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真面目な社員は“裏で手抜き”して復讐する? ダラダラ残業を招く「職場の不公平感」

2026年08月28日 公開

太田肇(同志社大学名誉教授)

ダラダラ残業

組織の中で、自分の利益を優先し、陰で要領よく立ち回る...。こうした振る舞いは「機会主義的行動」と呼ばれます。社員をこうした行動に駆り立てる背景には、能力が高いがゆえに負担の大きい部署へ回される「能力の罰」や、真面目な人ほど仕事を押し付けられるという「不公平感」があります。

なぜ、組織を支えるはずの優秀で真面目な社員ほど、陰で"反乱"を起こすようになるのか。太田肇氏の著書『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか』から解説します。

※本稿は、太田肇著『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか』(日本経済新聞出版)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

厄介な仕事が特定の「いい人」に集中し続ける構造

社員が機会主義的な行動に走る根源に、無視できない強力な源泉がある。それが「不公平感」だ。

あなたの周りを見渡してみてほしい。

同期の中で、いつも要領よく立ち回り、大した成果もあげていないのに上司の覚えがめでたい人物はいないだろうか。

一方で、誰もが嫌がる雑務や、目立たないが重要な基盤の仕事を黙々と引き受けているのに、「もっと成果をあげろ」と現場で叱咤激励されている「いい人」がいるはずだ。

職務内容が契約で厳格に定義される欧米企業と異なり、日本企業では個人の業務分担が極めて曖昧である。その結果、「あいつは文句を言わずにやってくれるから」という理不尽な理由で、厄介な仕事が特定の「いい人」に集中し続ける構造が出来上がる。

これが、現代の若手社員のやる気を奪っている「頑張り損」の正体である。

いくら心根が優しい「いい人」であっても、際限なく損な役回りを押し付けられれば、やがて限界がくる。しかし、「和」を尊ぶ日本的な風土の中では、「私の給料を上げるか、仕事を減らしてください」と直接的な交渉を挑むことは心理的なハードルが高すぎる。

そこで多くの社員が、静かな、しかし確実な復讐として選ぶのが、不満を胸に秘めたまま、裏側で功利的に振る舞うという戦術なのだ。

 

縁の下の力持ち社員が、他人のフォローを拒絶する瞬間

こうした行動を論理的に説明するのが、社会心理学の「公平理論」である。

「公平」とは「平等」とは異なる概念だ。理論的には、自分の努力、貢献などの「インプット」に対する報酬、すなわち「アウトプット」の比率が、他者と比較して等しい状態を指す。例えば、自分の報酬が周囲の半分であっても、自分の貢献が半分であれば、それは「公平」だと認識される。逆に、全員が同じ給料をもらっていても、働きに倍の差があれば、それは「不公平」なのだ。

人は自分が「不公平な状態にある」と知覚したとき、強い不快感を抱き、それを解消するための行動をとる。その解消法としてインプットを減らすか、アウトプットを増やすことで、天秤を釣り合わせようとするのである。

例を挙げよう。同じ年齢、同じ職場のCさんとDさん。営業成績の差を理由に、Cさんの賞与はDさんより少なかった。しかし実態は、Dさんが高い数字を出せたのはCさんが見えないところで献身的にサポートし、顧客のフォローを行っていたからだった。

この状況で「自分は損をした」と痛感したCさんは、以後、他人のサポートを拒絶し、自分の数字を稼ぐことにのみ専念するようになるだろう。組織としてのトータルの成果が下がったとしても、Cさんにとってはそれが「公平」の回復なのである。

 

ダラダラ残業や「粗製濫造」は不公平感解消の手段

さらに深刻なのは、理不尽な配属によって「能力の罰」を受け、希望の企画部に配属されずに営業部で働くことになったAさんのようなケースだ。上司から「次の異動では必ず希望を叶えるから、今はがまんしてくれ」と甘い言葉をかけられるかもしれないが、人事異動が不透明な共同体において、口約束ほど当てにならないものはない。

腹の虫が治まらないAさんは、営業の現場で「適当にサボる」ことでバランスを取ろうという考えが頭をもたげる。しかし、もし給与体系が歩合制であれば、サボって成績が落ちれば給与も下がり、結局「不公平感」は解消されないというジレンマに陥る。

この閉塞感から逃れるために、人はどのような行動をとるのか。

公平理論の主唱者であるJ・S・アダムスは、給与制度によって解消の仕方が異なると述べている(J.S.Adams, "Inequity in Social Exchange," Advances in Experimental Social Psychology, 2, 1965)。

時間給の場合、人は「仕事の成果や質を落として労働時間を増やす」か、あるいは「労働時間は変えずに仕事の成果や質を落とす」行動をとる。いわゆる「ダラダラ残業」や、会議中に内職をして過ごすといった時間の無駄遣いだ。

一方、出来高給の場合には、「アウトプットの量を増やして質を落とす」という選択がなされる。いわゆる「粗製濫造」である。もしCさんが「自分の正当な報酬の半分しか得られていない」と感じれば、理論上は「件数だけを稼ぎ、アフターフォローを一切放棄する」といった、見えないところでの無責任な営業に走る動機が生まれる。

これが「見えない手抜き」となり、やがて企業の信頼を根底から揺るがすリスクを孕むのである。

会社側がこうした社員の「静かなる反乱」を放置すれば、単に業績が下がるだけでなく、安全管理が求められる現場では、見えない手抜きが甚大な事故を引き起こしかねない。また、不満を溜め込んだ有能な若手が静かに去っていくだけでなく、昨今ではSNSや口コミサイトで会社の悪評を拡散されるという、深刻なブランド毀損のリスクも抱えることになる。

そこでマネジメントに求められるのは、社員に「自分は損をしている」と感じさせないための、細やかな「埋め合わせ」である。

縁の下の力持ちとして活躍する社員に対しては、例えばボーナスの査定で報いることが制度的に難しいのであれば、せめて会議の場でその貢献を公に称賛し、精神的な報酬を与えるだけでも、不公平感を多少は薄めることができる。

 

プロフィール

太田肇(おおた・はじめ)

同志社大学名誉教授

神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学博士(経済学)。三重大学人文学部助教授、滋賀大学経済学部教授を経て、2004年に同志社大学政策学部教授。専門は組織論、組織社会学。『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』『「承認欲求」の呪縛』『何もしないほうが得な日本』『同調圧力の正体』など著書多数。愛猫家である。

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