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最高級の食事で信頼低下!?グローバル接待で日本人が犯す「3つのミス」

今野有子 (株式会社アルムンド代表取締役/Philosophy Technologies inc. Co-CEO)

グローバル接待で日本人が犯しがちなNG行動とは?

予約困難な高級フレンチ、高価なフルコースと極上のワイン......一見「うまくいっている」ように見えても、実は外国人ゲストの信頼を損ねている可能性があります。日本人が気を利かせたつもりでやっている振る舞いが、なぜ海外の人に不快感を与えるのか。世界中のワイン産地を巡り、多くのエグゼクティブと交流してきた今野有子氏が、日本人が犯しやすい「非常識な行動」を解き明かします。

※本稿は、今野有子著『エグゼクティブはなぜワインにはまるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋・編集したものです。

 

各国のゲストを招いた重要な接待の席で

恵比寿にある、予約困難な高級フレンチレストランの個室。
日本人の会社員2名がゲストの到着を今か今かと待っていた。

年配の男性は50代の執行役員。声がよく通り、場を仕切ることに慣れた雰囲気がある。
もう一人は彼の部下、40代前半で上司が「まだかな」と言う度に、「確認してまいります」と部屋を飛び出していく。
パートナー企業、投資家が集まる重要な夜。
大きな取引が始まる可能性がある。

時間を少し過ぎた頃、ようやく全員が集合した。インド、中国、フランス、イギリス、アメリカからはニューヨークとLAから集まった男女6人。ホストの日本人を加え、合計8名。

ホストである日本人役員は、自信に満ちていた。
「せっかく日本に来ていただいたのだ。日本の誇る最高の食材で、極上のおもてなしをしよう」
店で最も高価な全6品のフルコースを事前に手配してある。

キャビアを贅沢に添えた、北海道産帆立貝のタルタル。続いて、フォアグラのテリーヌ。口の中でとろける滑らかな舌触りと、深い旨みが静かに広がる。
オマール海老と蝦夷アワビのフリカッセ。甲殻類の旨みを凝縮した濃厚なクリームソースが、ゲストの目を楽しませるはずだ。
口直しのシャンパンのグラニテを挟み、メインは黒毛和牛シャトーブリアンのロースト。削りたての黒トリュフを惜しみなく添えた、これ以上ない至高の一皿だ。

ワインのラインナップも抜かりない。
きめ細やかな泡のシャンパーニュで幕を開け、フォアグラに合わせたアルザスのほのかに甘いリースリング、華やかなブルゴーニュのシャルドネ、そしてメインには極上のボルドーの赤が控えている。

彼は、この夜の成功を確信していた。

 

役員は「全力のもてなし」をしているが...

クリスタルのグラスがふれあい、華やかに乾杯が終わった直後だった。一品目が運ばれようとした時、ニューヨーク出身の男性が静かに口を開いた。
「申し訳ないが、私は貝類や甲殻類は食べません」

役員は、場を和ませるような屈託のない笑顔で身を乗り出した。
「えっ、なんでですか? すごく美味しいんですよ」

メニューに目を落としていたLA出身の女性も、静かに告げた。
「私は牛肉とフォアグラは避けています」

すかさず役員は、最高の笑顔と自信たっぷりの声で返す。
「日本の黒毛和牛は世界中が絶賛する最高級の肉ですから、せっかくだから一口だけでも味わってみてください」

さらに別の席では、お口直しのグラニテやワインを断ったインド出身の方に対し、怪訝そうな顔で声をかけている。
「なんで飲まないんですか? 最高のワインですよ。ホテルまでのハイヤーも手配してありますから、今日は気にせずいきましょうよ」

デザートを選ぶ段になり、中国出身の女性が「デザートはいらない」と断ると、「え、ダイエットなんて全然必要ない、抜群のスタイルです。今日はぜひ楽しんでください」と笑顔を向けた。女性も笑っている。
よし、つかみはばっちりだ。彼はますます上機嫌になる。

