
組織における「ナンバー2」という言葉に、どのような人物を思い浮かべるだろうか。トップの補佐役、裏方、黒子的存在といったイメージを持つことも少なくない。自分が直接的な成果を出すのではなく、誰かの働きを支えることに価値を見出す「裏方」としての生き方と組織戦略を、社会福祉法人みなみ福祉会副理事長の荒井宏行さんに解説してもらった。
※本稿は、荒井宏行 著『No.2の戦略 トップを活かし、現場をつなぐ「水を運ぶ人」の仕事』(扶桑社)を一部抜粋・編集したものです。
「水を運ぶ人」という言葉は、元サッカー日本代表監督のイビチャ・オシム氏が残した表現に由来します。サッカーの世界では華やかなゴールや巧みなプレーに注目が集まりがちですが、チームの陰には、走り続け、ボールを奪い、パスをつなぎ、仲間を支える地道な役割を果たす選手がいます。
これは組織運営のあり方にもまったく同じことが言えます。表に立つ人の姿が注目される一方で、その周囲には必ず流れを整え、摩擦を和らげ、日々の営みを支えている人がいます。
目立たない努力や働きがあるからこそ、全体が前に進むことができるのであり、ナンバー2という立場は、まさにこの陰で支える力を象徴するポジションなのです。
この役割を全うするために必要な資質は、決して特別な才能ではありません。日々の仕事のなかで少しずつ磨くことができる、4つの力を意識することが重要です。
まず1つ目は、トップの抽象的・直感的な発言やビジョンを、現場の言葉に変えて誤解なく共有する「翻訳力」です。
2つ目は、得手不得手を支え合い、トップの欠けている部分を実務面で自然に補う「補完力」です。
3つ目は、理念と現場の間に立ち、制度変更などに不安を抱く現場に対し、相手の立場に立って伝える「共感力」です。
そして4つ目は、現場の声を受け止める感度を持ち、感情や空気のずれを微調整しながら方針を進める「柔軟力」です。
これら4つの力が、組織の安定を強固に支える土台となります。
現代の組織は、制度の変更や社会環境の変化など、昨日まであたりまえだったことが突然なくなるような不確実性に直面しています。
このような激しい変化の時代にあって、唯一変わらないのが組織の「理念」です。制度や仕組みが変わっても、理念は未来を進むための「羅針盤」であり、組織がバラバラに散らばらないための「重力」として機能します。
世界的な巨大企業・GAFAの事例を見ても、製品開発に集中するスティーブ・ジョブズの傍らには、サプライチェーンの魔術師と呼ばれ、クリエイティブな構想を現実的なスケジュールや品質管理に落とし込んだティム・クックという卓越したナンバー2がいました。理念を描く者と実現に導く者が両輪となって進む構造は、どのような規模の組織であっても変わらない普遍的なものです。
キャリアを重ねたマネジメント層におけるナンバー2の役割は、自らその理念を実務に落とし込んで運用する段階から、次の世代へ継承することへとシフトしていきます。
トップが現場の実務をすべて握り、園の鍵ひとつ人に預けられないような状態では、中長期的な課題に十分な時間を割くことができません。役割と責任を整理し、権限を現場に委譲する組織体制を導入することで、組織の中に自律と再現性が生まれます。
トップが現場のすべてを握る実務から離れ、理念を灯して方向性を示す象徴的な役割に専念できるよう、裏方として「次の水を運ぶ人」が育つ環境を整えること。それこそが、未来に向けた組織運営の本質となります。
自分の立場や役割に迷いながら働いている人であっても、組織をなめらかに動かす自分の役割には意味があると肯定し、支える力の可能性を信じることが、チームとしての一体感を生む原動力となるのです。
更新:07月26日 00:05