2014年01月09日 公開
2023年05月16日 更新
《『THE21』2014年1月号より/写真撮影:まるやゆういち》
社是に「爆速」という言葉を掲げ、社内全体のスピード化を図っている会社がある。それがヤフー〔株〕だ。2013年3月期には16期連続の増収増益を達成。最近も「出店料無料化」で世間をあっと言わせたことは記憶に新しい。しかし、約1年半前に現体制がスタートした際には、「仕事のスピードを高めなければ」と思いながらも、なかなか実行できない会社だったという。副社長として『爆速』をまさに体現してきた川邊健太郎氏はこう言う。
「ある意味、中年男性のダイエットと同じなんです(笑)。社員自身も『自分たちの仕事のスピードを高めなければ』という問題意識は持っている。でも、なかなか改善できなかった。
もともとこの爆速という言葉は、私と社長の宮坂(学氏)との会話の中で、あるソーシャルゲーム会社が日次で事業サイクルを回していくスピード感に感銘を受けて生まれた言葉ですが、そのくらいの意識を持たねばならないと考えたのです」
「わかっているけれど先送りしてしまう」――まさに多くの読者が悩んでいることだ。どこから改善すればいいのだろうか。
「まずは、繰り返し言葉として言い続けることです。日本は『言霊』の国などと言われますが、口に出したことが実現するという老え方があります。意識を変えるためにはまず『口に出す』ことが先決です。そして、日本には漢字という強力な表意文字があるのですから、使わない手はありません。『スピード』という横文字より、『爆速』のほうが強く伝わりますよね。
そして、この言葉を繰り返すのはもちろん、Tシャツにプリントして経営陣が率先して着る、社内のあちこちにポスターを貼るなど、徹底的に伝えるようにしました。もちろん、それだけでは不十分で、『なぜ爆速が大事なのか』の意味を説明する必要がありますし、社内でスピードが評価される仕組みを作る必要もある。たとえば『今週の爆速賞』というものを設けて表彰したりもしました。『今週の』というところがポイントで、4半期あるいは半年ごとの表彰では遅すぎると考えたのです」
スピードを高めるためには、ムダを省くこともまた重要になってくる。
「自分たちでもうすうす『ムダだ』と思っているのに、なかなか改善できないというものはあります。たとえば私は月1度、中途採用した社員たちと昼食を食べながら、ヤフーのいいところも悪いところもざっくばらんに話してもらうのですが、そこで多く出てきたのが『会議が多すぎる/長すぎる』『会議にコミットしない人が多い』ということ。そこで社内の人に聞いてみると、管理職含め多くの人が同じように考えていた。実に会議のうちの3割はムダであることがわかってきたのです。
そこで、会議とはアジェンダを提示し『決める場』だということを徹底し、単なる情報交換はメールで行なうようにしました。もっとも、言っただけですぐに改善されるとは思えなかったので、会議室を利用するのにチャージ(料金)がかかるようにすらしました。ここまでやれば、会議を減らさざるを得ませんよね。
どの会社にも同じように『みんなムダだと思っているのに、なんとなく続けていること』があると思います。特に新人や外部の視点からだと、それが見えてくるものです」
そういう意味でも、川邊氏は「社外の人との交流」の重要性を主張する。
「以前から、時間がある限り社外の人と交流する時問を作るようにしていました。1つは、人から直接聞いた『一次情報』に勝るものはないからです。
また、物事を決める際には、自分1人で考え込まずに議論をすることも大事です。それも、できれば自分と立場の違う人がいい。同じ会社の同じくらいの階層の人では、視点が同じになりやすいからです。社外の人との交流を持っておくことは、意思決定の速度を高める意味でも重要だと思います。
もっとも経営者になると軽々しく社外秘の情報を口にすることができません。そういった意味で『社外取締役』というのはよくできた仕組みだなと思います。また、ヤフーの取締役に孫正義さんがいるのも大きく、しかも孫さんはあれだけ有名な経営者ですが、近寄りがたい存在というより、『先輩』という感じで話すことができます」
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更新:11月23日 00:05