画家のニコ・ニコルソン氏に"施設入所の際に気を付けるべきポイント"について話し合ってもらった。(取材・構成:林加愛)
※本稿は、『THE21』2024年10月号特集「50代で必ずやっておくべきこと」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
【ニコ】施設に入るまでは大変でした。私が「もう限界だから、そろそろ......」と言っても母が強硬に反対を。
【川内】何がきっかけで考えを変えられましたか?
【ニコ】叔母の夫と、ケアマネさんの説得です。私や叔母より、少し遠い関係の人に言っていただいたのが良かったのかと。
【川内】そうですね。距離のある第三者、特に専門職が説得するのはとても有効です。
【ニコ】川内さんは、こうした場面ではどんなふうに説得されるのですか?
【川内】まずひたすら話を聞きます。「私は疲れてなんかいません!」「こんなことやこんなこともあるけど、平気です」と、全然平気じゃないことをおっしゃるのをじっくり聞き、おもむろに、「『疲れていない』と感じることが危ないんですよ」と。
【ニコ】感覚が麻痺している、ということですか?
【川内】そうです。介護をする人は得てして「疲れた、つらい」と感じる機能をオフにします。そうしてギリギリまで頑張り、突然倒れます。「遠からずあなたもそうなります」と言うと、心動いてくれる方が多いですね。あとは「私が関わる年間700件のうち、あなたの大変さは5本の指に入ります」も説得力ありです。
【ニコ】なるほど! 介護はクローズな状況で行なうから、人と比べる機会がないですものね。
【川内】そして、「それこそがご本人にとって良いこと」だと伝えます。逆に言えば、あなたの頑張りはご本人のためにならない、ということですね。
【ニコ】その後、施設選びでも非常に苦労したのですが、川内さんから見た選び方の極意もお聞きしたいです。
【川内】一番大事なのは、「良い施設を選ぶ余裕を持つ」こと。限界を迎えてから選び始めると、選択肢が狭まって「とにかく入れるところへ」となりがちです。
【ニコ】私たちも、被災地とあって施設の数が少なく、すぐに入れたサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に入居しました。清潔で快適そうな施設でしたが、サ高住は認知症の高齢者には向いていない、とあとで知りました。一人部屋だったので目が行き届かず、転倒でケガをしてしまって。その後、特養(特別養護老人ホーム)に入り直し、こちらは合っているようです。
【川内】ひと安心ですね。ともあれ施設選びは、介護認定を受けたタイミングで早々に情報収集を始めるのが一番です。並行してヘルパーやショートステイを大いに利用し、プロの介護を「受け慣れて」もらうのも大事。施設に入るときのご本人の抵抗感が和らぎます。
【ニコ】抵抗感、示してました。施設に移ったあとも半年ほどは「帰りたい」と訴えて。面会から帰ろうとすると「なんで置いていくの?」と言うんです。「ごめんね、ごめんね」と泣きながら帰りました。
【川内】つらいですね......。でもそういうときは面会に行かないほうがいいんです。ご家族が悲しみのトリガーを引いて、ご本人はむしろ不穏な気持ちになるからです。
【ニコ】確かにそんな感じでした。私たち、面会に通うことで罪悪感を解消していたようなところがあって。
【川内】うんうん。ご家族の罪悪感、喪失感も強いですよね。そのダメージから回復するためにも、あえて面会の頻度や滞在時間を抑えめにするのが正解です。
【ニコ】そうだったのですね。母も3~4年くらい「やっぱり在宅に戻したほうが」と言っていましたが、今は「回復」できたのか、自分の時間を楽しそうに過ごしています。
【川内】それは良かった! 本当に苦労されましたからね。
【ニコ】私には、「あなたに下の世話はされたくないから、施設に入れてね」と。祖母のときは在宅にこだわったのに(笑)。
【川内】「在宅介護は美徳」のマインドが、お母さまの代で解除されましたね。
【ニコ】もちろん私にも、まだ「頭でわかっていても......」という部分は残っていて、人の心はとても複雑ですね。でも川内さんのような方が現場にいて、強く発信してくださるのは希望です! 今日は本当に、ありがとうございました。
更新:11月21日 00:05