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ペペロンチーノの美味しさの正体とは? 佐々木俊尚がひたすら語る

佐々木俊尚(文筆家・ジャーナリスト)

「名もなき料理」

「日本人は、うま味がないと満足できない」。そんな味覚の特徴が、ペペロンチーノをめぐる論争から浮かび上がった。日本人ならではの「美味しさ」の正体を、佐々木俊尚氏が探る。

※本稿は、佐々木俊尚 著『人生を救う 名もなき料理』(ダイヤモンド社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

ペペロンチーノの美味しさの正体とは?

うま味をやたらと好むのは日本だけなのだろうか。

東南アジアや中国の人たちは、日本人と同じようにうま味を好む。味の素が世界進出したときに、真っ先にこの調味料に飛びついたのはアジアだった。若いころに東南アジアを旅していて、あらゆる料理に真っ白になるぐらい味の素を振りかけている食堂はよく目にした。

しかしヨーロッパやアメリカでうま味が認められるようになったのは、実は1990年代以降と最近のことである。それまでは「うま味?本当にそんな味覚があるのか?」と欧米のシェフも料理研究者も疑わしく思っていた。

うま味だけを舌で舐めても、塩味や甘味のような味を感じないことから、うま味調味料は「風味増強剤」という扱いだったのだ。しかし90年代になって学会などで相次いでうま味が認められるようになり、2000年には舌の感覚細胞にうま味を感じる受容体が発見された。

「うま味って本当にあったのか!」とようやく迎え入れられ、それから一気に普及するようになった。今では高級フレンチでも昆布やかつお節のだしを使うことは珍しくなくなっている。

とはいえ、欧米の一般の人にまでうま味が広がっているかというと、さほどではないとわたしは感じている。向こうの人が好むのはやはり脂の美味しさなのだ。

これはヨーロッパとアジアの農業文化の違いが背景にある。ヨーロッパは昔から牧畜が盛んだった歴史があり、脂をとても好む。一方アジアは農耕が中心だったので、動物性の脂は不足気味だった。それを補って美味しさを追求するために、うま味の満足感を見いだしていったと言われている。

2025年秋に、人気料理研究家リュウジさんをめぐるペペロンチーノの議論がネットで盛り上がったことがあった。ペペロンチーノは、ニンニクとタカノツメ、オリーブ油だけを使ったシンプルの極みみたいなパスタ。これをどううまく食べるか、という議論だった。

リュウジさんが自身のYouTubeチャンネルで紹介したレシピは、ニンニクとタカノツメをオリーブ油で炒め、そこにゆで汁と塩に加えてハイミーで味をつけるというものだった。

ハイミーは正式名称を「うま味だし・ハイミー」といい、味の素よりもさらにうま味が強い。味の素がグルタミン酸だけから作られているのに対し、ハイミーはかつお節のイノシン酸とシイタケのグアニル酸も追加されているからだ。

味の素の公式サイトには「うま味は、かけ合わせることで相乗効果が期待できるので、『味の素』に比べて『ハイミー』は、うま味とコクが強いのが特徴です」「少量でしっかり『うま味』をきかせることができるので、汁物や煮物のだしとして、また、中華などのこってりとした料理などにもおすすめです」と説明されている。

リュウジさんのこのレシピを見たイタリア人が、「イタリアでは素材の味を大切にする。味の素を使ったらまったくペペロンチーノではなくなる」と反発したという話がXで紹介され、「本当にうまいペペロンチーノなんてものはない。ニンニクとタカノツメだけで美味くなるわけないだろう」という意見や、「違うよ、ゆでるときの塩が足りないだけなんだよ。ニンニクそんなにいらないし、本来味の素なんかいらないんだよ」などの反発も出た。

リュウジさん本人からの「僕の勤めてたイタリアンは化学調味料たっぷりの昆布茶バサバサ入れてた。五右衛門もサイゼ(リヤ)もカプリチョーザもペペロンチーノは旨味が入ってる」というリプライもあった。

 

「うま味」なしでも美味しく作る方法

この議論を横から見ていて、わたしが納得したのは次のような意見だ。

「日本は『うまみ』を発見した、だし文化の国だから、日本人の舌にはうまみ成分が多くないと、美味しく感じないのだと思う」

「コンソメとか昆布茶とか魚醤のうま味成分をペペロンチーノに入れているお店は多いし、手っ取り早く美味しくなるから否定できない。ただ、その場合はうま味だけが浮いてしまうことが多い」

ペペロンチーノはシンプルに油の美味しさだけを追求した料理で、イタリア人はそこにうま味が必要だとは考えていない。しかし日本人はうま味がない油だけの美味しさだと、もの足りなく感じてしまうのだ。

ペペロンチーノで、うま味なしに油だけのうまさを存分に引き出すにはどうすればいいだろうか。

わたしもチャレンジしてみた。まずたっぷりのオリーブ油をフライパンに垂らし、細かく刻んだニンニクに火を通す。タカノツメを刻んでおくが、この段階で入れない。焦げやすいからだ。ニンニクのいい香りがしてきたら、このオリーブ油の半量を耐熱カップなどに移しておく。少し温度が落ち着いたら、ここに刻んだタカノツメを入れる。焦げないように余熱でタカノツメに火を通すのだ。

残りの油はフライパンに入ったまま、水をたっぷりと足す。沸騰したらパスタを投入する。フライパンひとつだけで作る「ワンパン」というやり方だ。パスタを別ゆでにしなかったのは、パスタのゆで汁から出るデンプンをオリーブ油と混ぜることによって、乳化させたいからだ。乳化すると油はどろっとした感じになり、コクが出て、美味しさが際立ってくれる。なお塩も適量投入し、煮詰めていく。

ゆで時間と水分量を見定めながら、ゆですぎないように煮詰め、最後にカップによけていたオリーブ油を戻して和えれば完成。火を通しすぎていないので、ニンニクとタカノツメと油が入り混じった香りがとても良い。できあがりを口に運んでみると、とろりと乳化した油の香りが鼻をくすぐり、ねっとりとなったパスタが最高のコクになっていて美味しい。

うま味がなくてもまったく問題なしだ。それでももの足りなければ、パルミジャーノチーズをちょいとかける。チーズには少量のうま味が含まれているので、これでじゅうぶんにうま味を感じられる味になる。

このように、うま味ばかりを追求しなくても美味しい料理を作ることはできる。ただうま味の虜にされていると、「うま味は少ないが美味しい」という味わいを実感しにくくなってしまう。

やはりうま味とは適度な距離を取りつつ楽しんだほうが良いのだ。そうすれば食べすぎもなく、塩分の過剰摂取にもならず、健康な身体を保つことができる。

プロフィール

佐々木俊尚(ささき・としなお)

文筆家・ジャーナリスト

1961年生まれ。兵庫県出身。〔株〕毎日新聞社などを経て、2003年に独立し、テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルに至るまで幅広く取材・執筆している。『フラット登山 日本を歩く旅60』(かんき出版)、『この国を蝕む「神話」解体』(徳間書店)など、著書多数。電通総研フェロー。

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