ボルドーが登場し、ソムリエが赤ワインの澱を慎重に確認しながら、静かにデキャンタージュをしていると、テーブルに沈滅の幕が降りた。

役員は時計をちらりと見ると、「ちょっと、ソムリエさん、まだですか?」と露骨に急かした。そして待ちきれなくなったのか、隣で肩を縮めている部下に「ほら、お前がさっさとみなさんに注いであげて」と指示を送る。
彼はあたふたと残っていたアルザスとブルゴーニュのボトルを2本両手に持ち、席を立ってついで回る。

役員に悪気は一切ない。高級食材をずらりと並べ、時間と金をかけた「全力のもてなし」をしている。しかし、なぜか、空回っている。誰も露骨に不快な顔はしない。会話が途切れることもない。
けれど、誰も彼に心を開いていないのが、透明な壁のように感じられた。

 

「親しみやすい上司」が犯した致命的なミス

ここで強調しておきます。
彼は無礼ではない。日本国内の飲み会であれば「親しみやすい良い上司」です。
日本の接待であれば特に問題がないでしょう。

しかしグローバルの食事会では、彼の振る舞いは信頼残高を下げてしまいます。それは日本と世界とで、「個人の境界(バウンダリー)」の扱い方が根本的に違うからです。
この会食で起きていた致命的なミスは、3つに集約されます。

1 相手の選択に「理由」を求めた
2 相手の選択を「矯正」しようとした
3 相手の時間と領域に「侵入」した

私は2021年からアメリカに住んでいます。その前は、フランス(ボルドー、ブルゴーニュ)、スペイン(バルセロナ、セビージャ)、ニュージーランド、イギリスと、世界中のワイン産地や都市で暮らしてきました。
それ以外にも、毎年ワインの買い付けで世界中を訪れ、現地の生産者やエグゼクティブたちとワインを共にしてきました。ワイン産地だけで26カ国、数えきれないほどの旅を重ねてきました。

その経験から体得した「グローバル・スタンダード」を知っているからこそお伝えできる、残酷な真実があります。

「日本の常識は、時に海外の非常識である」

この言葉は、会食の場において顕著に現れます。日本では違和感がなくても、海外では無意識に相手を不快にさせてしまう振る舞いがあるのです。

これから日本人が悪気なくやってしまいがちな行動を紹介します。

 

 「なんで?」と聞く

日本では、「なんで?」と理由を聞くことは「関心」の表れです。
相手を理解し、話を広げ、距離を縮めるためのコミュニケーションとして使われます。

しかしグローバルにおいて、個人の選択に対する「なんで?」は、「説明要求」として受け取られます。
飲まない。食べない。デザートを断る。
それは極めてパーソナルな個人の選択です。その選択に理由を求めることは、「あなたの選択は、私に説明されるべきものである」という傲慢な前提を含んでいます。

さらに問題なのは、この「なんで?」が常に「少数派」にだけ向けられるという事実です。日本では大多数の人は、結婚している人に「なんで結婚したの?」とは聞きません。子どもがいる人に「なんで産んだの?」とも聞きません。
そこに無意識の前提があるのです。

私は離婚しているのですが、それを知ると、「なんで?」と聞かれます(日本以外で聞かれたことは一度もありません)。
「色々あって」と濁しても、「色々って? 何があったの?」「子供がかわいそうでは?」と踏み込んでくる。

「いえ、元夫とも仲良くやってますよ。子供も父親大好きですよ」と言うと、
「じゃあなんで離婚したの?」
「前の旦那と仲がいいとか、理解できない!」
つまり、離婚しているシングルマザーは、結婚中にひどいことをされ、子供のために我慢に我慢を重ねたが、ついに離婚を決意。元夫なんて顔も見たくない!というシナリオがデフォルトになっているということです。

子どもがいない人には「なんで?」と聞く。
お酒を飲まない人には「なんで?」と聞く。

無邪気な好奇心かもしれませんが、言われる側はたまったものではありません。自分が納得できない答えだと、さらに質問する。

そこには、自分の価値観が世界のスタンダードだという思い込みがあり、自分が納得できる答えが手に入るまで聞き続けようという傲慢な姿勢があります。
多数派には聞かず、少数派には説明を求める。そこに無意識のヒエラルキーが存在していることに、世界のエグゼクティブは極めて敏感です。

 

