THE21 » キャリア » 若手の意見なら「陳腐でも絶賛」 大昔から続く“ベテランの悩みの種” 【禁断の会社用語辞典】

若手の意見なら「陳腐でも絶賛」 大昔から続く“ベテランの悩みの種” 【禁断の会社用語辞典】

2026年07月28日 公開

岡本努(株式会社人的資本イノベーション研究所代表取締役)

イラスト・川崎タカオ
イラスト・川崎タカオ

「心理的安全性」「傾聴」「オーナーシップ」......。

日本企業で働く人なら誰もが耳にし、どこか引っかかりを覚える言葉の数々。

本稿では、25年以上にわたり組織・人事の裏側を見てきたコンサルタント・岡本努氏が、みんなが薄々気づきつつもモヤモヤしている「会社の現実」をユーモアたっぷりに言語化。綺麗事だらけの建前を剥ぎ取り、理不尽だけどなぜかまかり通る日本企業特有のリアルな構造を解説します。

※本稿は、岡本努著『禁断の会社用語辞典 組織・人事コンサルタントが教える企業の現実』(日経BP)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

【 心理的安全性 】

■本来の意味

・組織やチームにおいて自分の意見(特に疑問・反対など何らかのマイナスのこと)を、周囲の反応や自身の不利益を気にすることなく、表現できる状態

■現実

・特に日本企業の重要な会議においては存在しないもの
・雑談や飲み会をすれば自然と醸成できると思われている
・「みんな、仲良し」と勘違いされ、間違いの指摘や批判ができない雰囲気に......
・「何でも言ってね」と言われたので、正直に口にすると、みるみる不機嫌になる
・「どう? なんかある? いつでも言ってね!」と言えばいいと思っている

<解説>

心理的安全性の確保はとても難しい。勤続年数が短い人や部下が何にストレスや恐怖を感じるのか、先輩や上司の立場になると、なぜか忘れてしまうからだ。

多くの人は「自分はどのような意見も受け止め、サポートしている」と思い込んでいる。しかし、後輩や部下は想像するよりずっと繊細である。

心理的安全性は、雰囲気や空気といったものでは実現できない。会議であれば進め方、日常の報連相であれば耳の傾け方、日常の指示であれば具体的な話し方、それら一つひとつの状況において、心理的安全性が確保されるための工夫を設計して組み込む必要がある。「何でも言ってね」と口だけで言っても意味がないのである。

 

【 若手の主張・意見 】

■本来の意味

・斬新で、古いものに縛られず、新しいものを生み出す、貴重な発想
・シンプルゆえに、本質的で核心をついているものも多い

■現実

・大昔から、ベテランの悩みの種
・陳腐で稚拙でも、「やっぱり若手の意見はいいよね」と言わないといけない空気
・主張・意見の質に着目せず、年齢だけで良し悪しを判断してしまう

※誰が悪いわけではないけれど、「最近増えている」とよく聞く若手のセリフ

「定時なんで帰っていいですか?」
「それは、わたしの仕事じゃないです」
「仕方ないですよね、初めてやるんで」
「具合が悪くてできません」
「なんでこんなに評価が低いんですか?」
「わたしの賞与が低いのはおかしいと思います」
「あの人ばっかりずるい」
「自分も異動したい」
「やめます。やっぱりやります」
「今日は休みます」
「男性優遇ですよね?」
「女性ばっかりずるくないですか?」
「在宅でいいですか?」
「オンラインは画面オフにします」
「わかるように教えてください」
「それはやる意味ありますか?」
「コミュニケーションが少ないと思います」
「部門間のコミュニケーションが足りません」
「研修してほしいです」
「なんで昇格するのか/できないのかわかりません」
「他社のほうが給料が高いです」

・なぜこのような発言をしているのか(してしまうのか)、その背景・事情・心理状態に考えを巡らせないまま、切り捨ててしまっている(あるいは、恐れてしまっている)現実

 

【 傾聴 】

■本来の意味

・相手の話を共感的に聴き、理解に努める姿勢
・適切な信頼関係を築くために、理解内容を丁寧に確認し、質問し、共感を示すことで、相手の本音を引き出すことが重要

■現実

・黙って聴けばいいと誤解する上司と、「この人、ほんとに聴いてるのかな?」と不信を覚える部下
・適切な質問を望む部下と、「なんでも聞くよ、どんどん話して!」でいいと誤解する上司
・我慢できずに主張・意見・アドバイスする上司ばかり(例「「それはさー、だからさー、そうじゃなくてさー、この前も言ったと思うけどー」)
・傾聴と「取り調べ」の違いがわからない(例「何が? いつ? どこで? 何を? なぜ? どのように? 目的は?」)
・パソコンで仕事をしながら聴く上司(例:「えっ、いま何て言ったんだっけ?」)
・突然、切り上げる上司(例:「あっ、ごめん、もう時間だ。また、別の機会に」)

 

【 オーナーシップ 】

■本来の意味

・任されたあらゆる仕事に対し、「自分が最終責任者だ」と捉え、完遂までやり切ろうとする姿勢や行動

■現実

・ないときに使われ、あるときに使われない言葉
・マネジメント能力のない上司が、部下のせいにするときに使う言葉
・「オーナーシップ=気合い」と思っているマネジャーもいる

<解説>

「オーナーシップがない」「オーナーシップを持て!」という発言があったら、その内容を注意深く聞きたい。単なる号令や精神論になっていないか。目的・成果・権限・リソース・制約条件・達成基準などが曖昧な「オーナーシップを持て!」は仕事の丸投げ、管理職の責任逃れ・マネジメント放棄である。

 

プロフィール

岡本努(おかもと・つとむ)

株式会社人的資本イノベーション研究所代表取締役

1999年トーマツコンサルティング株式会社(現合同会社デロイト トーマツ)入社。人的資本経営、人事中計、人事制度をはじめ組織人事全般に関わるコンサルティングを一貫して手掛ける。同社執行役員パートナー、Human Capital部門共同責任者等を経て、2024年4月、人的資本イノベーション研究所を設立、現職。主な著書に『要員・人件費の戦略的マネジメント』『「人的資本経営」ストラテジー』(共著、労務行政)、『HOW経営からWOW経営へ』(共著、日経BP)などがある。
同志社大学経済学部卒業、神戸大学大学院経済学修士。

THE21の詳細情報

関連記事

編集部のおすすめ

英文理解には「1万語の暗記」が必要? 言語学者が明かす英語学習の“科学的根拠”

内田諭(九州大学大学院言語文化研究院准教授)

日本の職場で最強なのは「平社員」 部下からも文句を言われ続ける管理職の苦悩

橘玲(作家)

ひろゆき「50代で伸びるのは、仕事に思い入れのない人です」

西村博之(実業家)

日本企業で「必要以上に働かない社員」を増殖させた、働き方改革の落とし穴

坂井風太([株]Momentor代表)