 境界を超える

私は、定期的に禁酒をします。
アメリカでは誰も気にしませんが、日本では必ず「なんで?」と聞かれます。ワインの仕事をしていると、ものすごく酒好き、ワインを毎日飲んでいるというイメージがあるのかもしれませんが、誰にでも選択の自由はあります。

私は味覚の鈍りを自覚すると1、2カ月禁酒するようにしています。さらに、なんとなく飲みたくない日もあるし、メニューに飲みたいものがない日もあります。

でも、「なんで?」と聞かれると、私は「相手を納得させられる理由」を用意しなければならない。
私の選択は自由なはずなのに、説明責任が発生する。これが、境界を越えられるということです。

また、日本で禁酒しているというと
「禁酒とか信じられない」
「私は絶対無理」
と返されることもありますが、私は「あなたも禁酒した方がいいよ」とは一言も言っていません。でも、身体のために禁酒してるというと「自分の飲酒習慣を責められている」と感じ、防御本能が働く人が一定数いるようです。

さらに、私は2年前からカフェインを取らないようにしているのですが、コーヒーは大好きです。日本出張に行くと、コーヒー専門店以外だとデカフェがない店も多く、あってもインスタントコーヒーと残念な場合が多いです。

ある席でデカフェを頼むと、同席者から「ご妊娠ですか?」と聞かれたこともあります。
なぜ、私が水やデカフェを選ぶことに「他人が納得する説明」が必要なのでしょうか。
それが「境界を超えている」という問題です。

他の人が何を食べているのか、何を飲んでいるのか、どうして自分とは違うことを選んでいるのか、気になる。そして、「なんで」と聞いてしまう。

 

多様性が理解できない

日本社会は「同じであること」に安心する文化です。
飲まない人がいると、場が揺らぐ。デザートを断る人がいると、空気が少し変わる。だから、揃えたくなる。これは排除ではなく、不安の解消なのです。
しかしグローバルでは、揃えないことこそが多様性とみなされています。

日本では、多様性を「男女比」や「年齢」といった数値で測ろうとします。
しかし本当の多様性とは、「前提の違いを想像できる」ことです。

例えば、先ほどのニューヨーク出身のアメリカ人はユダヤ系でした。
ユダヤ教では、ヒレと鱗のない海の生物は食べません。つまり、魚は食べられても、イカ、タコ、エビ、貝類などは食べません。肉と乳製品を一緒に摂りませんし、コーシャ認証のワインしか飲まない場合もあります。

インドには歴史的に厳格なベジタリアン文化があります。
ベジタリアンとヴィーガンは混同されることもありますが、卵や乳製品を摂るかどうかなど、その内容は個人の価値観によって異なります。

アメリカでは環境への配慮や動物愛護の観点から牛肉を避ける人は珍しくなく、ごく普通のハンバーガー店にもプラントベース(大豆など植物由来の代替肉)のパティが並び、多くのラーメン店にはヴィーガン対応のラーメンがあります。

多様性への配慮とは、少数派を特別扱いすることではなく、「少数派を最初から想定しておくこと」なのです。

プロフィール

今野有子(こんの・ゆうこ)

株式会社アルムンド代表取締役/Philosophy Technologies inc. Co-CEO

早稲田大学商学部卒業後、武田薬品、リクルートエージェント(現リクルート)で法人営業を経験。ニュージーランド、スペイン、フランスに留学後、株式会社アルムンドを創業し、ワインを通じて、新たな市場と顧客体験の創出に取り組んできた。ファイナルファンタジー30周年記念ワイン(スクウェア・エニックス)をはじめ、ヤマハ、NTTドコモ、東急不動産、関⻄電力グループなど、多業種にわたる大手企業とのコラボレーションを実現。ワインの輸入販売にとどまらず、ボルドーやブルゴーニュ、ロンドンで得たワインの知見を活かした、さまざまなイベント企画、高級旅館やミシュラン星付きレストランなど、ハイエンド顧客層向けのコンサルティングを多数手掛ける。これまで6カ国で4言語を用いつつ生活した経験から培った多文化的な視点を強みとして、現在はシリコンバレーを拠点に、哲学的思考を活用したビジネスをグローバルに展開している。

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